6、家に帰ると屋敷中に響きわたる親子喧嘩が始まった
家に帰ると屋敷中に響きわたる親子喧嘩が始まった。
「ネウェル!!
お前は、今日もモモカ嬢に嫌がらせをして、ついに王太子殿下に婚約破棄を言い渡されたというではないか?」
「ネウェルちゃん!!
お願い。
すぐに王太子さまとモモカさんにお詫びのお手紙を書きなさい」
「ワタクシ謝る気なんてありませんわ!
手紙なんて面倒くさくて書いていられませんことよ!」
ついにお父さまの堪忍袋の緒が切れたらしい。
「こんな娘は我が家の恥だ!
勘当する!
おまえなんか、庭師のハンスの嫁になってしまえ!!」
*
実はお父さまは前々から、ワタクシが、最近ハンスとばかりいるのが気に食わなくていらっしゃった。
若い娘がたとえ卑しい庭師といえども、恋愛対象になりそうな年代の男と親しくするものでない、とさんざん注意を受けていた。
けれどもワタクシはお父さまのいうことを一切、聞かなかった。
「ワタクシとハンスは男女のお友達ですわ。
男と女の間には友情は成立しないって、お父さまったら文化省のお役人でいらっしゃるのに、そんな古臭いお考えでいらっしゃるの!?」
と反発して、気にせずハンスの小屋に遊びにいったり、ショッピングや観劇のお供につれまわしていた。
*
勘当されたワタクシは嫁入り道具をひとつも持たずに、家を出た。
ハンスと手と手を取り合って、屋敷の西に広がる林の中を進む。
「お嬢様……」
ハンスがおそるおそる手を伸ばしてきた。
ワタクシはそれをぎゅっと握る。
ハンスの手、ごつごつしていて、まめがあってとても好き。
王太子の女みたいなつるつるとした手なんかよりずっと男性の手としては格上だ。
小道の横にあるのがハンスの小屋だ。
古いログハウスだけれど、中はきれいに片付けられている。
私が椅子に座ると、すぐにお茶を入れてくれる。
こういうふうに気遣いのできる男性ってすてきだな、と思った。
一間しかない部屋の壁にある、年代物のダブルベッドは彼の両親が使っていたらしい。
今は一人で使っているせいか、半分は物置にしているらしくて、そこだけ、ちょっと散らかっていた。
「いそいできれいにしますだ」
ハンスは大慌てで新しいシーツを取り外すと、たたんでいたのを開いて、ベッドメイキングを始めた。
ワタクシが手伝おうとすると、
「お嬢様にさせるなんてとんでもないですだ」
と言うので、
「そんなこと言わないで、これからはなんでもいっしょに……ね」
とハンスの節くれだった手にワタクシの華奢な手を重ねる。
*
ロウソクの光がほんのりと暗闇を照らす。
ワタクシ達は一つのベッドに入った。
ワタクシはハンスの手を握る。
ハンスったらかなり固くなっているようだ。
「お嬢さま!!
こんなことになってしまい、お気の毒でしかたないですだ。
けれど、おいらはお嬢さまを生涯大切にしますだ」
緊張でコチコチのハンスを解きほぐすように、ワタクシは微笑んだ。
「ハンス……嬉しい!!
あなたは覚えていないみたいだけど、実はワタクシ達は……」
とワタクシと彼の前世について彼に教えてあげた。
*
そう、実はワタクシは前世では田中あゆみという平成から令和の時代に生きていた日本人だった。
ハンスはその時のワタクシの恋人だ。
大恋愛の末、二人は結婚することになったのだが、好事魔多し。
結婚式に向かう途中玉突き事故にあい、二人一緒に亡くなったのだ。
そして転生したのがまるで乙女ゲームのようなこの世界だった。
どうして侯爵令嬢、庭師という身分違いで生まれてしまったのかは、ちょっとわからない。
ある時、ピンヒールを滑らせて階段から落ち、気を失ったことがきっかけで、前世の記憶を取り戻したワタクシは、再び彼への恋心を募らせた。
再び彼と結ばれるにはどうしたらよいか……
考えあぐねた結果、ワタクシは悪役令嬢を演じ、故意に王太子に嫌われ、親からも勘当されるようにわがままの限りを尽くしたのだ。
*
「このときをどれほど待ち望んだことか。
よしおさん……」
ワタクシはハンスことよしおさんの背中に腕を回した。
ハンスが真っ赤になりながらも
「なんだか思い出したような思い出さないような気分ですだ……」
「ゆっくり思い出してくれればいいのよ。
よしおさん」
ワタクシは「むぎゅ」とよしおさんの厚い胸板に、自分のふくよかな胸を押し付ける。
彼の頬を両手で包み、そしてキス。
「ひゃああああ!
おいら女の人とこんなことするの初めてですだ。
おいら、はずかしいですだお嬢様!」
「あゆみと呼んで……」
「あゆみ……
これいいですかお嬢様?」
「よしおさん、愛してる……」
めでたしめでたし\(^o^)/
(完結)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(人-)謝謝(-人)謝謝
他にも、婚約破棄、令嬢もの小説を書いております。
よろしければ続けてお楽しみください。
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『婚約破棄された侯爵令嬢は、失恋旅行中に出会った美少年な王様に溺愛される』
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侯爵令嬢マーシア・エミルランドは、文武両道の美貌の才媛。
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クラーク王子29歳、マーシア30歳のある年、クラーク王子は料理研究家を目指すと言い出した。
どうせ今度も長続きしないだろうとマーシアは暗澹たる思いでいた。
しかし翌年、何故だかクラークは大成功してしまう。
けれどもクラークの成功はマーシアに幸せをもたらさなかった。
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