5
お父様と馬車で学園へ向かう道すがら、楽しい学園生活ってわけにもいかないだろうなーと考えた。
一応、身分不問らしいが、15年間身についた習慣をそうあっさり手放せないと思う。
この世界の元がゲームでなければ、学園には平民のヒロイン候補はいないことになる。
そうなれば準男爵令嬢の私が貴族社会のカースト最下層なはず。
爵位もちの子弟にしてみれば、私なんか家で雇ってる侍従、侍女クラスでしかないのよ。
実際、貴婦人付きの侍女や家政婦(女性の執事みたいなもん)はお勉強のできる私らクラスの花形職業みたいだし。
そんな訳で身分不問なぞ土台無理な話で、モブであっても大人しくしてるにこしたことはない。
もともと前世は平民の私ですから、貴族としてのプライドは持ち合わせてないから楽勝だけど。
それにしても私よりお父様の方がちょっと緊張気味なのが、イケメンパパだけに微笑ましい。
しばらくすると重厚で豪奢な扉を抜け宮殿のような建物の前で馬車が停まった。
王立というだけあって煌びやか〜
入学が遅れたのでお父様は学園長室にご挨拶するそうですが私はそのまま教室へ。
その際、まさか机の角に頭ぶつけて記憶喪失とは言えないから、お父様と相談の結果、当たり障りのない『体調を崩した』ってことにした。
担当教諭らしい男性に付き添われて教室へ向かう際、お父様がそっと耳打ちしてきました。
「辛くなったら帰っておいで」
って。えっ?貴族の義務とやらはどうなったの?
とりあえず、授業の前に皆様に紹介されましたけど反応は冷ややか〜
想定内だけど、ちょと凹む。
しかも私の席は最後尾の出入り口側。
お教室を見渡せば、明らかに席順が家格順なんですけど。
しかも爵位に応じて微妙に制服のデザインが違う。
どこが身分不問だよ!って思ったけどここはスルーしとく。
なぜなら、嫌な女上等!覚悟で言わせてもらえば、このお教室の中で私が一番の美少女だったから。ふふふ。
そしてざっと見渡しても攻略対象的なキャラがいなかったので、安心して学園生活を送れそうだったから(油断はできませんけど)
イケメンがいなくて残念でしたけど、それよりも私の人生の安寧が大事。
おざなりな紹介も済んで、指定された席に着くと隣は空席だった。
はあ、そうですか。私の隣には誰も座りたくないってことですね。
地味にHP削られる。いいけど。
それにしても、身分が低いと先生にも当てられないって......
手を上げても無視されるとは。やるわね、身分制度。
彼らにとって準男爵なんて平民もいいとこなんだろうなぁ。
普通は転校生的なものがクラスに現れたら、一度は取り囲むのが礼儀ってもんじゃない?
もう直ぐお昼っていうのに、未だにガン無視ってドユコト?
チラ見すらされないってどんだけよ。
そんな不条理と理不尽の洗礼を受けた私の隣にいつの間にか男子生徒が座ってた。
どうも具合が悪くて保健室に行ってた模様。顔色悪そー。
でもイケメン。本日初イケメンです。
濃紺の髪はサラッサラで前髪がシャギーな感じで15歳には思えない影のある男って感じ。
髪の隙間から覗く鮮やかなターコイズブルーの瞳が厭世的な雰囲気を醸し出していて、主人公クラスなのに死亡フラグ立ちやすいキャラと言えばいいのか。
それに呼応するように面倒くさそうに私の方をチラッと見た視線の冷たさ。
やばい。好きなタイプのキャラだ。なんかゲームでの推し、俺の嫁って感じで心臓鷲掴みなんですけど。
名前がわかればいいんだけどな。
『俺に気安く話しかけんな』ってオーラがすごくって聞けない。
とりあえず前世の記憶を引っ張り出してみたけど、私が過去にやったゲームや読んだマンガに似たキャラはいないっぽいから少し安心した。
授業中、彼のことをチラ見しながら、観賞対象がいるならこれからの学園生活も楽しめそうだと思った私は、この後の2年間を見事なまでに黒く塗りつぶすことに今はまだ気がついてはいなかった。
読了ありがとうございます