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それから、学園の謹慎処分もダリオ様との婚約も何の進展も見せないまま半月が経っていた。


「お父様、ダリオ様とのことはどうなっていますの?」


返事次第では貴族名鑑を調べ上げてダリオ様のご自宅に突撃する勢いでお父様に聞いた。


「そのことなんだが……」


言葉を濁すお父様に、ダリオ様宅への突撃の気持ちは固まった。

ダリオ様はまだ寮かしら。

確かお母様とお二人で暮らしていると聞いたわ(ダリオノートが役に立ちました)

手土産を持って表敬訪問を口実に———などと不穏な謀を頭の中でしていたら


「あちら側から婚約の打診があった」

「へっ?」


『ドユコト?打診があったってことはダリオ様にも私に好意的な気持ちを?』

この頃の私の脳内は、全て自分の都合のいいようにねじ曲げていた時期なので【貴族の婚姻は政略】という大原則を物の見事に忘れてた。

なんでも、私のストーカー行為(あくまでもこちらの世界では情熱的行動ですけど)を聞きつけた親戚筋が、いつまでも婚約者のいないダリオ様の外聞を考慮されて進言されたらしい。


「では、直ぐにでもお受けしてくださいな、お父様」


何をモタモタしてるんだという目でお父様を睨みつけた。


「うん、いや、婚約は決まると思うけど、両家での取り決めがまだ……」

「あちらの希望通りで、直ぐにでもお受けしてください」


うーん、貴族のご令嬢とも思えない無責任発言。すぐさまお父様はキリッとしたお顔で反論してきた。


「ディータ、いくらお前の頼みでもそれは聞くことはできないよ。貴族間の婚姻は当人同士だけではなく————」


藪蛇だった。この後メイドが『晩餐のお支度があります』と呼びに来るまで、お父様から貴族の令嬢としてのあり方、婚姻の意味について説教&レクチャーが続いたからだ。


=== === ===


そんなやり取りの後、どう、お父様が交渉したのかはわからないけれど、その秋には私とダリオ様の婚約が決まった。

学園に通ったのは現世時間で半年にも満たない短い間で、その間ダリオ様と話したのは数えるほど。

いくら貴族の結婚は政略と言っても、短すぎる期間で決まった婚約には裏があってしかるべき。

なのに、その時の私は強請ったオモチャを手に入れた子供そのもので深く考えることをしなかった。


結婚適齢期の早い異世界らしく、学園内でもほぼ8割の生徒は婚約者が決まっていた。

(爵位の低い私は頭数に入ってませんよー)

残りは、契約がまとまり次第という現在進行形で、ダリオ様のようにお父様が早くに亡くなり、後ろ盾がないせいで未だに婚約者が決まっていないというのは稀だったようだ。

美しい顔をしてお父様はなかなかのやり手なので、多分、そこをついて有利に交渉を進めたに違いなかった。


そのせいかわからないけど、我が家での(一応、婚約は男性側からなので、身分にかかわらず男性側が訪問します)ダリオ様のお家との顔合わせの時、ダリオ様のお母様の私を見る目が氷河期だったのはお父様がかなり無理を通されたから。よね?

私の自宅謹慎が原因とかってない……はずだと思いたい。


お互いに婚約の誓約書を交わし、晴れて今より婚約者同士となった私たち。

ダリオ様の私に対する好感度は高くないのはわかってるけど、これからこの美少女な皮で籠絡すればいいや。などと不埒なことを考えていた。


「ダリオ様、これからよろしくお願いします」

「ああ」


うーん、相変わらずそっけない。またそこがいいのだけど。


「お庭でも散歩されます?婚約者になったのですから」


ウッキウキの私とは対照的な暗いダリオ様。この頃はキャラだと思っていたのよねー


「僕の母が言うには、未来の子爵夫人らしくなるために君は少し落ち着いた方がいいと言っていた。今後は気をつけてくれ」

「わかりました。お母様のお眼鏡に叶うように精進いたしますわ」


なんて健気に答えてたけど、その後の会話全てに


「母が言うには、もう少しきっちりと髪をまとめるようにと」

「僕の母は、そんなはしたないことはしない」

「母は、病弱な方だから」


なぜお母様の話が?というかお母様のことしか会話に出ないのだけど、学園での会話に比べれば語彙が格段に増えたことに感激して違和感を脇に寄せていた。

その時感じた違和感をもう少し大事にすれば良かったのだけど、あの時の私は馬鹿みたいに舞い上がっていたから無理な話だった。


そして、婚約したことは少しの間、内緒にしておこうとダリオ様が言った。


「何故ですか?」

「僕の母が言うには、急いで婚約したと思われるといろいろ不都合があるからだって言ってるから」


ああ、でき婚ってやつの心配してるのかな?でも婚姻ではなくて婚約ですからね、それはないか。

それならアレですか、持参金目当てって思われたくない。そういうことですか。

確かに、ダリオ様に会ってからまだ半年ぐらいしか経ってないことを考えれば妥当かも。


この国で貴族間の婚約までの流れは、家同士の釣書の交換に始まって、当人同士の顔見せが何度かあって、持参金とか寡婦になった後の算段などを契約書にまとめてからやっと婚約。になるってお父様に叩き込まれました。

しきたりどおりにやれば最低でも半年はかかる計算を二週間ぐらいでやっちゃたんだもの、爵位が上のダリオ様のお家が持参金目当てで私と婚約したと思われても仕方のないこと。

持参金目当て=家の没落ですもんね。

それならば貴族として恥ずかしくない程度の”秘密の婚約期間”(隠微な雰囲気)は仕方ないか。


「わかりましたわ。ダリオ様のいい時に告知していただければ」


しばらく婚約したことを内緒にするという明確な説明もなく、書類の確認以外、席を設けることもなく解散って。

色々といまひとつ腑に落ちなかったけど、惚れた弱み、自己解決で納得してその日はお見送りしました。


うーん、普通ならお父様とお母様から不満の声が上がりそうなんですけど、そんなこともなく普段の生活に戻って行った。


私、本当にダリオ様と婚約したよね?

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