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「お話というのは姿絵のことなんですけど———」
いいですよ。いいですよ。もうエステル様のイメージは出来上がっております。
後は、細かいすり合わせだけになっておりましてよ。
「メイベル様の婚約者アルトゥーロ様は騎士団に所属していらっしゃっるのはご存知ですわね」
「はい」
あれ、なんか雲行きが……
「実はそこでディータ様の描いた姿絵が話題になっておりますの。誰が描いたのか、どこに行けば描いてもらえるか。皆様興味津々らしく騎士団以外の問い合わせも増えてきてると聞いております。こちらはレアンドラ様からだと思いますが。騎士団だけでも数十件、その他の筋からも合わせると100件は超える勢いになっていますの」
なんですとー、いくらその手の絵を描く人がいないからってみなさん買いかぶりすぎでしょう。
この国の人は新し物好きなんかなぁ。
「それに——」
エステル様は声を潜めて先を続けた。
「ディータ様は、あまりお目立ちになられるのは具合が悪いのではなくて?」
はっ。そうでした。一応ここには亡命というか潜伏しているのよね。忘れてたけど。
「そうでしたわ。皆様との交流が楽しくてすっかり忘れておりました」
のんきに答えたらエステル様の眉間にすっごい縦線が。
ダメー、シワになるから戻して戻して。
「今はモンテシーノス小公爵様(レアンドラ様の婚約者)とアルトゥーロ様にお願いして水際で止めておりますが、いつディータ様のことが知られるかと思うと。それにこのまま行きますと何れ学園の知るところとなりましてよ」
いやいやいや、それは困る。
まさか二度目の停学とかってさすがにシャレにならんでしょ。
うーん。自粛するのはいいけどせめてお茶会のメンバーだけでも書いてあげたかったなぁ。
「お茶会のメンバーだけでも描いて———」
「ディータ様っ‼︎」
エステル様に本気のお怒りいただきました。
ですよねー。
「でも、私に渡していただけるのであれば他の方には内密にお渡しできますかしら」
キャっ、何?この捨てる神あれば拾う神システム。
エステル様って侮りがたしよね。
「ありがとうございます。ではご内密に…ふふふ」
エステル様の眉間にまた縦線が入っちゃったけど、シワになるからすぐに戻してね。
スマイル、スマイル。
=== === ===
エステル様のお茶会の後、寝耳に水、藪から棒、ダリオから寮での面会の打診があった。
お教室の席は変わることなく隣のままなんですけど、なんで?
それよりお茶会の日程はどうなってんのさ。そっちが先じゃないの?
しかも立会いに件の男爵令嬢を指名してきやがった。
「私、その方との面識はございませんのに」
(いやこっちは知ってるけどね。尾行した時に)
「いや、その……別に立会いなど誰でもいいだろ」
「よくはありませんわ。(なんでオマエの浮気相手と一緒に面会しなきゃいけねーんだよ)はっ。もしかして婚約解消のお話ですか?私、父上から何も聞いておりませんけど」
「いや、解消の話ではないのだが、個人的に頼みたいことがあって……」
「解消でもないのに私の知らない方を立会いに、ですか……。今更言うのもなんですけど、ダリオ様、それは婚約者がおありになる身としては軽率だとは思われませんか?」
婚約してるのに、席隣だったのに、ずっと空気(いや、空気は必要よね)だったのに、頼みごとがあるからだとー
しかも浮気相手の同席を恥ずかしげもなく言ってくるって。
いや〜、マジで富士山は遠くで見るもの(って誰か言ってたよね)ダリオがこんな断捨離物件だとは思わなかったよ。
「そちらの方にお心が移られたのであれば喜んで婚約は解消させていただきましてよ。そうでないのであれば行動には気をつけていだたきませんと」
「ああ」
「この国では婚約は婚姻よりも制約が多いのはご存知ですわよね。お教室でもお隣の席でありながら会話の一つもなく、お茶会は打診だけで誘う気配もなし、私が近寄るだけで逃げるようにいなくなる。それですのに男爵令嬢を?その方の事はダリオ様のお母上もご存知の方なのでしょうか」
「うっ」
そうよね、ママは知らないわよね。
伝家の宝刀抜いてみたけど、万が一があるから文句はダリオにしか言わないよ。
ここまで来て濡れ衣で断罪とかって嫌すぎるからね。
「フゥ。その頼みたいことには男爵令嬢も関わりますの?」
「いや、まあ、そう…なるかな」
「では、こちらからも立会いを頼んでもいいのでしたら。それ以外はお断りです」
「……わかった。アンに聞いてみるよ。返事は待ってもらえるか?」
いいけど、男爵令嬢は呼び捨てですか。私の前でも。
そんなまどろっこしいことしてないで、いっその事、婚約解消した方が早くない?
これはマジで婚約解消を速攻でお父様にお願いしなきゃいけないかもねー
何事にもバックアップって大切ですね
ここにしおりを挟んで。ありがとうございました




