表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/206

153 嘘つきの末路

『いやぁ! まんまと騙せましたね!

 本当にチョロい連中でしたよー!』


 女が掲げたのはICレコーダー。

 大音量で流れる俺の声。


『あいつら泣いて喜んでましたけど、

 騙されたって全く気付いてなかったですねぇ。

 本当に馬鹿な奴ですよ!』

『くくく……お前も悪い奴だな。

 あんな笑顔で嘘をつける奴を初めて見たぞ』

『褒めたって何も出ませんよ?

 それより早く次の仕事を紹介して下さいよ。

 今度は誰を騙せばいいんです?』


 会話の相手は高橋。

 あいつ……俺との会話を録音していたのか?!


「おい! なんだそれは!

 嘘っぱちを流すな! やめろ!」


 俺は無理やり女からICレコーダーを取り上げる。

 すると、今度は別の者が懐からスマホを取り出し、録音していた音声データを流し始めた。


『……いい感じの子たちだね

 さっさと有り金むしり取って奴隷にしちまいな』

『今回もうまくいきそうですよ。

 ありがとうございます、加藤さん』

『聞いたけど、本部へ呼ばれたんだって?』

『ええ……まぁ……』

『特別に目をかけてやった甲斐があったよ。

 鼻が高いってもんさ』


 加藤と俺の会話。


 まさか……あの婆!

 アイツまで俺との会話を録音していたのか⁉


『それで……そろそろですかね』

『うん、ちょっと何件か揉めてるみたいだから。

 すぐに『解散』すると思う。

 あの二人、データ買ってくれそう?』

『ええ、すでに金融屋を紹介しましたよ。

 偽造データもすでに渡してます。

 そちらは?』

『ふふふ、こっちも順調だよ』


 山田との会話……あいつもかよ!


「おい、これって……」

「……マジかよ」


 青い顔をするタクヤとコーヘイ。


 次々と暴露される俺の裏の顔。

 他のメンバーも不信感をあらわにする。


「待ってくれみんな!

 これは嘘だ! 嘘っぱちだ!

 音声なんて簡単に合成できるし、

 よく似た声の別人の可能性が……」

『往生際が悪いぞ、小日向』


 高橋の声が聞こえる。

 社内放送用のスピーカーから流れてきている。


『お前の行動履歴は全て記録してある。

 組織が保存しているデータをすべて見せれば、

 全員がお前に騙されていたと気づくだろう。

 いい加減に諦めろ』

「だっ……黙れ!」

『早く自分が置かれた立場を理解しろ。

 もう誰もお前を信じてはいない。

 命が惜しかったらすぐに立ち去ることだ』

「俺を殺すつもりか⁉」

『ククク……最初からそのつもりだ。

 殺すのは俺ではなく、そこにいる連中だがな』


 高橋の言葉にハッとして視線をみんなの方へ向ける。

 潜入していた工作員たちが、ナイフや警棒などの武器を配っている所だった。


「まっ……待てよ!

 それで何をするつもりだ?!」

「よくも……よくも俺たちを騙したなっ⁉」

「殺してやる!」


 武器を受け取ったメンバーは目を吊り上げて襲い掛かって来た。

 慌てて会議室から飛び出て階段へと向かうが……。




 バタバタバタ!




 下の階から何人もの男が駆け上ってきている。

 おそらく組織のエージェントたちだ。


 逃げ場を失った俺は仕方なく上へと逃れた。

 全力で駆け上がって屋上へと出る。


 星が瞬く美しい夜空。

 冷たい風がほほを撫でる。


 置いてあった椅子やテーブルなどでバリケードをするが、破られるのも時間の問題だろう。

 俺はどうにかして脱出できないかと屋上を見て回る。


 しかし……隣のビルまで距離がありすぎる。

 飛び移るにしても無理そうだ。




 ぴりりりり!




 携帯が着信。

 知らない番号。


 出ると高橋の声が聞こえる。


『ククク……どうやらチェックメイトのようだな。

 お前の命運もようやく尽きたか』

「頼む! 助けてくれ!」

『今更後悔しても、もう遅い。

 組織は裏切り者を決して許したりはしない。

 だがしかし……お前にはチャンスが残されている』

「え? チャンス?」

『下を見てみろ』


 俺は言われるまま欄干から身を乗り出し、通りを見下ろす。


 すると高橋が一人で立っていて、スマホを片手にこちらを見上げているのが見えた。


『そこから飛び降りてみろ。

 もしかしたら助かるかもしれんぞ』

「ふざけるな! 死ぬに決まってるだろ!」

『ああ、十中八九、助からないだろう。

 だが死ぬと決まったわけではない。

 一縷の望みにかけて飛び降りてみろ』

「無理に決まってる!

 このビル7階建てだぞ⁉」


 屋上から地面までかなりの距離がある。

 落ちれば間違いなく即死。


 高橋は俺に死ねと言っているのだ。


『ああ……そうだ。

 ギリギリ助かるかもしれない高さ。

 お前なら生き残れるはずだ。

 自分を信じろ』

「クソがっ……ぶっ殺してやる!」

『ならすぐに俺を殺しに来い。

 飛び降りればすぐだぞ。

 ククク……アハハ!』


 俺が困っている様子を見て楽しそうに笑う高橋。

 なにがそんなに面白いんだ!




 ばたんっ!




 屋上へ続く扉が開く。

 中から目を血走らせた元顧客たちが飛び出してきた。


「ぶっ殺してやる!」

「殺せぇ!」

「死ねっ! 死ねぇ!」


 異常なほど興奮している。

 もしかして……飲み物に何か混ざっていたのか⁉


『飛べよ、小日向』


 高橋の声。

 俺はその声に背中を押されるようにして、欄干から身を乗り出す。

 そのまま――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ