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117 きみはともだち

「え⁉ 何その声⁉ おっさん⁉」


 ダルトンが騒ぐ。

 うるさい。


「どっ……どういうことでしょうか?」


 困惑気味にマイスが尋ねてくる。


「副会長の正体は、手動販売機の中の人だったんだよ。

 エミリーっていうのは仮の名前だ。

 本当の名前はコルド・クルーク。

 おっさんのふりをして箱の中に入っていたんだ」

「そんなっ……」


 マイスは瞼を大きく広げ、驚愕の顔つきでコルドを見やる。


「よく分かったわね。

 でも、気づくのが少し遅かった。

 もう手遅れよ」


 美少女ボイスでそういうコルド。

 おっさんの声か、女の子の声か、どっちかにしてくれ。


 コルドには声を自由に変える特技があったが、まさか美少女がおっさんの声を出していたとはな。


 そう言えば……生徒会の役員の紹介文には共通して『豚が嫌い』との表記があった。


 豚とは間違いなく桧山のことなのだが、コルドのプロフィールにも『豚が嫌い』との一文があった。そのことを見逃していたのは痛い。

 コイツと図書室で出会った時にプロフィールを確認しておけば……!


 今思うと色々とおかしかった。

 冷気を抑制できないと言いながら、人が飲むのに丁度良い温度で飲み物を提供していたし、コントロールできないなんて全くの嘘だったんだ。


 エイダが言っていた『甘い香りや色や味がつけられる魔法の粉薬』というのは、手動販売機で提供するジュースを作るための材料だろう。

 コルドは彼女にジュースの元となる薬を調合させていたのだ。


 くそっ、今思い返すとヒントとなる要素がいくつかあったな。


 もう少し注意してよく考えていれば、あの箱は冷気を逃がさないためではなく、別の目的でつくられたのだと気づけたはずだ。

 こいつの正体にも……!


「手遅れ? 何を言ってる?

 ソフィアの居場所はすでに分かった。

 チェックメイトになったのはそっちだろう」

「あらあら、強がって。

 たった三人で私を止められるとでも?」

「え⁉ なんで俺も入ってるの⁉

 話が全然分かってないんですけど?!」


 何故か俺たちの仲間扱いされるダルトン。

 ちょうどいい、コイツを肉壁にしよう。


「マイス、スキルは使えそうか?」

「いえ……それが……」


 小声で確認すると、マイスは弱弱しく答えた。

 彼女の力が使えないとなると絶体絶命だな。


 コルドはファムを倒すレベルの強敵。

 なんの力も持たない俺が対抗しようとしても無駄だろう。

 ゴッツと戦った時のようにはいかない。


 では……どうするべきか?


 ちらりと船の方を見る。

 ソフィアが閉じ込められている箱を積み込んだ男たちが、困った顔をして俺たちの方を眺めていた。


「なぁ……アンタたち、船はすぐに出せるのか?」

「ああ、そこの副会長さんを乗せたら、

 すぐに出発する予定だったからな……」

「そうか」


 つまり船はすぐにでも飛ばせる状態ってわけだ。

 そうか……なら答えは一つだな。


「なぁ、ダルトン。

 今死ぬのと、後で死ぬの、どっちがいい?」


 俺はダルトンの肩にそっと手を乗せる。


「は? 急になに言ってんだよ⁉」

「今俺たちと一緒に副会長と戦って死ぬか。

 それとも船を追って来た副会長に後で殺されるか。

 好きな方を選べよ」

「なんで俺まで殺されるの?! ねぇ! なんで?!」

「だってお前、俺たちの仲間だろ?」


 ぶんぶんと首を横に振るダルトン。

 成り行きでついて来たのが命取りだったな。


「ええ、ダルトンさまはわたくし達の大切な仲間。

 死ぬ時も一緒ですわ!」

「え? アンタまでなに言ってんの⁉」


 マイスも調子を合わせてくれた。

 空気読めるな、この子。


「涙ぐましい友情ごっこは結構よ。

 邪魔をするつもりなら三人とも排除してあげるから、

 覚悟しておくといいわ」


 悪人面でコルドが言う。

 この人、もしかして分かった上で遊んでるのかな?


「そもそも邪魔なんてするつもりないけど⁉

 とっとと消えるんで許してもらえませんか?!」

「そう言って背後から私を攻撃するつもりでしょう?

 そんなこと絶対にさせないわ。

 あなたから真っ先に殺してあげるから、

 覚悟しておいて頂戴」

「ええっ……ええっ……!」


 ダルトンは泣きそうな顔で俺を見る。


「もしかして俺、詰んだ?」

「ああ、運が悪かったな」


 思わずダルトンを抱きしめてやりたい気分になった。

 あまりにも可哀そう。


「ダルトン、死ぬまでに猶予を与えてやるよ。

 今すぐに魔道艇を飛ばして逃げてくれ」

「おっ……お前らは?」

「俺たちは副会長と戦って死ぬ」


 もちろんそんなつもりはない。

 なんとかしてマイスが力を取り戻すまで時間を稼ぐしかないだろう。


「ウィルフレッドぉ……!」

「なに泣いてんだよ。友達だろ?」

「ううっ、ありがとな!

 俺一人でもなんとか逃げ切ってみせるよ!」


 意外とノリが良かったダルトン君。

 さっさと船に乗り込んでいく。


 乗組員たちは困った様子で顔を見合わせていたが、このままとどまったら危険だと判断したのか、船を降りてさっさとどこかへ行ってしまった。


「さぁ……そろそろいいかしら?

 決着を付けましょう」


 そう言ってコルドはにやりと口端を釣り上げる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダ、ダルトン、ちょろい……! そんな君が好きだー! 何度も出てきた『豚が嫌い』、そしてビミョーに使えねーってなってた手動販売機、ここに繋がるんですね! 伏線がどんどん回収され、点と点が…
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