120 墜落
コルドによって破壊された魔道艇。
見る見るうちに高度が下がっていく。
「おい! このまま地面にぶつかったらどうなるんだ?!」
「知るか! もう助からないぞ!」
急激に地面へと近づいて行く魔道艇。
すぐそこまで大地が迫っている。
速度はそれなりに出ており、このまま墜落したらものすごい衝撃に見舞われるだろう。
「ダルトン! スキルで何とかならないのか?!」
「どうなるか分からないけどやってみるよ。
お前らだけでも守らないとな」
「お前ってやつは……!」
ノリを合わせているだけかもしれないが、今の俺たちにとってダルトンは頼もしい仲間だ。
ぼろ雑巾みたいに使い捨ててやろうなんて思ってごめんよ。
ダルトンはソフィアの入った箱の近くに皆を集め、スキルを発動。
球状にバリアを生成し、俺たちをすっぽりと包んだ。
そうしている間にも、コルドからの攻撃は続いており、次々に水の弾丸や槍が放たれ、船体は穴だらけになる。
すでに動力である球体も力を失っており、幾何学模様の光も消えていた。
このまま無事に着陸したとしても、コルドとの戦いは終わらない。
奴はソフィアを取り戻そうと攻撃してくるだろう。
もう爆殺丸は手放してしまったので、別の手段で戦わなければならない。
ダルトンの防御壁では攻撃を防ぐことしかできないし……。
俺は隣にいるマイスに目をやる。
彼女は瞼を閉じて胸の前で合掌していた。
怖いのか小刻みに震えている。
俺はそんな彼女の肩を抱き寄せ、そっと耳元で呟いた。
「大丈夫だ、きっとなんとかなる」
マイスは少しだけ目を開いて俺を見やり、ほっとしたように表情をほころばせた。何気にこういう時、気休めの言葉って大切だよな。
無論、俺に現状を打破する力はない。
交渉しようにもソフィアを差し出す以外に選択肢がないので、相手を言いくるめるのは不可能だろう。
というか、ソフィアを差し出したところで、コルドが見逃してくれる保証もない。
三人そろってなぶり殺しにされるかも。
後は天に祈るばかり。
無事に着陸して難を逃れたら、タイミングよくマイスの力が復活していたらいいな。
そうなる可能性はかなり低そうだけど……。
ガガガガガ!
船底が大地と接触する。
強い衝撃と共に、がりがりと何かを削れる音が聞こえ、木材がきしんで破断していくのが分かった。
ドーンと何かにぶつかって大きく揺れたかと思うと、船はようやく停止する。
思っていた以上に衝撃が少なかったのは、ダルトンのバリアが身を守ってくれたからかな。
どうやら衝撃を吸収する効果もあるらしい。
恐る恐るあたりを見渡してみると、滅茶苦茶に破壊された船体が目に入る。気嚢はすっかりぺしゃんこになり、バリアの球体に覆いかぶさっていた。
動力である球体には鉄の棒が突き刺さっており、衝撃の強さを物語っている。ダルトンのスキルが無かったら、俺たちもああなっていたかもな。
こいつには足を向けて寝られそうにないぞ。
「ダルトン、助かったよ。ありがとう」
「ああ……でも今ので……」
「スキルはもう使えないのか?」
「うん……ごめんな」
申し訳なさそうにするダルトンだが、彼がいなければ全滅していたはずだ。
謝る必要なんてない。
便利な能力ではあるが回数に制限アリか。
無制限に使えたのなら、マイスやソフィアと同等の能力者として重宝されただろうに。
だとしても人間兵器として利用されるのがオチなので、回数制限があった方が身のためかもな。
「いいんだ、守ってくれてありがとう」
「こっちこそ……って、なんで俺、こんなことしてんだ?
もとはと言えば……」
「まぁ、細かいことは忘れて。
これから仲良くしようぜ、親友」
「え? あっ、おお……そうだな」
俺は彼の肩を抱き寄せて親し気に言ってやる。
すると考えるのが面倒になったのか、ダルトンは眉を開いて柔らかい顔つきになった。
こいつはもう少し人を疑うことを覚えた方がいい。
「さて……副会長はどこへ行ったかな?」
バリアの上には中身が抜けた気嚢の残骸が覆いかぶさっている。
さっさとこれをどかして脱出したいところだが……。
どー―――――――ん!
強い衝撃と共に、水がなだれ込んできた。
着陸のダメージで半壊状態だった船体は大量の水に流され、バラバラに崩壊していく。
まるで濁流にのまれたような状況。
バリアの中にいた俺たちは身を寄せ合い、なんとか耐えてくれと必死に祈る。
光の障壁には流されてきた物体が次々にぶつかり、次第にヒビが入っていく。
コルドは全てを水で押し流してソフィアだけを連れ去るつもりらしい。
他の者が死のうが生きようが、どうでもいいのだ。
しばらくして水の勢いがおさまると、周囲の光景が一変する。
そこにあったはずの魔道艇は跡形もなく消え去り、わずかに残骸が残るばかり。
少し離れた場所に動力である球体が確認できた。あんな巨大な物体まで流されるなんてな。よほど水の勢いが強かったのだろう。
着地したのは平地。
麦のような植物が茂っているのが見えた。
少し離れた場所に集落の明かり。
どうやらここは農村地帯のようで、着地したのは畑らしい。
持ち主さん、ごめんなさい。
「あっ……ここって……」
ダルトンはこの辺りに見覚えがあるらしい。
ここが何処なのか、どうでもいい。
俺たちがまず考えるべきなのは……。
「さぁ、ソフィアさんを返して。
これは最後の警告よ」
濁流によって蹂躙された大地を、コルドが足元に発生させた水流によって滑るように移動。俺たちの方へ接近してくる。
まず考えるべきは、どうやって奴の間の手から逃れるか……だ。
マイスの力はまだ戻っていない。




