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「メイベル様」
私は寮へ戻るメイベル様を呼び止めた。
「なんでしょう、ディータ様」
「メイベル様の婚約者の方に会うことはできますでしょうか?なんか姿絵からはイメージがわかなくて」
「まあ、そうでしたの」
ちょっと思案するように顎に手をやるメイベル様。
普通なら可愛い仕草なのに色気だだ漏れだよ。
「あの、でしたら三日後に婚約者との面会がありますので、その時でどうでしょう。私のお付きとしてディータ様のお名前を載せておきますわ」
あー噂に聞いた婚約者とのお茶会ですね。
生で見れる。うれし〜
裏設定、書き下ろし、SSなんでもいいけどビバ!転生ですな。
それとわかってはいたけど婚約者といえども男女二人きりはご法度なのね。
「それでは、その時の菓子は私が——」
「いいえ、そんな。こちらからお礼をしなくてはいけませんのにお菓子まで」
いいの、いいの。マティスは私が買った新しい機械使いたいだけだから。
「暫く我が家の料理人のお菓子をお持ちできなくなりますので、ぜひ」
『あっ』と口元に手をやるとほおを赤らめて『では、お願いします』と小声で答えたメイベル様。
ウハ〜色気だだ漏れでも中身は17歳の乙女なのね。可愛いよ、メイベル。
そんな少女のハートをわしづかみにしたマティスの焼き菓子、恐るべし。
=== === ===
当日のお昼過ぎ、寮の茶話室。
マティスは愛する二人のためピンクのハート型のケーキを焼いてきた。
どの世界でもハート型って普遍なのか。と感心したところでメイベル様と婚約者のアルトゥーロ様が。
おお〜生婚約者、若いじゃない。
あの姿絵マイナス10歳って感じか。
確かにフェロモンはあるけど爽やかさが勝ってるよ、まだね。
黙ってお辞儀をするとメイベル様の斜め後ろに座り、アルトゥーロ様の似顔絵を描き始めた。
ちょっと軍人っぽい彼は、騎士団に所属している正真正銘のマッチョだ。
服の上からでも逆三角形の体型がわかるほどの筋肉。
筋肉フェチでなくともその素晴らしさはわかるよ、メイベル様。
なのでヘンリーネック風のシャツに腕組みをしたアルトゥーロ様を、できるだけ彼に似せて乙女ゲーのテイストで仕上げる。
色付けはまだだけど、なかなか良くできたと思う。
毎日、寮で練習した甲斐があるというものだ。
お話がひと段落したところで机の下から絵を差し出す。
メイベル様のお顔が一段と華やかに。そして頬が赤らんで初々しい。
「どうかしましたか?」
アルトゥーロ様がお尋ねに。ウハ、安定のイケボ。
異世界サイコー。
「実は———」
そう言って私の描いた絵をアルトゥーロ様に見せた。
ちょっと恥ずかしいけど、二人の間で隠し事は良くないよね。うん。
「いただいた姿絵はアルトゥーロ様の魅力が十分に生かされていないような気がして」
なんか昔のブロマイドみたいだもんね。私は好きだけど。笑えるし。
「今日は私の友人であるディータ様に姿絵を描いていただくようにお願いいたしましたの。
それに、先日皆様で姿絵のお話になった時に気がついたのですけど、ポーズが皆一緒だったのですわ」
うん、うん。8人くらいいたけどアイコラ祭りだったよね。
「え、そうなの?」
アルトゥーロ様が驚いているけど、男なんてそんなもんよねー
でも自身でも渡した姿絵はおっさんくさいと思っていたらしく、私の描いた絵を見て『私はこんな感じですか?』『メイベル殿はどう思われます?』と頻りに聞いていた。
「アルトゥーロ様が宜しければ、こちらの絵も持っていたいのですが」
上目遣いに甘えた声で聞くメイベル様は小悪魔そのもの。
ほらほらアルトゥーロ様の頬がケーキと同じピンク色に。
黙って頷く騎士様。きゃー、ごちそうさまです。
『そろそろお時間です』と寮母さんが告げに来たのでアルトゥーロ様のご退場です。が、何やら思案されているみたい。どうされました?
「実は、ディータ殿さえよければ私にもメイベルの絵を描いていただきたいのだが……」
そう言って自分が持っている姿絵を差し出した。
うん、メイベル様だね。これだと多分20年後くらいかな。
確かに今でも色気はあるけど、この姿絵だと小悪魔っていうより悪魔って感じだよね。
色気のある少女っていう、好事家にはたまらん部分が台無しだと思うよ。
「わかりました。次の面会の時までに最高の一枚を書いておきますわ」
鼻息も荒く宣言をした。
なぜ靴下は片方だけ行方不明になるのか
ここにしおりを挟んで。ありがとうございました




