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124 嘘が真実になる物語

「嘘が本物に?」


 俺の言葉を聞いて、コルドは眉をひそめる。


「ああ、主人公が協力してくれるのなら、

 なんだってできるだろ。

 この世界を作り替えることだって可能さ。

 だから……嘘を本物にする」

「それに意味があるのかしら?

 嘘って、所詮は虚構でしょう?

 本物にすることに、なんの意味が?」

「それは……」


 嘘は人を欺く。

 真実を隠して、暗い闇の底へ陥れる。

 他人を貶め、惨めな姿をあざ笑う。


 嘘は悪だ。

 誰かが言った。


 でも……嘘は人を不幸にするだけじゃない。

 幸せにもできるんだ。


 他人を思うからこそ嘘をつく時もある。

 思いやりのある嘘は人を幸せにする。

 不幸な出来事を回避するために、あえて嘘をつくこともある。


 真実が明らかにならなければ、嘘が真実となる。


 幸せな嘘で満たせば。

 看破できない完璧な嘘で覆いつくせば。

 世界はもっと幸せになる。


 俺はそう信じている。

 だから――


「この世界で苦しんでいる全ての人に、

 幸せな夢を見せてあげたい。

 世界を優しい嘘で満たして、

 全ての人が平等に幸せになれる世界を作りたい。

 それが俺の『願い』だ」

「なっ……何を言っているの……あなたは?

 世界を嘘で満たす? 正気なの?」


 俺の言葉に若干引き気味のコルド。

 彼女には俺の崇高な理念が理解できないらしい。


「ああ、もちろん正気だよ。

 俺はこのクソみたいな世界を作り替えて、

 誰もが幸せに過ごせる夢みたいな世界にしたいんだ。

 主人公の協力が得られればそれも可能だと思うが」

「たとえ主人公が協力しても無理よ、そんなの。

 絶対に無理――不可能だわ!

 ありえない、絶対にありえない!」


 何が何で俺の願いを否定したいコルド。

 彼女がここまでムキになるのはなぜなのか。


 まぁ……どうでもいいか。


「なぁ、お前ら……さっきから何の話をしてるんだよ⁉

 主人公がどうしたって⁉ なにかの悪い冗談かよ⁉」


 混乱したように言うダルトン。

 マイスも俺を不安そうに見ている。


 気でも狂ったかと思われたかな。


 この世界には主人公がいる。

 彼らはハッピーエンドを迎えるために存在しており、主人公として不適格とみなされると動物に変えられてしまう。

 これは桧山が話したことだが……どこまでが真実なのだろう。


 俺は副会長が裏で手を引いて、桧山を豚にしたと考えていた。

 しかし……どうもそれはなさそうだ。


 コルドほどの力と知性があれば、桧山をコントロールするのは難しくない。自在に操れるはず。

 都合のいい駒を手放して奴を豚化させるメリットがないのだ。豚化をコルドが行った線は薄い。


 であれば……桧山豚化を行った存在は別にいると考えるのが妥当。それが神かどうかはわからないが、少なくともコルドではない。


「どうして不可能だと?

 やってもいないのに、なぜ言い切れる?」


 俺はダルトンを無視して、コルドに問いかける。


「だって……だって、だって!

 そんなの絶対に無理よ!」


 コルドは混乱しているのか、受け答えが雑になった。

 どうやら俺の言葉に心を揺さぶられているらしい。


 彼女は俺が想像を絶する狂人だとでも思っているのだろう。

 実際はただの詐欺師だけどな。


「あなたのような狂人と真面目に話したのが間違いだったわ。

 どうせ世界はもうすぐ――」


 彼女は何かを言いかけたところで、ハッとしたように口を結ぶ。


「いけない、危うく口を滑らせるところだったわ。

 まぁ、言ったところで結果は分からないのだけど」

「というと?」

「あなたたちはここで全員死ぬの。

 できるだけ手短に殺してあげるから安心して。

 心臓を一突きにして一瞬で終わりよ。

 あっ、動いたら変なところに当たるから、

 痛い思いをしたくなかったら大人しくしていてね」


 コルドがそう言うと、彼女の身体の周りに水の柱が何本も生成される。

 先端が細く糸状に枝分かれしたかと思うと、ものすごい速さで俺たちの方へ飛んできた。


 ほとんど一瞬のことだった。


 まるでスローモーションになったようにゆっくりと、目前に迫った細かい水の糸が動いている。

 俺の胸を目指してゆっくりと、ゆっくりと。


 それを見ながら微動だにできず、ただ終わりの瞬間を待つしかない。時が止まったかのように延々と目の前の光景を見せつけられるだけ。

 これが最後を迎えたものが見る光景なのか。




 バリバリバリ!




 閃光が走る。

 辺り一面が真っ白になり、慌てて目元を覆って光を遮る。


 しばらく何が起こったのか分からず、戸惑っていた。

 どこも身体が痛まず、普段の感覚通りに動かせることに気づき、ある可能性に思い至った。


「マイス!」


 思わず叫ぶ。


「お待たせして申し訳ありません。

 ようやく力を取り戻しましたわ!」


 彼女の声が、これまで以上に頼もしく思えた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 嘘が本物になったら、それはもう虚構ではないのでは…。 来歴も物的事実も、あらゆるものがまるっと根幹から変わっちゃうんだろうし。 コルドにはなんのこだわりがあるんだろう。 嘘を本物と作り…
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