127 成功する保証などない
「機械って……たとえばあれか?」
俺は離れた場所に転がっている魔道艇の動力を指さして尋ねる。
「ああ……アレな。
まぁ、動かせなくもないけど……ううん。
なんにもならねぇと思うぞ。
壊れてるし、変な風に反発してはじけ飛ぶかもしれねぇ」
はじけ飛ぶ?
それってつまり……。
「あれを使えば、物が飛ばせるってことか?」
「まぁ……飛ばせなくも無いと思うけど……」
ダルトンはあいまいに答える。
こいつもアレの使い方はよく分かっていないらしい。
「なぁ……なに考えてんだ? まさか……」
「そのまさかだよ。
あれで物を飛ばして攻撃するんだ。
例えばあの……」
動力球体に突き刺さっている棒。
あれなんかちょうどいいじゃないか。
「バカじゃねーの?
当たるはずないだろ」
「お前がLUKを消費してくれたら、
もしかしたら当たるかもしれないだろ」
「いや……無理だろ、絶対」
やってもいないのに無理だと決めつけるのか?
まぁ……確かに。
あんなものを使って敵を攻撃しようなんて、発想自体がおかしいと思う。
しかし、この状況で何もせずに手をこまねいていたら、死ぬのを待つだけだ。
とにかく今は何か行動を起こして抗いたい。
コルドに一泡吹かせてやるのだ。
「たしかに無理かもしれない。
でも、このまま何もしないで殺されるのは嫌だろ?
どうせ逃げても捕まって殺されるぞ」
「ううっ……そうだな……」
「だったら、力を貸してくれよ。
俺たちで協力してマイスを助けるんだ。
なんの意味もなかったとしても、
やらないまま終わるよりもずっとマシだぞ」
「そうかも……しれないな」
ダルトンの説得に成功したようだ。
力を貸してはくれると思う。
しかし……どうやって攻撃を当てるかだが……それについては考えがある。
俺はダルトンを連れて動力球体の所へ。
深々と突き刺さった鉄の棒により完全に破壊されているが、どうやらこれでまだ力を失ってはいないらしい。
「なぁ……本当に動くのか、コレ?」
俺は動力球体の表面を手でなぞる。
ざらざらした触感で妙に冷たい。
「ああ……INTを消費すればな。
さすがに船は飛ばせないと思うけど」
「だろうな」
こんな謎の装置で船を飛ばしていたのだから驚きだ。
いったいどういう原理なんだろう?
ダルトンはこれに触れてINTを消費すれば、推進力となるエネルギーが発生して、近くにある物体が吹き飛ぶらしい。
本来であれば、そんな危険な行為は絶対にしてはならないし、ましてや破損して正常に動かなくなった動力源を作動させたら、何が起こるかもわからないとか。
これは下手したら死ぬかもしれない。
「この鉄の棒だけを都合よく吹っ飛ばせないか?」
「ううん……どうだろうな?
爆発はしないと思うけど、
正確に狙った方には飛んでいかないと思うぞ」
「LUKを消費しても?」
「ううん……」
ダルトンには確証がないらしい。
そりゃそうだよな。
試しに少しだけ作動させて実験するか?
そんな暇は無いと思うが……。
「あがああああああああ!」
マイスの悲鳴が聞こえる。
彼女は大きくのけぞりながら、数メートル吹っ飛ばされていた。
コルドはさらに追撃を加え、いくつもの水の弾丸を放っている。
いつの間にか完全に攻守が逆転していた。
マイスは身を守るだけで精いっぱい。
次から次へと攻撃され、まったく反撃できていない。
このままでは――!
「ダルトン、時間がない。
成功する保証なんていらない。
とにかく彼女を助けたいんだ」
「分かった、どうなるか知らねぇけど……手を貸してやるよ」
俺とダルトンは力強く手を取り合う。
タッグを組むっていうのは、こういう感じなんだろうな。
俺たちは二人で鉄の棒が飛び出ている個所をマイスたちの方へと向ける。
この状態で敵に命中するとはとても思えない。そもそも鉄の棒がちゃんと飛んでいく保証もない。
しかし……なんとかなる気がしている。
根拠のない自信が俺の背中を後押しするのだ。
まるで誰かが俺たちに勝利しろと言っているように。




