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次のお茶会の時に、前回の手紙で気を良くしたマティスの渾身のお茶菓子が届いた。
今回は焼き菓子にホールケーキが一台、追加されていた。
中でもアナベル様のお話には気を良くしたらしく、別個に焼き菓子の詰め合わせまで付いていた。
そのうち実践販売よろしく目の前で作りそうだよ。
大量のお菓子を学園付きのメイドとサロンに運んできたのだが、どうも前回とは違う空気感がある。
何がとは言えないけれど。
とりあえずワゴンに乗せてもらい、ご令嬢方の前まで運ぶとレアンドラ様がメイドに退出するように促した。
「ここにいる皆様、ディータ様の婚約の件でお話があるというものですから」
前回いらっしゃらなかったエステル様が代表して話し始めた。
心なしか表情が硬いというか怒気を含んでいる。
「ガストルディ様に関しては、少々、お母上に依存されていることも、根が暗そうなことも、見た目が中性的でこの国の男性の魅力の基準ではないことも全て含めた上で彼の美しさを賛美しておりました」
さらっと言ってるけど、結構辛辣ですわよ、エステル様。
つまり、ここでの美の基準は男性的、女性的に特化してる人を指すらしい。
言うなればフェロモンだだ漏れの目の前にいるご令嬢方のことですね。
「もちろん私たちには既に婚約者がおりますので、遠くから眺めるだけで良かったのです。ですが最近、ガストルディ様の周りが慌ただしくなり、先日の夜会で件の男爵令嬢をエスコートしていらしたときには『もう、このお茶会も解散ですわね』とお話が上がったほどでしたの」
この国での婚約は婚姻よりも制約や規制が多いらしいく、婚約者のいる男性には非公式であってもファンクラブ的な物は許されないみたい。
うーん、これも政略結婚が多いのと結婚適齢期が早いことが理由なのかな?
「私たち、初めはディータ様が情熱的にガストルディ様を追いかけておられましたので(ああ、ストーカー行為がバレてた。恥ずかしい)てっきり、ディータ様とご婚約されるのとばかり……それが、公式の場にお連れになったのがあの男爵令嬢でしたから、やはり持参金かと思っておりました」
「それが、あの時すでにディータ様とご婚約されていたなんて———」
暗い地響きのような不穏なうめき声があちこちから漏れ聞こえてきた。
こわいよー、ダリオがこの場にいたら生きて帰れないと思うほど冷ややかな空気に包まれた。
それだけ彼女たちにとって婚約者という立場は重いらしい。
「それでお聞きしたいのですが、ディータ様は今後どうされるおつもりですか?」
ええ〜、そんなこと急に言われても。
今のとこ、二人の婚約は内密にって言われてるから他の人は知らないはずなんだけど。
知られたとしても、きっとあの夜会の後と思われるはずだから、私さえ黙っていれば婚約は成立したまま。
なんだけどー。
「実は……もう、家の方にはこのことを伝えてあります。レアンドラ様にも夜会であったことの証言をお願いしてありますの」
私の返事を聞いて、目で頷くレアンドラ様。
実はあれからダリオのお茶会の招待状と一緒に、このことを書いた手紙を同封してあるのよねー
『まあ、そうでしたの』『そうですわよね』『それにしてもガストルディ様は軽率が過ぎますわ』
私の話を聞いたご令嬢方は一気に緊張を解かれたと見え、口々に心の内を漏らされると目の前のお菓子に手を伸ばした。
「でも、せっかくディータ様にご参加いただいたこのお茶会も今日で最後になりますわね」
確かにいくら美形でも、ここまで不興を買った男のファンでいるのは難しい。そうレアンドラ様が宣言されたので、他のご令嬢方は黙って頷かれた。
「あの……よろしいでしょうか」
アナベル様が沈黙の中、恐る恐る言った。
「実は、ディータ様にお願いがあるのですが……」
洗濯物、乾きませんね
ここにしおりを挟んで。ありがとうございました




