142 冒険者という職業
冒険者という職業がある。
主にギルドによって斡旋される仕事を受注して報酬を得るフリーランスの総称。
彼らは傭兵として戦地へ赴き、要人や輸送物資の警護を行い、魔物やゴブリンから家畜や農作物を守ったりもする。
相手が人だろうが、魔物だろうが、亜人だろうが、武器を手に戦う勇敢な戦士たち。
……というイメージが強いが、実際はそうではないらしい。
実は、戦闘に参加する冒険者はごくわずかで、ほとんどはサポート要員だそう。
物資の運搬。
偵察と情報収集。
戦利品の鑑定、および売買に関する交渉。
治療や解呪。
罠の設置及び解除。
調理や物品管理などの雑用。
などなど。
先頭に立って戦う実戦部隊を支援するために、多くの後方支援を担当する人員が必要になる。
なので、まったく戦わない冒険者も多いのだとか。
特にダンジョン探索では、大勢の人員が必要になるらしく、チームを組んで攻略に臨むのが一般的。
ちなみに、ダンジョンというのは洞窟とか廃墟とかに不思議な力が宿り、そこから魔物が自然発生するようになった土地や建築物のことを言う。
放っておくとどんどん危険な生物が外へ出て来て人を襲うので、早めに潰さないといけないらしい。
ダンジョン潰しに成功すると多額の報酬が支払われる他、その中でしか手に入らない貴重なアイテムとかも見つかるという。
かなりおいしい仕事に思えるが……挑戦する者は少ない。
何故か。
死ぬ危険性が高いというのもあるが、一番の理由は割に合わないからだろう。
ダンジョンを攻略するにはかなりの資金が必要になる。
大量の物資に、大量の人員。
普段バラバラに行動しているフリーランスの集団がどんなに頑張っても、集められる資金には限りがある。
もちろん、ダンジョン攻略を専門に行う集団もいるらしいが、少数派でおまけに数も少ない。
そして何より利益重視の集団なので、少しでも攻略難易度が高いと判断すると手を引く。
冒険者の職に就くのはゴミスキルの持ち主がほとんど。
何故なら、有用なスキルの持ち主は全て、英雄学校に取られてしまうから。
冒険者の仕事に就くのは、スキルガチャでハズレを引き、経済的に豊かでなく、まともな職業につけなかった者たち。
つまりはこの世界の最底辺の連中。
英雄学校に通っていた傭兵科の生徒よりも、さらに不遇な扱いを受けているのかもしれない。
そのため、ろくな人員が集まらないので、英雄学校に直接依頼が寄せられることもあるという。
ダルトンが魔物討伐の依頼を受けたのは、そう言う背景があったからなのだ。
普通だったら未成年の学生に魔物を倒してくれなんて頼まないからな。
「というわけで、さっそく登録に行きましょう」
「今の話を聞いて、俺が乗ると思うか?」
ファムの話を聞いて、俺はうんざりした気分になった。
最低最悪の仕事をさせようとしてるわけだからな。
勘弁してほしい。
「ですが、他に働き口はありませんよ?」
「ううん……そうなんだよなぁ」
あれから色々と頑張って仕事を探してみたが、低賃金の肉体労働の仕事しか見つからなかった。
あとは何年も修行する職人の仕事とか。
多少は稼げたとしても、俺一人ではとても6人分の生活費を捻出できない。
ソフィアとマイスは学業があるので働けない。
アルベルトとセリカはそもそも働く気がないらしく、宿で何もしないで過ごしている。
あの人たち、本当に元英雄なのか?
アルベルトを冒険者として働かせるという手もあるが、それはファムに反対された。
いくら何でも英雄にそんな仕事はさせられないという。
一応、名声はあるので、利用価値がないわけではないのだが……彼に頑張ってもらうのはもう少し先になるかな。
まぁ、本当に困ったら助けてくれるんだろうけど、今はまだその時ではない。
……と思う。
「それに、もうギルドの前まで来ていますし、
とりあえず登録を済ましてしまいましょう。
その後で悩めばいいのですよ」
「だよなぁ」
「私も協力しますので」
「……頼んだぞ」
ファムは戦闘面では役に立つ。
こいつがいれば死ぬことにはならないと思う。
けど……やっぱり不安だ。
冒険者ギルドは古い屋敷を改装して作られた建物で、かなり年季が入っている。ボロボロの見た目とは裏腹に、中からはすさまじい熱気が噴き出していた。
外に聞こえるくらい騒がしい声が響いている。
この中に入ると思うだけで、気が引ける。
しかし、ウダウダ言っていても何も始まらない。
「よし、じゃぁ行くか」
「ええ」
俺はファムと共に、冒険者ギルドの門をたたいた。




