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後ろを振り返ったはずが、私は再びあの天蓋付きの豪華なベッドに横になってた。
心配そうに見つめるお母様に手を握られて。
お母様の目は真っ赤だ。美しいお顔は相変わらずだけど、うっすらと目が腫れている。
その側にはこれまた美形の青年が。歳の頃は22〜3歳ってところだろうか。
中性的な美しさに金髪とエメラルド色の瞳が天使に見える。
はあ、相変わらずこの世界の顔面偏差値って高すぎる。
お母様の肩に手をかけているということは、お父さまになるのかしら。
私と同じ髪と目の色をしたお母様と並ぶと金と銀でキラキラしい。
「ディータ。今、お医者さまが見えますから。ああ、1日に二度も気を失ってしまうなんて」
肩に置かれたお父さまの手を握りながらお母様は嘆いた。
おお、ではここの世界が私のガチ?になるの?
とにかく、テーブルにしたたかに頭を打って意識を失っていたらしい。
それなら下手な芝居を打たなくていいのだと思ったらちょっとだけ気が楽になった。
脳震盪=一時的な記憶喪失はお約束だからねー
例のヤブ医者がまた来て診察をした。
頭にはでっかいたんこぶが出来た以外は問題なしだったけど、記憶の方はさっぱりだったので流石のヤブ医者も慌てたみたい。
なんか違うお医者さん連れてまた来るって帰って行きました。
暫くはベッドの上でおとなしくすることになりそう。
それにしても、あのマンションのダンボール箱。
スッゴイ気になるんですけど。
また行けるかな?あの場所に。
今度、行くことができたのなら絶対、あの箱を開ける。
今、思い出したけどあの箱は私のヅカコレクションが入ってたはずだからだ。ブフー
=== === ===
翌朝、例のように山盛りの朝食を平らげた後、メイドに軽い読み物を持ってきてもらうように頼んだ。
動けないなら、とりあえず本から情報を得るしかなさそうだから。
ここの字が読めるかな?でも転生者はチート発動で字の読み書きできるよね。
現に会話は成り立ってるわけだし。
その時、控えめなノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
声をかけると、恐る恐る少年が入ってきた。
私より小さいその少年は、紛れもなくお父さまの子供。
お父さまの縮小版というか、幼少版と言おうか。
か、か、かわいすぎる。この年頃の中性的な感じは犯罪だ。
ショタじゃないけど、溺愛対象にしたいくらい。
愛でるー、今すぐ愛でたい。
その溺愛対象が、もじもじしながら横の椅子に腰掛けると涙目になった。
「お姉様、お加減はいかがですか?記憶が戻らないって聞いて」
ここはアレだ。マヤになりきるしかない。
「そうなの。自分の名前さえ思い出せなくなってしまったの。可愛い弟のことさえも」
そう言ってハンカチを掴んで涙にくれるふりをした。
「お姉様、私でお役に立てることがあれば言ってください」
「ありがとう、————」
「ごめんなさい。名前が浮かんでこなくて。非道な姉だと思わないでね」
「お姉様——、ああ、なんて悲劇なんだ」
このクソ可愛い少年との茶番劇に酔っていると、メイドがヤブ医者が診察に来たと伝えに来た。
「お加減はいかがですかな?こちらが心のお医者様で、これからお嬢様のご様子を拝見します」
椅子に座ると心の医者とやらは私の脈を測りながら色々と質問をしてきた。
「今、何年ですか?」
「ここはどこですか?」
「自分の名前を言ってください」
「家族の名前はわかりますか?」etc.
いずれの答えも簡単だ『わかりません』
心の医者と呼ばれた男が深刻そうに頷くと『ここまで重篤な症例は初めてだ』とつぶやいた。
嘘はついてないけどねー『転生者ですか?』とか『前世の記憶を言ってください』って言ってもらえれば答えたけど。
そんな訳で深刻な二人の医者と深刻な面持ちの両親が深刻な相談をお昼頃までやっていた間、私はこの愛くるしい弟を愛でまくっていた。
深刻な相談が終わったと見えて、両親が心痛な面持ちで部屋に入ってきた。
「ディータちゃん、聞いてちょうだい」
お母様、また泣いたみたいですね。
目が腫れてますよー
「お医者様の言うことには、名前と年は教えてもいいけどその他のことはディータちゃんが思い出すまで話しちゃいけないことになったの。もちろん、お勉強はいいそうです(げっ)ああ、娘に自己紹介する日が来るなんて———」
そう言ってハンカチで目頭を押さえたお母様。
ご迷惑おかけしますね。
そんな訳で頭のたんこぶが消える間は安静にするように。
それからは通常の生活に戻っていいということになった。
時々、心のお医者さんとやらが来るらしいけど。
ともかく、私は(ベルナルディタ・スビサレタ 15歳)としてこの世界を生きていくことになった。
ご足労感謝いたします