123 組織
「え? 組織?」
「とぼけないで、すでに聞いているはずよ」
コルドの表情が見る見るうちに険しくなっていく。
どうやら何らかの組織が彼女に関係していて、明るみになるとヤバイらしい。んで、桧山はそのことを知っていると。
こいつが桧山を捕らえていたのは、その情報を漏らしたくなかったから。
うーん、また面倒な話になったな。
コルドがどんな組織と関わっているのか、今はどうでもいい。
問題なのは、俺がその情報を桧山から聞いたと誤解されることだ。
この流れだと……何を言っても変に解釈されそうだな。
嫌な予感がする。
「いや、彼からは何も……」
「嘘よ。あいつが話さないはずがない。
おしゃべりな豚だもの」
確かに桧山はお喋りだったよ。
でも話す時間が限られていて、それほど詳しい話は聞けていない。
あんな豚野郎とのんびりお喋りなんて死んでもごめんだがね。
桧山と会話する機会は限られていた。
この世界の秘密とか、主人公のこととか、色々とヤベー話を聞いたことは確かだが、組織とかについてはなにも。
それとも、その組織って言うのは、転生者組のことを言っているのか?
どこかの隠れ里に住んで焼きそばパンを作ってるという……。
「組織について知ってしまったのなら、
あなたを生かしてはおけないわね。
ソフィアを取り戻したら解放するつもりだったけど、
三人ともここで死んでもらうわ」
「まっ、下さい!
ダルトンさまは偶然ついて来ただけです!
だからどうか見逃してあげて下さい!」
マイスが言った。
あらら……こういう場合、こんな風にお願いすると……絶対にこういう答えが返って来るんだよな。
「安心して、三人とも同じ場所へ送ってあげるわ。
寂しくならないようにね……」
はい、模範解答頂きましたー!
ダルトン君、完全終了のお知らせ。
マイスは本気でダルトンを助けようとしたのだろうけど、逆効果だったぞ。
「ダルトンさま! はやくお逃げになって下さい!」
「え? ううん……いいのか?」
マイスはうんうんと頷く。
先に逃げたりしたら、真っ先に狙われると思う。
囮として利用するつもりならともかく、天然で言ってるとしたらたちが悪いぞ。
「いや……ここで先に一人だけ逃げたりしたら、
真っ先に俺だけ殺されない?」
ダルトンは野生のカンで危機を察知したのか、二の足を踏んだ。
彼の言う通りこういう場合は一人で逃げないのが正解。
少なくとも、映画とか漫画ではそう。
「逃げても無駄だ、どっちみち殺されるぞ」
「正解よ。
一人だけ逃げ出していたら、真っ先に狙うつもりだったけど。
判断を誤らなくて良かったわね」
コルドはにっこりとほほ笑む。
怖いね。
彼女は俺たちが組織について知っていると誤解している。
仮にその誤解が解けたとしても、念を入れて三人とも殺すだろう。
少なくとも俺だったらそうするね。
その組織について少しでも情報を引き出しておきたいが……下手に突っつくとすぐにでも殺されそうだな。
逆に相手が知らない情報を提供して気を引くか。
そっちの方が生存率高そう。
「なぁ……逆に聞きたいんだけど。
アンタは桧山が主人公だって知ってるのか?」
「ええ、もちろん。
正確には“主人公だった”だけどね」
そっか、すでに知っていたか。
どうせ桧山が話したんだろうな。
そう思っていたら、どうも話が予想していたのとは別の方向に進み始める。
「私たちにとって、
アイツらって目の上のたんこぶのような存在なのよ。
一刻も早く消えてもらいたい……って思ってた。
けど……今はちょっと違う考えなのよね」
アイツらっていうのは……主人公をさしているのか?
つまりこいつは、桧山のような存在が複数いることを知っている?
「彼らは彼らで利用価値がある。
――最近はそう思うようになったわ。
ウィルフレッド、あなたはどうなのかしら?」
「俺は……」
主人公の利用価値。
物語を完結させるために不可欠な存在。
ハッピーエンドを迎えれば、動物にされずに済む。
俺が知っている主人公についての情報はこれくらいだ。
そんな程度の存在でしかない主人公に利用価値があるのか?
俺には分からな……あっ。
「もし桧山の他に主人公がいるとしたら、
俺だったらそいつと友達になるかな。
それでこの物語を終わらせて……新しい話を始めるよ」
「へぇ……どんな物語を作るつもりなのかしら?」
「それは……」
俺は真っすぐにコルドを見据える。
「嘘が本物になる物語だよ」




