108 反撃
「うわあああああああああ!」
寸前で回避した俺だが軽々と吹っ飛ばされる。
すぐ傍を通過したゴッツが巻き起こした衝撃波は相当なものだ。
「くっ……くっそっ」
地べたを転がりながらもなんとか態勢を立て直し、よろよろと立ち上がる。
これは演技ではない。
普通に痛かった。
「ちっ……外したか」
攻撃を外したゴッツは少し離れた場所で忌々し気に舌打ちする。
次第に戦いの状況に慣れて来たようだ。
このままだとまずいな。
すぐに反撃に出ないといけない。
しかし、何の策もなくゴッツを倒すのは不可能だろう。
奴の弱点は……もちろんキース。
キースはゴッツにとっての生命線だ。
固執するのは間違いなくスキルの力を当てにしているから。
大方、自分が追い詰められたら霧で姿を隠し、キースの索敵能力でこちらの位置を把握して有利に戦おうとしているのだろう。
奴の行動原理から常に優位性を保とうとする打算が透けて見える。
なんなら、そのまま物理で襲ってくればいいのに、奴はそれをしようとしない。
一定の距離を保ちつつ、ステータスの消費による一撃必殺にこだわる。
俺を相手にビビっているのだ。
不要に近づけば手痛い反撃を受けるかもしれない。
ナイフや突き刺す道具を隠しているかもしれない。
もしかしたらスキルで反撃を受けるかもしれない。
そんな不安が奴の脳裏にこびりついている。
自信満々にふるまうことすらできず、いちいち自身の動揺や困惑を表情に出し、恐る恐るこちらの出方を伺いつつ、切り札を決して手放そうとしない。
ファムなら一瞬で勝負を決められた相手だと思う。
「そろそろ観念しろよ。お前はここで死ぬんだよ」
そう言って握った右手の拳を、左手の手のひらに叩きつけるゴッツ。
額に青筋を浮かべている。
もう少し……もう少しで奴の警戒が解ける。
俺が逃げ回るばかりで何ら反撃する手段を持たず、なおかつ戦う意思を持たない死にたくないだけの獲物だと奴に誤解させられれば……チャンスが巡って来る。
反撃のチャンスが。
「お願いです! 理由を話して下さい!
なんで僕が殺されなくちゃいけないんですか!
何も悪いことなんてしてないんですよ?!
勘違いとかじゃないんですか⁉」
俺は涙目になって必死に訴える。
と言っても、ボロボロと泣けるほどの演技力はないので、あくまでフリだが。
それでもゴッツは俺がお手上げ状態だと思ったのか、にやりと口端をゆがませる。
「へへへっ……」
無理に笑おうとしているのか、引きつった笑みを浮かべるゴッツ。
少しずつ、こっちへと近づいてきている。
俺は一歩、二歩と後ずさって、距離を置く。
いいぞ……自然な流れだ。
このまま――
「あっ、待て!」
俺はゴッツに背を向けて走り出した。
向かう先にはキースがいる。
今までのゴッツの行動パターンを見る限り、奴は必ずキースの元へと戻ろうとするはずだ。
だから今からどう動くのか簡単に予想できる。
奴がスキルを消費して走り出すタイミング。
それが――
今だ!
俺は態勢を低くしてゴッツが通るであろう地点に足を延ばす。
すかさず脳内でステータスの消費を宣言。
VIT《耐久力》を上昇させる。
「ぐわあああああああああああ!」
ビンゴだった。
奴はまんまと俺の足に引っかかり、高速移動の勢いのまま地面に顔面から突っ込んでいった。
地面が深々とえぐれて跡が残っている。
「ぐっ……いてぇ」
ゴッツにひっかけた足がビリビリと痛む。
まるで金属バットで脛を殴られたよう。
それでもステータスの強化で保護していたお陰なのか、傷みだけで動かすことに支障はない。
生身だったら足がちぎれていたのかもしれないぞ。
「ごっ……がはっ!」
それでもゴッツはいまだに健在で、地面から顔を上げて土をぬぐっていた。
これで多少なりとも余裕が生まれたわけだ。
「ゴッツ⁉ 大丈夫⁉」
心配そうに叫ぶキースだが、彼は自分の心配をするべきだろう。
俺は彼の方へと向かって走っていく。
「なっ⁉」
キースが俺に気づいて声を上げた。
馬鹿な奴だ。
「クソっ! キース! 今行くぞ!」
ゴッツはまともに土もぬぐえないまま、キースを助けようと走り出す。
俺は途中で石を拾いながらそのまま走り続ける。
このまま進めばおそらく……。
「うおおおおおおおおおお!」
キースを守ろうとゴッツは再び加速。
すぐに彼の傍へと移動する。
奴が加速し終えたところで俺の方もステータスを消費。
加速して一気に距離を詰める。
狙うのは……。
「ハァ……ハァ……え? がっ⁉」
俺はゴッツのすぐそばまで走って行って、思いっきり奴の脛を蹴り上げてやった。
たまらずに脛を抑えるゴッツ。
よほど痛かったのか、俺の方を全く見ないで屈んでしまった。
敵がひるんだすきにSTRを消費して攻撃力を強化。
石を握った拳で奴の顎を勢いよく殴打する。
すぱぁん!
ゴッツの顎を俺の拳が一閃。
ぐらっと身体が揺らいだかと思うと、奴はそのまま仰向けに倒れてしまった。
「えっ……え?」
あっけにとられたキースが呆然と立ちつくしている。




