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その日の放課後、私とレアンドラ様は図書室でお勉強会をすることになった。

実際は、この素晴らしい(レアンドラ様:談)物をどう扱うかうべきかとお茶会の方向性を決める会議だ。

腰巾着、いや、右腕と思しきご令嬢を伴って図書室に現れたレアンドラ様は威厳に満ち溢れていた。


ビターチョコレートを思わせるような緩やかなウエーブの掛かった髪は綺麗に天使の輪ができていて、エメラルドの色味の強い榛色の瞳とミルク色の肌の対比はビスクドール並。

違うところは、このメリハリのついたボディー。本当に私と同い年なの?前世の私だってこんな我侭ボディーじゃなかったよ。

一緒にいらっしゃるご令嬢は子爵令嬢らしく、この方もまたマホガニー色の赤毛に青い瞳で小悪魔的な美少女なんだけど、格の違いを感じる。


しかし、私も美少女だと思うんだけど、(そこは負けていない)彼女たちは合わせて大人の色香があるのよねー

そこは完全に白旗ですわ。逆立ちしても色気のいの字も出ない感じ。

国民性の違いかな。私の父と母も美しいけど、どこか中性的なところがあるから。


「スビサレタ様、お待たせしたかしら」

「いいえ、先ほどついたばかりですわ。アルベニス・セルラ伯爵令嬢様。それから私のことはどうかディータとお呼び下さい」

「あら、では私のこともレアンドラと」

「私のことはアナベルと」


お互いに堅苦しい呼び名から一歩前進した。


「そうそう、アナベル。これを見てちょうだい」


そう言って今朝渡したペーパーもどきをテーブルに広げて見せた。


「ディータ様は絵もお上手なんですのね」


アナベル嬢は食い入るようにダリオの似顔絵を眺めていた。


「今朝お渡ししたような物を週に一回、お茶会の時にみなさんで回覧するのはどうでしょう」


描くのは私だからね。こちらから提案してみた。

正直、ダリオは飽きちゃったけどこの方向性は嫌いじゃない。

むしろ週一で集まる時に、絵の上手い人とかいれば少しずつこちらに引き入れたい。

薄い本とまではいかなくとも、それに近いものをゆくゆくは作ってみたいし、卒業までの時間を駆使して、前世ではできなかったオタ活に勤しむのも悪くない。


にこやかな笑顔の下では、そんな私の欲がどす黒く渦巻いていた。

ほほほ、貴族は感情を表に出さないものですわ。


「あら、いいですわね。それならば他の方にも見ていただくことができますもの」

「それなら、もう少し厚めの紙に描いた方がいいですわね」

「もちろん、こちらで紙は用意いたしますわ」


三人で盛り上がっている中、アナベル様はかすかに頬を赤らめて尋ねてきた。


「あの、つかぬ事をお伺いしても?」


色が白いから赤くなるとすぐわかっちゃうのよねー、私もだけど。


「ええ、どうぞ。なんでしょう」

「あの日のお茶会でいただいたお菓子ですけれど、どこのお店のものなのでしょう。あれからうちの使用人に探させたのですが、見つけることができなくて……」


おお、マティス。あなたのファンがここに。

あの日、こっそりお持ち帰りしたのはアナベル様だったのかな?


「あれは我が家のシェフが作りましたの。よろしければ、またお茶会の席にでもお持ちしますわ」

「まあ、よろしいのですか」


いや〜先入観って恐ろしいよね。

話してみれば二人とも気が合うっていうか好みが似てるよ。

どうして避けられてると思ったんだろうか。


「あの……ディータ様、ここから話すことには、お返事されなくても構いません」


そう前置きをしてからアナベル様と目配せをしたレアンドラ様が話し出した。


「ディータさんが初めてお教室にいらっしゃった時、準男爵のご令嬢とのことでしたが、どう見てもそうは思えませんでしたの。なんというか、気品というか佇まいというか、高位貴族にもない気高さが感じられて」

「レアンドラ様ともお話をして、絶対訳ありの方に違いないと。なんとなくこの国の方には見えなかったのもありましたし。その時に、エステル様が(今日は来ていないけど腰巾着2)もしかすると今、内戦になっているあの王国の方ではないかと言うんですの」


レアンドラ様が後の話を引き継いだ。


「あの王国の方なら、非公式での滞在に違いないからそっとしておこうと、皆で相談したのですわ。結果的に無視するような形になって心苦しかったのですけど」

「でも、ダリオ様と婚約されたのでしたらこの国にずっといらっしゃるのかと。でしたらこちらの社交界にもお招きするべきではないかと話がまとまったのですが……」

「中にはこのお話を知らない方もいらっしゃいましたので、失礼なことをお聞きしましたわね。許していただけますでしょうか?」


えー、そうだったの。

なんか性格わるーとか民度低いとか、身分制度を笠に着てとか散々悪口(心の中で)言ってた自分が恥ずかしい。

今ここに穴があったら入ってしまいたい。

確かに父の友人である現王陛下を頼ってこの国に来た身ですからね。

本来ならおとなしくしてなきゃいけない立場なのよね〜私。

それにしても、お嬢様方の気配りは素晴らしい。私の母国の名前を出さない配慮、流石です。


「いいえ、私の方こそ、皆様とどう接すればいいのかわからずに反対に失礼だったのではありませんか?」


「「そんなことは———」」


お二人同時ですね。三人で声を殺して笑いました。ここは図書室です。


「あの、これは本当にお答えにならないでも構いませんわ。———馬車の事故って実は、あん——いえ。やはり止めておきます」


もしかして暗殺未遂だと思ってます?

うわ、あの恥ずかしい事故がそんな大事(おおごと)に思われていたなんて。

本当のことは死んでも言えない。

ので、思わせぶりににっこり微笑んでおいた。

季節の変わり目、ご自愛ください

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