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 俺はある決心を固めた。


 今まで関わって来た『顧客』たちと連絡を取り、実際に顔を合わせて話をする。


 特に重要な話をするでもなく、近況報告をしあうだけ。

 と言ってもなんの目的もなく会いに行ったわけじゃない。


 俺は『顧客』の中から何人か有望なものを引き抜いて、自分の組織を作ることにした。詐欺やマルチではなく、まっとうな仕事をする会社を設立するのだ。


 もちろん、山田や高橋には話していない。


 数日したら山田を通じて高橋に辞意を伝える。

 組織とはこれ以上、関わるつもりはない。


 今までずっと悩んでいたけど、これで気持ちが晴れた。

 実際に動き始めると物事がスゴイスピードで進んでいく。


 まとまった数の『顧客』が集まり、自分の組織を立ち上げる目途がついた。

 これからはまっとうに生きて行こう。

 そうすれば――




 ――そうすれば、母さんにも顔向けできる。

 もう後ろめたい思いをしなくても済む。








「「「「おめでとうございまーす!」」」」


 部屋に集まった俺の仲間が一斉にクラッカーを鳴らす。

 パンパンとはじける音が俺を祝福してくれた。


 なんとか開業にこぎつけた俺は明日から新しい仕事を始める。

 営業を代行する小さな会社だが、少しずつ大きくしていくんだ。


「みんなありがとう!

 明日からよろしく頼むよ」

「一緒に頑張っていくッスよ社長!」

「いやぁ、本当に斎藤さんについて来て良かった!」


 タクヤとコーヘイの二人も連れて来てた。

 この二人はなんだかんだ言って仕事もできて優秀だ。借金も弁護士を挟んで債務整理を行い、組織との関係も完全に断っている。法律を盾にすれば手出しできない。


 社長とか呼ばれているが、社長は別にいる。もと顧客の中から適当な人物を選んで任命した。

 組織のトップでいるよりも、一社員の方が目立たないし動きやすいと考えた。

 なので俺の肩書は会社員のまま。


 他の組織を脱退したメンバーたちも、俺を信頼してくれている。

 今まで十分に面倒を見てやったからな。こまめにメンテしておいてよかったよ、ほんと。


 パーティー会場は会社の会議室。

 テーブルの上にオードブルやスナック菓子などが並べられ、飲み物は瓶ビールとチューハイ缶。

 使い捨てのコップで乾杯して思い出話に花を咲かせる。


 今まで俺の嘘が露呈したことはないが、これからも大丈夫なはず。設定や振る舞いも一貫している。俺の態度に違和感があるとか、今までの言動や設定に矛盾がでることはない。


 完璧だ。

 俺は完璧にやって来たはずだ。


 なのに……。




 とるるるるるぅ!




 誰かのスマホが鳴る。

 社員の女の子が電話に出ると、しばらく何か話した後こちらを見た。


「はい、小日向・・・さんに代わりますね」


 彼女はそう言って俺に自分のスマホを差し出す。


「え? なに言ってるの?

 俺、斎藤だけど?」

「いいから、早く出てください」

「あっ……ああ」


 恐る恐る電話を替わる。

 すると聞きなれた声が聞こえて来た。


『俺だよ、小日向。久しぶりだな』

「……高橋っ」


 スマホの向こうから聞こえてきたのは高橋の声だった。


『うまく逃げおおせたつもりのようだが、甘かったな。

 お前にはずっと監視が付いていたんだよ。

 顧客の何人かはお前の監視役だったわけだ』

「俺はもうお前たちとの関係を断ったんだ。

 今更、俺になんの用だよ?」

『なんの咎めもなく抜けられると思ったか?

 組織の奴隷しょゆうぶつを連れて逃げたお前の罪は重い。

 素直に一般人に戻ればよかったものを。

 欲を出したのが仇になったな』


 高橋は淡々とした口調で話し続ける。

 俺が動揺しているのを見て、みんな不安そうに様子を伺っていた。


「話なら後にしてくれ。

 いま大事な時なんだよ」

『ああ……せっかく門出を祝っていたのにな。

 水を差すような真似をして申し訳ないよ。

 だから手短に済ませよう。

 お前にとっての楽しい時間もこれで終わりだ。

 嘘の魔法によって幻を見ていた哀れな子羊たちを、

 現実の世界に引き戻してやろうじゃないか』


 楽しそうな高橋の声。

 聞いているだけで背筋がぞわぞわする。


「何を……するつもりなんだ?」

『見てからのお楽しみだ。

 と言っても、特別なことをするわけじゃない。

 嘘で築いた関係など、土台を引き抜けば簡単に崩れる。

 ただそれだけのこと』




 ぶつっ。




 電話が切れる。

 いったい何をするつもりだ?


 不安に思っていると、スマホを渡してきた女がある物を掲げた。

 それは……。

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