10 ステータスとメニューアイコン
「あんたあああああああ!
そんなことろで何してるんだい⁉
早くこっちへ来て手伝っておくれよ!
あたしのカワイイお花たちが地面に足をつけるのを、
首を長くして待ってるんだよぉ⁉」
「ひぃ!」
ナーガは身を小さくして俺の背後に隠れる。
いったい誰が来たのだろうか。
玄関に仁王立ちするのは巨漢の女性。
筋肉流々とした体つきに、日光を受けて美しく光る褐色の肌。
二メートルを軽く超えてそうな身長。
とても人間とは思えない。
着ているのは……作業着だろうか?
長ズボンに半袖というラフな格好だ。
顔から上は隠れて見えない。
玄関の扉よりもずっと身長が高いのだ。
ドスン! ドスン!
その化け物は身をかがめて玄関をくぐると、地響きを立ててこちらへと歩み寄ってくる。その容姿はまるで修羅のよう。鬼と形容しても申し分ない。
髪は黒髪のロングウェーブ。耳には大量の宝石がはめ込まれたピアスをジャラジャラといくつもぶら下げていた。
なんなんだ……これは。
明らかに人間ではない。
酒呑童子の子孫だと言われても疑わないぞ。
「あっ……あの……アナタは……」
「ああん⁉ 私はナーガの主人だよ!
アンタだって知ってるはずだろ⁉
ウィルフレッドの坊ちゃん!」
びりびりびり。
その人が声を出すと空気が震える。
あまりに大きなその声は、地の果てまで届きそうだ。
「ウィルフレッドさま。
彼女はナーガ様が婿に入ったジェステの家の当主。
ゴロネイル様です」
ファムが教えてくれた。
「ジェステはわが国有数の名家。
彼女の一声で国の政策が転換するほど、
影響力のある人物と言ってもいいでしょう」
「そっ……そっかぁ」
こんな化け物みたいな人物が……おっと、そんなこと思ったら失礼か。だってこの人……。
「相変わらずの高評価ですね」
「はんっ! このあたしを誰だと思ってるんだい⁉」
ファムの問いに鼻を鳴らして答えるゴロネイル。
あまりに強い鼻息が彼女の黒髪をふわっとたなびかせる。
ゴロネイルの頭の上には燦然と輝く☆五つ。
つっても、評価は満点の5ではなく4.8。
英雄アルベルトをも凌駕するポイント数。
こんな人に皆が好感を抱いているのか?
ちょっと気になったので『評価者確認』の機能で彼女の評価の高さの理由を調べようと思った。とりあえずステータスを開いて……。
「ステータスオープン」
「ふん、ステータスなんて開いて何してんだい?」
「いえ……ちょっと……」
「自分のとあたしのステータスを見比べようってのかい?
別に構わないけどね、ステータスオープン!」
「いや……ちがっ……」
ゴロネイルは自分のステータスを開くと、指でなぞって画面を動かし、正面を俺の方へと向ける。何気に他人のステータスを見るのはこれが初めてかもしれない。
今まで他人の数値とか気にしてなかったからなぁ。
「…………あれ?」
「なんだい、どうしたって言うんだい?」
ゴロネイルのステータスは常軌を逸していた。
―――
HP14895
STR323
VIT450
INT43
DEX12
AGI60
LUK25
―――
一部の数値がとにかく高い。
ちなみに俺のは……。
―――
HP125
STR32
VIT38
INT398
DEX40
AGI35
LUK77
―――
こんな感じ。
いたって平凡なステータス。
彼女とガチンコで戦ったら、間違いなく俺が負ける。10000回戦ったら10000回俺が殺される。
無限アップの裏ワザがあっても無理だろう。
気になったのは彼女のステータスの数値ではない。
「あたしのステータスに変な所でも?」
「いえ……」
ステータスの数値について突っ込みたいのはやまやまだが、今はそんなことどうでもいい。俺が気になったのは左上。
そこには三のアイコンがなかった。
つまりはメニューアイコンが存在しなかったのだ。
「あの……ファムさん」
「なんでしょうか?」
「ステータスを見せて頂いても構いませんか?」
「ええ、構いませんが……ステータスオープン」
ファムは自分のステータスを俺に見せる。
彼女の数値は……。
―――
HP2250
STR167
VIT102
INT38
DEX395
AGI538
LUK32
―――
この人も滅茶苦茶なステータスだな……。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
彼女の左上にもアイコンが存在していなかったことの方が肝心。
いったいどうして……。