140 全員追放
「ええっ……それでは第一回。
フォートン家、家族会議を開催したいと思いまーす」
「「「ぱち、ぱち、ぱち」」」
俺の言葉にまばらな拍手で答える一同。
着の身着のまま。
カバンに詰め込められるだけの荷物を持って屋敷から追い出されたフォートン家の面々。
何もない真っ暗闇の暗い小道。
その脇で小さなたき火を囲み、地べたに腰を下ろしてぼんやりと炎を眺めている。
なんとも絶望的な状況だ。
俺とソフィアは学生寮で生活していたので、住まいを失ったのは実質アルベルトとセリカの二人だけ。
ファムは報告のために学校と屋敷を頻繁に行き来していたが、寮の方に泊まっていた。
あまり状況は変わってないように思えるが、両親の住まいをどうするか考えなければならない。
「とりあえず……どこか泊まれる場所を探して……」
「マイスにお願いするのが一番ではないですか?
学校へ行って彼女に部屋を用意させましょう」
ファムが言う。
いや……その選択は確かに俺も考えたさ。
でもね、婚約解消された相手の所へ押しかけて、頼むから両親を泊めてくれとお願いするのは人としてどうなの?
すでにお世話になりまくってる俺が言えた立場じゃないけどさ。
一応は使用人としての立場があるし、住み込みで働かせてもらっていると言えば面目も守られるだろう。
でも……両親の面倒まで見てくれなんてお願いするのは、それもうなんか違うと思うんだよね。
とりあえずの問題は、アルベルトとセリカの二人の住居。
二人が安心して暮らせる場所が見つかれば問題は解決する。
いや……しないけど。
「私もマイスにお願いするのが一番だと思う。
……ダメかな?」
ソフィアもファムと同じ意見か。
俺はちょっと同意しかねるのだが……。
「ほら、母さん。星がきれいだぞぉ」
「そうね……ふふふ」
夜空を見上げて幸せそうにする両親。
現実逃避しているのだろうか。
そんな二人を見ていると物悲しい気分になって来る。
俺にとっては実の両親というわけではないのだが……。
「二人が安心して暮らせる場所を探すべきだと思う。
何から何までマイスを頼るのは違うだろ」
「ですが……今日の今日まで、
何もしてこなかったではありませんか。
本当に二人を助けるつもりがあったのでしょうか?」
ファムがジト目で俺を見ながら言う。
確かに……何もしてこなかったさ。
でも、俺なりに考えてたんだよぉ。
実は、何人かの生徒に、住居を提供できないか打診していた。
しかし……かつての英雄を自宅に招くほど余裕がある者はおらず、空振りに終わってしまったのだ。
俺のスキルで関係を作れたのは、身分の低い生徒ばかり。
有力貴族の生徒とかは逆に俺から距離を置いて近づこうとしなかった。個人情報を抜かれると警戒していたらしい。
「もちろんあったよ。あったけど……」
「結果が出せなかったと?
それは何もしなかったのと同じだと思いますが」
「こういう時まで辛らつだよな、お前。
逆に聞くけど、何か対案はあるのか?」
「ありませんが、なにか?」
堂々と居直るんじゃねぇよ。
何もできない駄メイドだな、まったく。
しかし……このままだと本当にマイスを頼らざるを得ない。
ドゥエリノに近づくなとくぎを刺されて直ぐだが……仕方ないか。
「あっ、マイスだ」
「……え?」
ソフィアが立ちあがって言う。
道の向こうからカンテラを持ったマイスが歩いて来るのが見える。
早速助けに来てくれた……のか?
どうも様子がおかしいな。
だって……妙にでっかい鞄を持っているのだ。
迎えに来たのならカバンなんて必要無いと思うのだが……。
「マイス! 遅いですよ!
どうしてもっと早く来なかったんですか!」
ファムが言う。
こいつはマイスを頼ることしか頭にないらしい。
「すみません、遅くなりました。
皆様の現状を聞いて、何とかできないかと思い、
母に交渉していたのです。
その結果……わたくしは家を追い出されることになりました」
「「「「……え?」」」」
一同、マイスの言葉に硬直する。
「あの……なんで?」
「アルベルトさまを始め、フォートン家の方々を、
フィルドの屋敷へ迎え入れるべきだと訴えたのです。
ですが母は首を縦にはふりませんでした。
仕方なく彼女の頬をひっぱたいたところ、
絶縁を申し付けられまして……」
そうか、そうだったんですか。
絶縁申し付けられましたか。
「屋敷から追い出されただけでなく、
占有していた学生寮のフロアも引き払うと言われました。
わたくしには皆様を助ける力がありません。
というか……逆に助けてほしい……のです」
マイスは気まずそうに言う。
どーすんの、これ?




