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121 時間稼ぎ

「ダルトン……このバリアはいつまでもつ?」

「もう限界だ。何か触れればすぐにぶっ壊れる」


 ダルトンは額に汗をにじませながら言う。

 もう彼のスキルを頼ることはできない。


「そうか……分かった」

「なぁ、どうするんだよ?」

「どうするってそりゃ……どうしようかな」


 ここまで来て降伏する選択肢は俺の中にはない。


 しかしながら、何か対抗する策があるかというと、ない。

 この状況を打開できる秘策なんて何も思い浮かばない。


 このままではコルドによって三人とも処刑され、ソフィアが連れていかれてしまう。

 最悪、ソフィアを放って逃げるという手もあるが……マイスだけは同意しないだろうなぁ。


 彼女はいまだに箱にしがみついており、離れようとしない。


 このままコルドと戦っても勝ち目はない。

 それは彼女も分かっているはずだ。

 にもかかわらず諦めようとしないのは……単純に意地か。

 それとも何か秘策があるのか。


 秘策があるんなら、とっくに教えてくれるはずだ。マイスにもこの状況を打開するような切り札は無いと考える。

 スキルの力が戻らない以上、彼女に期待するのはよそう。


 では、どうすればいいか。

 ここは俺が矢面に立って、時間を稼ぐしかない。

 何秒稼げるか分からないけどな。


「おい、止まれ」


 前に出た俺はコルドに警告する。


 両手をポケットに突っ込んで何か取り出そうとしているように演出。

 できるだけ余裕たっぷりの表情を作る。


「あら、まだ何かするつもりなのかしら?」


 俺の態度を見て警戒したのか、コルドは少し離れた場所で停止。

 自分の周りにいくつもの水の球をグルグルと回らせている。


 どうやら飛び道具による攻撃を警戒しているらしい。

 何か飛んで来たら、あの水の球をぶつけて相殺するつもりなのだろう。


「いや……何かするつもりなんてない。

 交渉の余地があるか確かめたかったんだ」


 俺は両手をポケットから出し、手を広げて何も持っていないと示して、攻撃するつもりがないと相手に伝える。


「…………」


 コルドは余計に警戒心を強める。

 俺から目を離さず、眉を寄せて険しい顔つきになった。


「そう言えば気になっていたのだけれど……。

 戦闘向きのスキルを持っていないあなたが、

 どうやってゴッツとキースの二人を倒したのかしら?」

「俺一人で倒したんだよ。

 あいつら弱かったから楽勝だったぞ」


 俺は肩をすくめて、ほんの一瞬だけ目を反らして見せた。

 コルドは瞬きもせずに俺を見つめている。


「もしかして……まだ仲間がいるのかしら?」


 いいね。

 そう勘違いしてくれると助かる。


 コルドが俺の行動の全てを把握していなければ、他に仲間がいると思ってもおかしくない。

 ダルトンの他に何人かの生徒と接触していたから勘違いするのも無理はないだろう。


 もちろん、誰かに助けてもらう約束などしていないし、待ち伏せている味方なんて一人もいない。

 しかし、そういう風に見せかけることによって、ほんの数分、いや数秒だけ時間を稼ぐことができる。


 目を反らしたのは俺が嘘をついているように見せるため。


 コルドはスキルの力に頼って無策のまま突っ込んでくる脳筋ではない。

 考えながら戦うタイプだ。

 常に全力でぶつかり合うソフィアやマイスとは違う。


 だからこそ、微妙な仕草や挙動に気を取られてしまう。

 相手が嘘をついていると疑い、しなくてもいい心配をして逡巡する。

 頭がいい奴ほど嘘によって化かされてしまうのだ。


 しかし……この策ももって数分。

 敵はすぐに、こちらになんの手立てもないと見抜くだろう。

 それまでにマイスが力を取り戻せば……!


「仲間……か。

 一緒に戦ってくれる奴がもっといたら、

 アンタにも勝てただろうな。

 俺たちには何も対抗する手段がない。

 この通り、お手上げだよ」


 わざとらしく両手を高く上げる。


 するとコルドはしきりに周囲を確認し始めた。

 何かの合図かと思ったらしい。


「おいおい、安心しろよ。

 仲間なんていないって」

「嘘よ、そんなはずない。

 マイスが臨戦態勢に入っていないことが証拠よ。

 どうしてあなたが最初に前に出てくるの?

 何か罠を……あっ」


 コルドが何かに気づいた。


 当然だが、罠なんてはっていない。

 待ち伏せしている仲間なんて一人もいない。

 なのに……。




「ぎょえええええええええええええええ!」




 周囲に耳障りな鳴き声が響き渡る。

 驚いて空を見上げると、そこには漆黒の翼を持つ巨大な怪鳥がいた。

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