111 もっとシナリオもゲームっぽく
副会長がソフィアを連れ去ろうとしている。
キースの言葉に、俺はようやく奴らの狙いが彼女であると気づいた。
もともと、ソフィアを心配して様子を見に行ったのだが、まさか本当に彼女がさらわれるとは思っていなかった。
てっきり狙いは俺だとばかり……。
「おい、クソ猫! ソフィアはまだ無事なのか?!」
「自分で確かめに行くといいにゃぁ」
「クソが! 教えないと殺すぞ!」
「まだ彼女は無事とだけ言っておくにゃ」
ニヤニヤと笑うキース。
いらだちばかりが募る。
こういう時、感情に流されてはダメだ。
深呼吸をして落ち着こう。
冷静さを欠くと、どうしても大切なことを見落としがちになる。
「おい……ファムは今どこにいる?」
とりあえずファムと合流しよう。
副会長との戦いに負けたとは聞いたが、まだ死んではいないと思う。
「そっちのほうにゃ」
後ろ手に縛られた手で、ある方向を指さすキース。
その先にファムがいるのだろうか?
「嘘だったら殺しに戻って来るからな」
「そんなことしてたら、
副会長がソフィアさんを連れて行っちゃうにゃ」
「黙れよ、クソ猫」
「…………」
俺の言葉に無言でにやりと口端を釣り上げる。
イライラするな……ほんと。
こいつにかまっている暇はない。
とにかくファムの元へと急ごう。
俺はキースの指さした方へと走っていく。
しばらくすると、地面に寝転んでいるファムの姿が見えた。
「おい! ファム! 大丈夫か?!」
倒れている彼女の身体を抱き起す。
服も髪もびっしょりと濡れていた。
意識を失っていたが、呼びかけると瞼が少しだけ動く。
「うっ……ウィルフレッドさま?」
「気づいたか?!」
「申し訳ありません……負けてしまいました」
普段からふてぶてしい態度をとるファムらしくなく、やけにしおらしい。
敗北したことに引け目を感じているのだろうか。
「敵は?」
「副会長の……エミリー。
ソフィアさんを連れて行くと……」
「くそっ! やっぱりか!」
副会長はファムを倒した後、救護棟へソフィアを連れ出しに向かったのだ。
今から追って間に合うか?
いや……その前に、俺一人で勝てるだろうか?
「ファム……まだ戦えるか?」
「申し訳ありません……ステータスを消費しても無理そうです。
少々、ダメージを受けすぎてしまいました」
ファムのステータスはそれなりに残っていたと思うが、ほとんど使いつくしても戦えるまで回復するのは難しいか。
「分かった、お前はそこで休んでいてくれ。
俺は救護棟へ向かう」
「いえ……私はマイスさんの所へ行きます。
彼女たちに協力を仰げばもしかしたら……」
「いや、ダメだ」
マイスは薬の効力によってスキルを封じられている。
彼女の取り巻きが、ファムを倒した相手に戦えるとも思えない。
だとしたら……。
「俺が一人で何とかする。
彼女たちを危険な目に合わせることはできない」
「ふふっ……男らしいですね。らしくない」
そう言って力なく笑うファム。
らしくないか。
確かにな。
誰かを騙すことしか能がない俺は、自分で戦うこともできず、男らしさとは無縁の存在だ。
今の発言はちょっと無理をしたかもしれない。
でも……。
「こういう時くらい、カッコつけなくちゃな」
「どんなに恰好つけようとしても、
あなた一人で勝てる相手ではありません。
私はマイスさんたちの所へ行って状況を報告します。
夜が明ければクスリの効果も切れるでしょうし……」
「それまで時間を稼ぐよ、なんとしてでも」
「よろしくお願いします」
結局はマイス頼みってことか。
んまぁ……仕方あるまい。
彼女の力がなければ副会長に戦いを挑むのは難しいだろう。
ましてやソフィアを取り戻すとなると……。
しかし……マイスは副会長とやらに勝てるのか?
ソフィアにタイマンで勝てる彼女だが、ファムを下す相手に通用するかというと疑問だ。
師匠である彼女に手も足も出なかったからな。
ファムに勝ったとなると、副会長は相当な実力者だ。
なんの策もなしに戦いを挑んだところで勝てるとは到底思えない。
「それでは……私はこれで」
ファムはスキルを発動し、身体を影で包んだ。
すると途端に腕の中から彼女の重みが消失し、そのまま霧のように消えてしまう。
何度も見ているが、手で触れてみると異様だな。
彼女のスキルの力には現実感がない。
というか、スキルそのものに現実感がない。
炎を出したり、電撃をだしたり、その力をまとって戦ったり。
俺が知ってる現実とはかけ離れている。
おまけにステータスだの、評価ポイントだの。
訳の分からないシステムの数々。
この世界がゲームだというのなら、もっとシナリオもゲームっぽくしてほしいものだ。




