１４ お気に入り登録するとできること
「むすぅ……」
「むぅ……」
ふくれっつらの二人。
俺たちは三人でテーブルを囲うが、彼女たちはお互いに顔を背けたまま口を利こうとしない。
「……どうぞ」
「あっ、すみません」
ファムさんが三人分のお茶を入れてくれた。
普段俺が飲んでいた奴よりもずっといい匂いがする。
これが本物の茶葉なのか？
紅茶があるとなると、日本だけでなく、この世界には中国も存在しているのかな？ それとも全く別の国が紅茶を生産している？
まぁ……どうでもいいか。
「あの……二人とも、何か話があるんじゃないのか？」
「そうですわ！
これからのことをお話しないといけませんの！」
マイスが勢いよく両手をテーブルに叩きつける。
「これからも何も、婚約破棄したくせになに言ってるの？
マイスはもう無関係の人なんだから、
私のウィル様に関わらないで欲しいな」
「婚約破棄なんてしていませんわ。
確かに、お母さまはそう宣言されましたけれど、
次期当主のわたくしなら簡単に取り消せますの。
私は今も、ウィルフレッドさんの婚約者ですわ」
「はぁ⁉ なにそれ、意味が分からないんだけど？
婚約破棄なんて取り消せるはずないでしょ⁉
馬鹿なの⁉ 死ぬの⁉」
「あらあら、何をムキになっておられるの？
わたくしとウィルフレッドさんが結婚するのが、
そんなに悔しいのかしら。
あっ、もしかして嫉妬しているとか？」
マイスは両手を合わせてわざとらしく表情を作って笑う。
「嫉妬ぉ？ 嫉妬してるのはそっちでしょ？
お母さまが勝手に婚約破棄して残念でした。
ウィル様と結婚するのは私でーす！」
「あらあら、あらあらあら。
強がりを言って可愛らしい。
わたくしがすでにゴールインしている事実を、
素直に受け入れられないのですね。
なんとまぁ……可哀そうに」
「ふんっ、カワイソーなのはそっちでしょ？」
「わたくしの家で下女として雇ってもよくってよ。
二人の愛を見せつけてあげるですわ」
さっきからまったく会話が噛み合ってねーな。
こいつら自分勝手に話しすぎだろう。
一応……この二人もお気に入り登録しておくかな。
どんな意味があるのか分からないけど……。
「あの、ウィルフレッドさま。
ステータス画面をいじったりして何を？」
「あっ……いや、これは……。
ちょっと調べたいことがありまして」
「……はぁ」
ファムは首をかしげる。
彼女にはお気に入り登録の画面が視認できないようだ。
怪しまれる行動は慎んだ方がいいか？
それとも正直に話す？
ううん……どっちがいいのかな。
とりあえず俺は二人をお気に入り登録する。
一応、プロフィールも見ておくか。
まずはソフィアから。
『貧しい家庭で生まれ、幼少期のころに両親が他界。親戚の家に引き取られるも三日で追い出される。路上生活を送っていたところを教会に保護されるが三日で追い出される。その後も各地を転々として、何度も三日で追い出されながら英雄学校へたどり着いた。アルベルトが後見人となり、三日で追い出されそうになりながらも学業に励んでいる』
……なにこれ。
三日で追い出されすぎだろう。
ウィルフレッドとはどんな関係だったのかな？
この子のことはあまり日記に書いてねぇんだよなぁ。
彼女の総獲得ポイントは２８０５ｐｔ。
ファムは一万超えていたので、それと比べるとずっと少ない。だとしたら大してステータスも高くないはずだ。それなのにあの強さ？ ステータスってあんまり意味ないの？
ソフィアの強さについては置いておき、次はマイスだ。こっちは……。
『フィルド家には子供が一人もおらず、当主と本妻の間に子供が生まれなかった。側室との間に生まれたマイスは養子として……』
えっ……ええっ。
ええええええええ⁉
俺は思わずマイスの顔を見つめてしまった。
「あら……どうかされましたの？」
「いっ、いや……なんでもない」
きょとんとするマイス。
俺は思わず顔を背けてしまった。
プロフィールの続きを読む。
『……養子として迎え入れられた彼女はフィルド家の嫡子となる。以後、英才教育を施された彼女は次期当主としての器を身に着け、周囲からも尊敬されている』
よかったね。
いや、よくねーよ。
何気なくお気に入り登録したら、とんでもないヒミツを知ってしまった。彼女は気付いているのだろうか？
まぁ……深く考えないでおこう。
他人の家の事情に首を突っ込むわけにもいかないし。
しっかし……これ、考えようによっては恐ろしい機能だな。
本人さえ知らない情報を平気で暴露してくる。
気軽に他人を登録して良い機能ではない。
……うん？
下の方になんか書いてあるな。
お気に入りポイントを投入しました？
……なんだこれ？
