119 意外と有能だった男
「おおっ……マジかよ」
魔道艇が無傷のまま残っていたのだ。
ちょっとでも穴が開けばすぐに墜落しそうな飛行船もどきの船だったのだが、先ほどまでと全く変わらない状態でそこにあった。
いったい何があったのかと思っていると、飛行船の周りにうっすらと光の壁のようなものが出来ている。
あれは……。
「あれは……防御系のスキルですわ!
誰かが船を守ってくれたのかもしれません」
マイスが言う。
ようやく彼女の言葉が聞こえるようになった。
防御系のスキル?
いったい誰が……と思っていたら、船からひょっこりとダルトンが顔を出した。
「おおい! 早く乗れよ!
すぐにでも飛ばせるぞ!」
彼は笑顔で手を振っている。
俺はマイスと顔を見合わせて、一瞬だけ固まってしまった。
まさか……ダルトンが船を守ったのか?
「とっ、とにかく今は逃げましょう!」
「あっ……ああ……そうだな!」
俺とマイスは慌てて船に乗りこむ。
魔道艇はゆっくりと上昇を始め、地面から離れて行った。
船の中央には大きな球体が設置されており、青く光る幾何学的な文様が刻み込まれていた。どうやらこれが動力的なものらしい。
船には操縦席があり、ダルトンがレバーを動かして船を操作している。
コイツ……俺が思っていたよりもずっと有能だったのかな?
「なっ……なぁ、ダルトン。
お前、船が操縦できたのか?」
「あ? 俺にやらせるつもりで連れてきたんじゃねーのかよ?」
連れて来たって言うか……勝手について来ただけだが。
まぁ、コイツのお陰でとりあえず逃げられたのだ。
よしとしよう。
船はどんどんと高度を上げていく。
はるか遠く、地平線の彼方。
うっすらと朝日がみえる。
空と大地の境界が明るくなり始め、真っ暗闇だった世界が次第に明るんでいく。
マイスが打たれた薬の効力も、もうすぐ切れるだろう。
下界の様子を見ると、先ほどいた場所に大きなクレーターが出来ていた。
俺が思っていた以上に爆発の規模は大きかったらしい。
オレンジ色の炎がいまだくすぶっている。
「さっきのバリアみたいなのも、お前が?」
「ああ、副会長と戦闘になったら、
この船も無事じゃ済まないと思ってな。
予めスキルを発動して守ったんだよ。
俺の固有スキルの『防御壁』で」
「ちなみにそれ、どんなスキルなの?」
「あらゆる攻撃を広範囲にわたって防ぐスキルだ。
防御にしか使えないけど、便利なんだぜ」
そう言って親指を立てるダルトン。
なんて実用的なスキル。
でもすげー地味。
「さすがだなぁ、ダルトン君は」
「なに言ってんだよ。
あの副会長に真っ向から喧嘩売るお前たちの方がスゲーよ。
これからどうするんだ?
クーデターでも起こして生徒会を弾劾するのか?
それともこのまま逃げ切って新天地で一旗あげるか?」
ダルトンはどんどん話を膨らませていく。
クーデターで生徒会を弾劾とか、まるで漫画みたいな話だ。
「クーデターなんてしないし、新天地にもいかない。
どこか適当な場所に船を下ろしてくれ。
隠れられそうな場所とかないか?」
「は? 隠れる? 何から⁉」
何からって……そりゃ……。
「ウィルフレッドさん! 副会長ですわ!」
マイスが叫んだ。
彼女は欄干から身を乗り出して、下の方を指さしていた。
隣へ行って確認すると……ゲェッ⁉
コルドは無傷だった。
傷どころか、すす一つついていない。
彼女は足の裏から勢いよく水を噴き出して、ペットボトルロケットのように飛翔。
まっすぐにこちらへと飛んできている!
「ダルトン! 回避だ! よけろ!」
「バカが! 魔道艇がそんな早く動けるか⁉」
「じゃぁどうするんだよ!」
「どうしようもねぇよ!」
ダメだ、詰んだ。
そう悟った瞬間、ダルトンがスキルを発動。
光の壁を生成してコルドの突撃を防いだ。
ばりばりばり!
コルドが光の壁に接触すると、バチバチと火花が飛び散る。
どうやら敵の攻撃を完全に防ぎ切ったようだ。
「おおっ! でかした! すごいな!」
「安心しろって、俺がみんな守ってやるよ」
そう言ってにっこり笑顔で親指を立てるダルトン。
予想外に有能すぎてビビる。
爆発や突撃攻撃をものともしない強固な守り。
こいつのスキルがあれば、コルドから逃げ切るかもしれない。
「ウィルフレッドさん! ソフィアを守って下さいませ!」
ソフィアが入った箱にしがみつきながら、必死の形相で訴えるマイス。
「大丈夫だよ、マイス。
ダルトンのスキルがあればきっと平気だ。
なぁ、そうだろ?」
「おお、任せろ。だけど……」
だけど?
「このスキル、使えば使うほど脆くなるんだよな」
「え?」
ってことはつまり?
ばりーん!
ガラスが割れるような音が響いてバリアが砕ける。
バリアを突き破ったコルドはそのまま上部の気嚢に突入。
一瞬で突き破って反対方向へ飛び出した。
もう終わりだよ、この船。




