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ダリオの厚顔無恥さにブリブリと腹を立てつつ部屋に戻った。
いっその事あの小屋でのことをぶちまけてやろうかと何度思ったことか。
面会の内容次第では、小屋に乗り込んでやるからな、見てろよ。
そんな不穏なことを思いながらお父様に婚約解消の催促の手紙を書きなぐっていた。
ついでにエステル様が言ってた姿絵の話が頭に浮ぶ。
『伝えたほうがいいのかなぁ』
とりあえず、婚約解消の催促だけを書いた手紙に封をして屋敷へ届けてもらうように寮母さんに頼んだ。
「そういえば婚約者様からお手紙が届いていましたよ」
「そうですか。ありがとうございます」(早いな)
ダリオが婚約者だというのはもはや学園内で知らないものはない。
ダリオの家の紋章がついた封蝋を剥がし中の手紙を読むと、思った通りの内容だった。
”面会の日時とこちらも立会いを立てていい”ということ。
手紙を読んで憂鬱な気分がさらに増した。
ダリオは今でもあの男爵令嬢と逢引を続けている。
あれから何度か尾行してみたのだけど、ほぼ毎日、あの小屋に行っていた。
『よくやるよ』
バレるのも時間の問題だろうけど、その前には婚約解消しておきたい。
めんどくさいスキャンダルには極力近づきたくない。
たたでさえ、問題ごとを引き寄せてる自覚があるだけに。
さて、誰に立会いに頼もうかな。
一般的には寮母さんか学園付きのメイドなんだろうけど、こんな時に頼りになるのはエステル様だよなぁ。
一応、頼んでみよう。お土産にいただいたポッ○ーを食べながら考えた。
その時にこのお菓子のレシピも聞いておこう。
=== === ===
朝、お茶会メンバーと学園に向かう道すがらエステル様とお話をする機会を伺ったのだけど、なかなか一人になる気配が見えなかった。
人気者だな、エステル様。当たり前だけど。
話しかけられないまま学園に着いてしまった。
『あ〜あ、放課後までお預けか』
諦めてお教室へ向かう廊下で千載一遇、エステル様、お一人でいるところ発見した。
「エステル様、おはようございます。今日、放課後、お時間ありますでしょうか。お部屋にお伺いしてもよろしいですか?」
相手に考える隙を与えないように一気にまくしたてる。
「あら、ディータ様。ええ、今日は大丈夫ですけど」
「ちょっとお願いしたいことがありますの」
瞬間、エステル様の眉間に縦線が。ダメよー。
その若さでクセになっちゃうから。伸ばして伸ばして。
「わかりました。いいえ、それ以上は仰らなくともわかりますから」
そう言って颯爽とお教室に消えていった。
何、その千里眼的なの。やっぱりエステル様は謎ね。
放課後、マティスが送ってくれたお菓子を持ってエステル様のお部屋にお邪魔した。
同じ寮の部屋。と、言いたいところだけど、やっぱり身分不問って建前なのねー
私の部屋より一回りほど大きいし、え、ウォーキングクローゼットもついてるの?
どうせ制服しかないから、う、羨ましくはないけどね。
やだ、カーテンも違う。これは作りつけじゃなく自前っぽいけど。
そんな部屋の違いに驚いていると、エステル様は落ち着いた声で言った。
「お願い事とはガストルディ様のことですか?」
エステル様はエスパーですか?
まあ、私の目下の心配事はダリオと姿絵作家としての身バレぐらいしかないですけどね。
「ええ、実は———」
かいつまんでエステル様にダリオの話をした。
まだ彼らが会ってることとか、面会に男爵令嬢を連れてくるとか。頼みごとがなんなのかわからないとか。
「もちろん、家の方には婚約の解消を早急に進めるようお願いしていますが、今はまだダリオ様の婚約者ですしどうしたらいいのか」
「わかりました。私が同席いたしましょう」
それだけ言うとエステル様はお茶の準備を始めた。
「あら、これはメイベル様がお好きな焼き菓子ですわね。せっかくですからレアンドラ様もお呼びして四人でいただきましょう」
そいうと二人を呼びに出て行かれた。
うーん、エステル様は謎。噂話もよく知ってるし。
なんかエージェントみたい。有能な女諜報員って感じがする。
メイベル様とはまた違った色味の赤毛にこちらは男を溺れさせるというエメラルド色の瞳の彼女には、黒も似合いそうだし。
部屋に戻ったらエステル様でキャラ絵描いちゃおうかなー
エステル様自身は全く興味なさそうだけど。
明日は更新お休みします
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