137 ソフィアにエッチな情報を与えてはならない
「まっ……待って!」
俺がキスをしようと口を近づけると、彼女は慌てて顔を反らした。
ううん、イキナリはまずかったか?
もう少し雰囲気を作ってから……うん?
なんだか焦げ臭いぞ。
「なぁ……ソフィア、もしかしてだけどスキルが……」
「あっ! ごめんなさい!」
慌ててスキルを解除するソフィア。
手で顔を仰いで熱を冷まそうとしている。
もしかして……キスをしようとしただけで、スキルが暴走しかけたのか?
「大丈夫かソフィア?
もしかしてまだスキルを完全にコントロールできてない?」
「うん……何かあると身体が熱くなっちゃうんだ。
恥ずかしかったり、びっくりしたりすると」
ううむ……彼女は少しでも恥ずかしくなると、熱を発してしまうのか。
どうすんのこれ。
キスしようとしただけで焦げ付くとか……やべぇ。
武器を探しに傭兵科の校舎へ行ったときは自分からせがんできたくせに、こちらから迫ると恥ずかしくなるんだな。
はぁ……行けそうなら、このままソフィアと……なんて考えていたのだが、無理そうだ。
下手したら俺が火だるまになる。
こんな子を抱いて妊娠させろだなんて、アルベルトも無茶ぶりが過ぎるぞ。
ソフィアを助ける前に俺が焼死してしまう。
なんというか……カマキリやジョロウグモのオスになった気分だ。
命を代償にして行為に臨むなんて、あまりに過酷すぎる。
臥所を共にしようものなら、俺は確実に命を失うだろう。
「ごめんね……。
いきなりキスされそうになったから、
びっくりしちゃって……」
「謝る必要はないよ。
むしろ俺の方こそ、ごめ――」
ばったーん!
言いかけたところで、突然扉が開いた。
ファムとマイスが血相を変えて駆け込んでくる。
「ちょっと来てもらいましょうか」
「危うく大爆発が起きるところでしたわ!」
「なっ⁉ なんだよ急に⁉」
俺はファムとマイスに両脇を抱えられ、部屋から無理やり連れだされる。
「え? どうしたの⁉ なんで⁉
どうしてウィル様を⁉」
「ソフィアはそこでお待ちになって下さい。
ウィルフレッドさんにお話がありますので!」
「え? え?」
混乱するソフィアを置き去りにして、二人は俺を別の部屋へ連行。
入室するやいなや鍵をかける。
どうして閉じ込める必要があるんですか⁉
「あの……俺が何かしたでしょうか?」
正座した俺は、鬼の形相で仁王立ちする二人に問いかける。
「まさかとは思いましたけど……
ソフィアにキスをしようとするなんて……命知らずな!」
マイスが言う。
「え? え?」
「聞いていたはずだと思いますが。
彼女は自分のスキルを完全にコントロールできていないと」
ファムが言った。
「確かに……そう聞いてたけど……キスだけだぞ。
ちょっとキスしたくらいで……そんな大げさな」
「大げさではありませんわ!
学校の近くにクレーターがありましたわね?」
「え? ああ……そういえば……」
演習場の近くに巨大なクレーターがあったな。
あれがどうしたって言うんだ?
「あのクレーターはソフィアが作ったものですわ。
でも、ただ能力を発動したのではなく、
エッチな本を読んで興奮して爆発したのです!」
「ええっ……?」
マイスの言葉に耳を疑う。
クレーターがエロ本のせいって……マジなのか?
「それ……本当なのか?」
「ええ、ソフィアさんの能力を解明するために、
様々な実験が行われました。
中でもエロ本を用いた実験では、
あのような大きな爪痕を残す結果となり……」
ファムは両腕を組んで身震いする。
よほど恐ろしい出来事だったんだな。
ソフィアはエッチな情報に少しでも触れると、恥ずかしくなってスキルを発動してしまうそうだ。
完全に制御を失った状態で発動するので、大きな被害が出るらしい。フォートン家もそれで何度か全焼しかけたとか。
始末の悪いことに、ソフィアは暴走後に直近の記憶を消失してしまう。
せっかく仕入れたエッチな情報も全てリセットされる。
つまり……彼女はずっと初心なままなのだ。生殖行為に関することは何も知らない上に、耐性が全くつかない。
予期せぬ形でエッチな情報に触れれば、間違いなくスキルが暴走する。下手をすれば屋敷を吹き飛ばす威力の大爆発が起きるかもしれない。
最悪な状況である。
ソフィアは男女が関係を持って子供ができると知っているはずだが……どういう方法で行為に及んだら女性が妊娠するのか、細かいプロセスまでは知らないのだろう。
もしかしたら本気でコウノトリさんみたいなのが連れてくるとか思ってそう。
「以降、フォートン家はエロ本厳禁となりました」
「お前が持ってる例のアレはいいのかよ?」
「もし仮にアレを目にしたとしても、
何を模したものか、ソフィア様は理解できません。
それほどまでに初心なのですよ」
「ってことは……」
男の裸を見たことがないのか……。
だとしたら生殖行為を行うのはほぼ無理だろう。
そう言う情報を伝えるたびにスキルを暴走させているようでは、適切な性知識を身に着けることはできない。
俺が彼女とそう言う行為に及べば、100%焼死する。
間違いない。
……詰んだな、これは。
「不用意にソフィアを刺激したら、
何が起こるかわかりませんわ。
今後はもっと慎重になって下さい」
「ああ……分かったよ」
マイスの言う通り、ソフィアを下手に刺激するのは良くない。
キスも当分お預けだな。
「それはそうと、サトルさま」
唐突に胸元をはだけさせるファム。
「これから三人でいかがでしょうか?」
「遠慮しておく」
「さぁ、マイスもさっさと服を脱いで」
「おい」
どうやらファムは発情期にでも入ったらしい。
本当に勘弁してくれ。
「あの……わたくしはその……」
オロオロとするマイスだが、安心しろ。
俺にその気はないぞ。
「さて……どれを使いましょうかね?」
「ソフィアあああ! 助けてくれえええ!」
ファムが例のアレを取り出したところで、俺はソフィアに助けを求めた。
本当にコイツ、どうにかしてくれ。




