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エステル様に付き添われて気も足取りも重く面会のための部屋に行くと、ダリオと男爵令嬢は既に来ていた。

テーブルに二人仲良く並んで座ってるよ、婚約者でもないのに。


二人の少し離れたところに寮母さんが座っていた。

私たちの顔を見るとホッとしたように立ち上がると『離れて座るように再三申しましたが、問題ないと言われまして』そう耳打ちをして表へ出て行った。


まあね、こんなんでも一応、ダリオは子爵令息ではなく子爵様ですからね。

いくら大人の寮母といえども強くは言えないわよね。

でも、男女二人きりにさせなかった功績は大きいわよ。


もう一度ふたりを見ると、もはや私に(エステル様もいたけど)隠す気もないようで、テーブルの下で手を握り合っていた。


『はっ』


自分の婚約者がどっちか忘れちゃった?ダリオちゃん。ママいないとわかんないんでちゅかー

礼を失しているのはそっちが先だからね。


「で、話ってなんですの?こちらも暇じゃないので早く言ってもらえませんか?」

「もしかして好きな人ができたから婚約解消したいってことですか?いいですよ、破棄になると慰謝料が派生しますけど、面倒だから解消ってことでサクッと元の生活に戻しませんか?」


平民のような言葉づかいをする私をダリオとエステル様が驚いて見ている中、男爵令嬢のアンは笑いながら挑戦的に私を見つめてる。胸元を押し上げながら。

今日の彼女のドレスは挑発的な赤に胸元が深くスクエアカットになって胸が強調されるデザイン。

悔しいけど色もデザインもよく似合っているわよ、アン。

制服同様、下から持ち上げる特別縫製のものよね。


ふはははは、それにしても愚かな。

私だけならドレスの効果はあったかもしれない。

でも見なさいよ、エステル様の重力に愛される本物の重量感を。

そんな重力に愛されないモノ(諸刃キツー)では、この質感はごまかせないからね。

偽物と本物を比べたら一目瞭然なのに、そんなことぐらいで私からマウント取った気にならないでよ。


「そのことなんだが、私は君と婚約の解消はしない」

「へっ」


なんで?今この時点でもテーブルの下ではしっかり手を握ってんじゃん。

そしてアン、いいの?ダリオ、婚約解消しないって言ってるよ。


「アンは、親の、家のために大侯爵に嫁入りが決まっている。だが、私たちの愛は本物だ。アンが嫁いだ後も変わらない愛を誓ったので、私たちがこれからも逢えるように君に協力を頼みたい——」


そう言ってふたりはうっとりとお互いを見つめ合った。


えっと、あんたらアタマ大丈夫?

それより、アン。あんた一体ダリオにどう説明したのさ。

家のためって。それが本当なら一体どんなことをしでかしたっていうの?新興貴族が侯爵家に。

よしんば侯爵家が金を借りてもその逆はないよね、普通。

そして、あんたも婚約解消しないんだ。(まあ、男爵からは言えないけどね、解消)


「協力ってどういうことですか?白い結婚のまま仮面夫婦ってこと?後継はどうするんですか?」

「それもアンと話し合って……跡継ぎができるまでは、その、君とも関係を持っていいとアンは言ってくれている。それに子供ができれば君は準男爵ではなく子爵夫人としての地位を確立できるんだそ」


あーそうですか、わかりました。   って言うか、ボケ。

堂々と『W不倫しますから後始末よろしく』っていう話に乗る奴なんかいねーよ。

なにその二人の真実の愛のために周りが犠牲を払うのが当たり前っていう考え。

寝言は寝てからいうもんでしょ。

はっ、これがもしかして噂のプリン脳って奴?


あまりに自分勝手な言い草に何も言えずに固まってると、二人は承諾されたと思ったのか、また顔を見合わせて微笑んでる。

完全に二人の世界に没入してるよ、シアワセソウデスネ。


隣ではエステル様が、あまりにも斜め上すぎる二人に脳が追いついていないみたい。

扇で口元を隠すのも忘れて淑女らしからぬ大口を開けたまま固まっていた。

エステル様、隠すか口閉じて〜バカに見えるから。

肘でエステル様をつつくと『あっ』と小さく声を出して口を閉じた。

顔が一瞬で真っ赤になりましたね、かわいいですよ。ってそんな場合じゃないですよね。


「それと、もう一つ。君のお茶会の仲間にアンも入れてもらえないだろうか。もう直ぐ侯爵夫人となる身だから交友関係を広げておきたいというのだ」


自分のことでもないのになんでそんなに自慢げなのか意味わからん。

他の男の嫁に行く女だよ。

そして、こっちは”まだ”だけどアナタの婚約者なんですけどね。

浮気相手を本妻のサークルに入れろってその神経がわかんないんですけどー


って、私は一度だってダリオのことを理解したことなんてなかったね。


「アルベニス伯爵令嬢に君からお願いしてもらえないだろうか、頼むよ」


渾身の一撃。多分、ゲームのスチルだったら阿鼻叫喚するぐらいのいい笑顔だった。

しかし、私の我慢は限界だった。

ゆらりと立ち上がると握りこぶしを作り渾身の力を込めて机を叩いた。


「だが、断る!」


そう言うが早いか、エステル様を引きずるように面会室から連れ出すとそのまま部屋へと急いだ。

ちょっと年がばれそうなワードが


ここにしおりを挟んで。ありがとうございました

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