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私がマティスとお菓子作りに奮闘していた頃、学園を謹慎処分になったということが一部の貴族の知る処となった。
もともと、学園でいい印象を持たれていない私だったから当たり前といえば当たり前だったのだけど。
(準男爵の家のくせに成績が良かったのもあったみたい)
そして噂とは得てして無責任なもので、謹慎処分という噂に尾ひれはひれがついて気がつけば
『学業についていけなくて(だからダントツの一位なんですって)今は自宅に戻ってパトロンを探している』
となっているらしい。ま、正確なところはわかりませんけど。
噂の出所がどこかは別にしても、その噂を真に受けた高位貴族の方々からお父様に私を愛妾に出さないか?との打診があったということだ。しかも何件も。
実際、学園卒業まで待ってもいいけど、お父様さえよければ今すぐにでもどうだろうか?って、支度金として結構な金額も提示してきた家門もあったらしい。
憶測なのはお父様が何も教えてくれなかったから、メイド達の立ち話を盗み聞きしました。
まあ、まともな親なら娘に妾の打診が来たなんて口が裂けても本人に言えませんよね。
当の本にからすれば(私ですけど)学園にいた時でさえ、普段は無視している奴らがニヤニヤ笑いで『いい条件だと思うがな』と挨拶代わりに言われていたので、純粋に身分の低いものへの嫌がらせぐらいにしか感じていませんけど。
言っても中身は多少世間ずれした25歳なんで。
それにしても、私の学年の男子生徒は程度が低いっていうか、”ノブレスオブリージュ”って美味しいの?ぐらいの意識しかない輩が多いので”愛妾発言”も『バカだな』と鼻で笑ってたけど、本気で言ってくる大人がいたのには驚愕だった。
この話の真実は学園を卒業する頃にお父様から笑い話として聞いたのだけど、お母様が言うに、実際は『決闘を申し込みかねないほど』怒り心頭だったらしい。
そんな不穏な雰囲気が漂い始めた頃、お父様が『ディータには早いと思っていたが、婚約者を見つけねばならないか』とぼそっとつぶやいたのを聞き漏らさなかった。
私は、すかさずここぞとばかりに懇願した。
「お願いです、お父様。それでしたら私、お慕い申し上げている方がおりますの」
この頃には私の思い込みは最高潮だったし、熱病と言うにはイカれすぎてた。
お父様は答えをわかっていながらあえて聞いた。
「それはガストルディ子爵のことかな」
その時はかなりお花畑だったから気がつかなかったけど、寮生活していたにもかかわらずお父様が知っているということは、かなり噂になっていたってことよね。
「だが、ガストルディ子爵より申し込みはなかったと記憶しているが」
「ええ、私の方から申し込むっていうのはダメでしょうか?」
ダメに決まってる。この世界ではね。
でも中身は平成生まれの平成育ちですもの。
ダメ元で聞いてみてももいいじゃない?
お父様は美しいお顔にしわを寄せて考え込まれた。
(なんか最近は眉間にしわを寄せることが多くなったわね)
あの美しいお父様の頭に中で、どんなお一人様会議が行われていたのか知る由もないけど。
「わかった。父がなんとかしてみよう。その代わり、ディータはそれまで羽目をはずしてはいけないよ。間違っても子爵と直接コンタクトをとってはいけないよ」
念を押すようにそれだけ言うと、私を部屋に下がらせた。
それから心なしかメイドの監視が厳しくなったような気がしたけど、気のせいかしら。
丁度よく謹慎から学園の長期休暇に入り、家でおとなしく私の珠玉レオを愛でながらお父様の色よいお返事を心待ちにした。
『もしダメでも新学期になれば、またダリオ様に会えるわ』
と、ストーカー特有のポジティブさを遺憾なく発揮して。
新緑薫る時期になりましたね
私の虎ちゃんは元気でしょうか




