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101 絶体絶命

「え? ソフィア⁉」


 素っ頓狂な声を上げる俺を無視して、ファムは彼女を助けるために建物の中へ入って行った。

 ……と言うのが物音からして分かる。


 俺は一人残されてしまった。


 一刻も早くソフィアを助けに向かうべきなのだろうが、事態の変化に理解が追い付いていない。


 逡巡している間も惜しいが、何かできるとも思えないし、ファムに任せることにした。

 あいつ強そうだし多分大丈夫だろう。


 そんな風に高をくくっていると、思わぬことが起きる。

 背後から何者かの腕が絡みついて身柄を拘束されたのだ。


「え⁉ 誰⁉ 何するんだ!」

「……大人しくしろ」


 耳元でささやくゴッツの声。

 腕の太さやおおよその体格から奴だと分かる。


「え⁉ ゴッツさん⁉

 どうしたんですか急に⁉」

「ついてこい、暴れたら容赦しない」


 一気に血の気が引く。

 奴らの狙いはソフィアではなく、俺だったのだ。


 ヤバイ。


 慌てて助けを呼ぼうとしたが口をふさがれる。

 手には分厚い皮の手袋を装着しており、噛みついても意味がない。

 口をふさがれてしまった俺はその場から引きずられるようにして連れていかれる。


 霧の中でよく見えないが、足音からもう一人ゴッツ以外にいると分かる。

 おそらくはキースだろう。


 二人は俺をさらうために霧で周囲を見えなくしたのだ。

 ガラスを割ったのはファムを誘い出すための陽動。

 まんまとつられてしまったわけか。


 霧を抜けると、同行していた奴がキースだと分かった。

 彼は俺へ目を向けることもなく前だけ向いて無言で歩いている。


 このまま連れていかれたらまずいと思って暴れてみたが、筋力ではとても敵いそうになかった。

 ゴッツは暴れる俺を黙らせるために、わき腹を何度も殴って来る。

 その一発一発が悶絶しそうなくらいに痛くて、すぐに抵抗するのを諦めてしまった。


 やべぇ……本格的にやべぇ。


 このままだと殺される。

 奴らはマジで俺を殺すつもりなのだ。


 助けを呼ぼうにも口をふさがれているし、どうすることもできない。

 頼みのスキルもこの状況では無意味。


 ステータスを消費して抵抗することも考えたが、向こうもそれは織り込み済みだろう。

 どうせゴッツも相当なステータスをストックしているはずだ。

 あまり意味がないような気もする。


 ゴッツは俺を抱きかかえたまま、雑木林の中へと引きずりこんでいく。

 それと入れ違いにエイダが顔を出した。


 エイダとゴッツは無言のまま目で合図して、互いに別の方向へ進んでいく。


 ゴッツとキースは俺を連れて林の中へ。

 エイダは一人、俺たちが歩いて来た方向へと向かう。

 おそらくだがファムを足止めするためかと思われる。


 こいつら……本気で俺を殺すつもりらしい。

 その後で自分たちがどうなるかとか考えてない。


 やべぇよ……マジで殺される。

 どうやってこの状況を抜け出す?


 考えろ……考えろ……。


「ぐわっ!」


 ゴッツは俺を太い木の幹に放り投げる。

 身体をしたたかに打ち付けられて、気を失いそうになるほどの衝撃が走った。


 なんとか意識は保てているが、せき込んで息が続かない。


「なっ……何をするんですか……急に」


 俺は何も知らないふりを装って尋ねる。

 少しでも時間を稼がないといけない。


「お前を殺す。悪く思うな」


 必要最低限の返答に、俺は心底絶望する。

 これは交渉の余地がない。


 この世界へ来る前、小日向聡こひなたさとるだったころの俺は、何度かこういった修羅場を経験している。

 一番恐ろしい相手は、目的のために手段を択ばない操り人形だ。


 誰かの命令で動く馬鹿野郎。

 そう言う相手が一番怖い。

 人の話を聞かないからな。


 目の前にいるゴッツも、キースも、副会長の命によって動く傀儡。

 こいつらを説得するのは不可能だ。

 経験からして分かる。


「そっ……そんな……何でですか⁉

 僕が何か悪いことをしたんでしょうか?」


 泣きそうな声で言った。

 同情に訴えるのが一番だと思った。


 キースはバツが悪そうに顔を背ける。

 ゴッツは……。


「……死ね」


 非情なまでに冷徹な顔をした彼は、そのたくましい両腕を俺の首元へと伸ばす。

 太い指が喉元に絡みつこうとするのを必死で止めようとするが、彼の筋力には到底力が及ばなかった。


 肉に指が食い込んでいくと、途端に息が出来なくなる。


 苦しい。


 ただただ息ができない苦しさを感じながら、俺は必死にその手を振りほどこうと抵抗を試みて、心の中で助けを呼ぶ。


 お願いだから……ファム……助けてくれ……。

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