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2021年 クリスマススペシャル ―後編―

 

「では、では、かんぱーい」

 シロの音頭で乾杯を行う。


 パーティーは始まり前のバカ騒ぎなど、無かったかの様に和やかに進んで行った。


 いや……和やかとは違う、静かにと言った方が良いか。


「……おいしい……」


 ユーノはケーキが気に入ったのか黙々と食べていた。


 そしてもう1人のゲスト、ロペちゃんもフライドチキンが気に入ったかの様に同じく黙々と食べていた。


 先ほどの話しを聞いたことによる、ロペちゃんへの同情心からかパーティーは何かお通夜の様な様相を呈していた。



「ち、違う。私が望んだクリスマスパーティーはこんな……こんな、プロ野球選手の星な感じじゃなくて、もっとこう常春な島みたいな感じを期待していたのに!」



 突然シロは苦悩するかの様に悶え苦しむ。


 人が居るだけ良いじゃないか、あれはトラウマになりそうなレベルだったからな。



 シロはワインをラッパ飲みでイッキにあおり、ヤケクソな感じで


「プレゼント交換の時間になりました~、皆さんご準備を!」


 いや……準備も何も、用意などしていないのだが……


 皆いきなり夢に呼ばれた為に、何も用意していないのは当たり前だ


 俺はその事をシロに伝えるが



「そんなことは百も承知、こんなこともあろうかと!」



 そう言ってシロは何処からか取り出したえろげイラストの紙袋をガサガサとあさり、”ピコピコン♪”という擬音と共に包装された箱を取り出す。



「想い出プレゼント箱~」


 思いっきりシロえもんである。


「トヤ太くん、これはね想い出プレゼント箱と言って、手に取った人の想い出深い、聖夜のプレゼントのコピーが箱の中に作られる神器(どうぐ)なんだよ」



 本当にそれっぽいな。つか、トヤ太くんって誰だよ。


「でも、プレゼント交換って言ってもこれは夢だろ、交換しても最終的には消えるんじゃ」


 俺の意見に他のメンバーも追随する。


「トーヤの言う通りだ、幼女のプレゼントを手にしたもののその後消えるのは、不条理だ」


 もう、ロリコンさん黙ってて……


 そして宅のユーノに目線をロックオンするのもやめて


「ああ、これは特別に各自の世界に持って帰れますよ。クリスマスプレゼントの様に枕元に置いてあるのでお楽しみに~」


 その言葉に傍で様子を伺っていたユーノも嬉しいそうに表情を輝かす。


 自分が子供の時もプレゼントって嬉しかったからな、特に孤児院には娯楽のものや嗜好品はほとんどない為にこう言ったのは嬉しいだろう。



 こうしてプレゼント交換が始まる。


「あ、そうだ……えい!」


 シロの掛け声と共に何か視界が霧かかった様になる。


「プレゼントを狙い撃つぜ!っていう人が居そうなので、幻惑の術を掛けさせていただきました。では、はじめましょう」


 シロのその言葉にロリコン紳士は「痛いところを付く……」と呟く。


 狙い撃つつもりだったんかい!!


 シロはいつの間に、何処から取り出したのか、古風なレコード式蓄音機からクリスマスの音楽が周囲へと流れる。


 ユーノは最初その蓄音機の音に驚いたものの、音楽が出る不思議な箱に興味を憶えた様だ。


「お兄ちゃん。あれ何かな? とても綺麗な音楽が出る不思議な箱だね」


 あっちには蓄音機はないからな、そりゃ不思議に思うか……


「あれは蓄音機と言って、あの黒い円盤レコードに細かい溝が作ってあって、そして機械の黒い盤を廻る仕掛けで回転させ、円盤と針を接触させて、その音をあの傘の様な筒から音を大きくして鳴らしているんだよ」


 ウチも爺さんが好きだったから……古い蓄音機を整備してずっと使っていたので、子供の時聞いた話しをユーノにしてあげる。


「……オルゴールみたいなものなのかな?」


 基本的な仕組みは多分似たようなものなので、そうだと伝える。


「オルゴール何て見たことあるのか」


 ユーノは首を縦に振り「うん」と嬉しそうに言う。


「前に教団の”けんきゅうこうぼう”だったかな、皆で見学に行った時に見せてくれたの、とても綺麗な音だったよ」


 よほど楽しかったのだろう。


 楽しそうに想い出話しをするユーノを見て、俺も何だか楽しく温かい気持ちになる。


「あの~いちゃつくなら後でやってもらえませんかね……」




 そしてレコードから出る音に合わせてプレゼント箱がグルグルと交代に受け渡される。


「シングルベール♪ シングルベール♪……」


 ユーノちゃんもご機嫌だな。


 そして音楽が終わった後に、それぞれの手には別の人物のプレゼントが渡りきった。


「では、順番に開けていきましょう。まずはトーヤさん」


 席順では確かに俺になるので、取り敢えず箱を開けてみる。


 中に入っていたのは、細い革紐のネックレスだった。


 質素ではあるが、羽根の意匠の飾りが施された、なかなかセンスの良い物であった。


「おお!なかなか良いものだな。このプレゼントは……」



 恥ずかしそうに手を上げたのはユーノだった。



「お母さんから貰った大切な物なんだ……おにいちゃんが受け取ってくれて良かった」


 ユーノは自分が持っていたであろう、俺が手に手にしているネックレスと同じものを見せる。



 な、何だ……このラブコメ空間は……



 そのラブコメ空間を悟ったのだろう。ロリコン紳士は「やらせはせんよ!!」と呟き。


「さて、ユーノ嬢は誰のプレゼントなのかな!」


 上手く話しを反らすな。


 その言葉に反応したのであろうユーノは自身が受け取った箱を開ける。


 ユーノが箱から取り出したのは、とても綺麗な巻き貝であった。


「きれい……」


 ユーノは心から感嘆したかの様に呟く。


 確かにそう思うくらいに綺麗な巻き貝であった。



 このプレゼントは……


「ぼ、ぼくです……」


 おずおずと名乗り出るロペちゃん。


 ぼくっ娘だったのか


「それは幸福を呼ぶ宝石貝と呼ばれるものなんです。よろしければ、その……」


「……大切な宝物にする」


 ユーノは嬉しそうな笑顔でロペに笑顔で応える。


 ロペもその笑顔で喜んでくれたことが理解出来たのだろう、嬉しそうに笑顔で喜ぶ。


 さっきまでは硬い雰囲気ではあったが、何か打ち解けた感じが二人から感じ取れる。



 さて次はロペだが……


 ロペの箱からは……大きな箱が現れる……げぇ!あれは!


 それは花札屋のゲーム機と同じ日に発売された、天性の咬ませ……もとい勇者なゲーム機だった。


「うわー、これはまたレアな。しかも新品とはマニアが喜びますね~」


 シロ……ロペちゃんはゲーオタじゃないぞ


 ロペはそれが何なのかさっぱり分からず、箱を調べている状態であった。


「す、すまない。それは俺からのプレゼントなんだ」


 そう言って俺はロペに箱の開けかたから説明することにした。


 中身は当時俺が両親から貰ったままの新品の状態で、ゲーム機が入っている。


 そして中に入っていたチラシの裏に、オモチャ屋の店主の手書きでテレビへの繋ぎかたや映し方も図解で書かれていた。


(そう言えばこんな用紙も入っていたな)


 中身を取り出したものの、ロペも好奇心で様子を見に来たユーノも、それが何なのか全く理解出来ない様子だった。


「トーヤさん、テレビならそこにありますから、繋げて見ては」


 シロがそう言うとそこには日曜日夕方の昭和時代劇に出てきそうなテレビが現れた。


「何でこんなものが……まあいいか」


 俺は細かいことは気にせずテレビにゲーム機を繋ぐがこれではゲームは出来ないので、ロペに渡った箱を探ってみる。


「……あ、あった」


 ハードと一緒にプレゼントされた、インベーダーゲームのパチ……もといインスパイア作品を取り出す。


 そしてカセットをハードに差し込んでスイッチを入れた。


 画面には何も映らない、だがすぐに俺は思い出す。


(チャンネルを1に合わせないといけなかったんだったな)


 これまでの癖でビデオ入力とか考えてしまったが、このテレビにはそんなものはない。


 チャンネルを1に合わせると、俺の目には懐かしい画面がそこにあった。


(本当に懐かしいな……)


 何だろう数十年ぶりに会った友人の様な感じが……いや、長年自分の欠けていた何かが嵌まった感じがした。



 俺は持ちにくいスティック型コントローラを手にゲームを始める。


 この時代のゲームは単純だ。


 だけど、単純なればこその戦術が必要になるのだ。



 不思議と俺の手や脳は子供の頃の戦術を憶えていた。


 でも、長年のブランクはやはりきつく、編隊前4割くらいしか倒せず最初のステージでやられてしまう。



「……と、まあこう言う玩具だけど」


 手本を見せるつもりだったが、あまりの懐かしさにがっつりやってしまった。


 ちなみににロペもユーノも固まっている。



「トーヤおにいちゃん。どんな仕組みで動いているの、それ……」


 ユーノはテレビとゲーム機を指差し、とても驚いた様に呟く。


 ユーノの言葉に同意する様にロペも首を縦に振り、気になる様だった。


(あー、説明してもいいのだけど……)


 ここは親父と同じ手で行くか


「仕組みは遊んでみて、自分で知るんだ。まあ難しいことは考えずにまずは遊びなさい」


 そう言って俺はコントローラを二人に差し出す。


 最初に手に取ったのはユーノだった。


 それからは二人のゲーム大会になった。


 仲良く交代でゲームを進め、互いに攻略手順を確認し合って、幼少期の俺が友人とゲームをした光景の様だった。



(子供の頃もこうやって友人と遊んだな)


 先ほどまでは少し固い二人であったが、ゲームを切っ掛けとして打ち解けた様だった。


 ゲーム機をプレゼントしてくれた親父と母さんには重ねて感謝だな。


 ゲームで遊んでいる二人を眺めていると、中身が入ったブランデーグラスを手渡された。


 手渡してきた人物はロリコン紳士だった。


「礼を言うよ」


 俺は無意識にグラスを手に取ると、ロリコン紳士はそう言って来た。


「彼のことは知っていたが、向こうではあまり馴染めてなくてね。ハンデのこともあって塞ぎ込んでいることも多かったんだ」


 俺はロリコン紳士から受け取った、ブランデーのロックを軽く口に含む。


 俺の口内に蒸留酒特有の爽やかな薫りが抜ける。


「彼って誰のことだ」


 ロリコン紳士はイタズラっぽい笑みを浮かべ衝撃的なことを言いやがった。


「ロペのことだよ、彼はもとい彼女は両性でね。まあ、私が居るあの世界では珍しくはないがね」


 俺はゲームをプレイしているロペを二度見してしまう。


「どうみても女の子にしか見えないが、まさかリアル男の娘をこの目で見ることが出来ようとは……」


 そこまで長くはないが、長生きはするものである。


 ロリコン紳士は自分の持っているグラスから、ブランデーで口を湿らす。


「……かの光景をみたまえ、この光景で飲むのは格別だとは思わないかね」


 まあ、それには同感だな。

 俺はロリコン紳士を少し見直したが、その評価はすぐに急落することになる。




「ええい、このプレッシャーは!!!」

「見える!? 私にも天国が見える!!」

「………これが若さか」


 やかましい!!


 つか、その欲望にまみれた目はやめい!!!


 ゲームも一段落に、現在目の前には、ユーノとロペのツイスターゲームの光景が繰り広げられていた。


 シロのプログラムの注釈のポロリはないが、チラリズムな光景が繰り広げられていた。


 息づかいの荒らさと良い、悩ましげな構図と良い、とても見せられない聴かせられない状態であった。




「王さまゲ~ム!はっじまるよー!!!」


 俺達は席順に着き、コタツ机の真ん中に置かれた棒クジを眺める。


「遠慮する人もいるかもですから、ルールは少し変えて、王様の命令はこのクジの中から王様が引いて決めることにします」


 そう言ってクジの入った、レトロなカプセル型自販機が現れる。


「他のルールは通常と一緒なので、各人の保護者の方々はお子さんにご説明をお願いします」


 何処ぞの担任の教師の様なシロの言う様に、俺はユーノに説明を行う。


 俺の説明を聞いたユーノの表情が変わる。


「……トーヤおにいちゃん。聞いて欲しいことがあるの」


 ユーノの表情は何かを秘めた様な表情であった。


 ユーノの話しを聞いた俺は、ロリコン紳士やロペにもその話しを持って行くことにした。




「「「「「 王様だ~れだ! 」」」」」


 俺達5人(1人は蛇だが)の掛け声と共に引かれるクジ。

(ハズレか)

 そこには2番と書かれていた。


「はーい、王様でーす」


 嬉しそうに王様クジを手にしたのはシロであった。



「さーて、命令は何になるのかな」


 シロはカプセル型自販機をガチャガチャ回し、命令の書かれたカプセルを開け命令を発する。



「えーと、1番が2番に………愛を囁く」


 2番は俺だよな……あ、相手は……


 1番のクジを見える様に出して来たのは……


「あ、あの……よろしくお願いしまっちゅ!!」


 緊張のあまり噛んでしまったロペちゃんだった、いや”くん”のがいいのか……どっちでもいいか


「あー、まあ、適当でいいからな」


 俺はロペの緊張を解す為に、気楽にする様に言うが。


「あい、あい、あい、あい……」


 お猿さんじゃないぞ。


 だけどロペは緊張で固まって、何を言っていいのか全く分からない様子だ。



「うーん、仕方ありませんね」


 そう言ってシロは、何か書かれた紙をロペに渡す。


「その紙の内容を読んでいただければオーケーですよ。更に……えい♪」


 シロはロペに何か力を使用したのか、緊張に強ばっていたロペの表情がトロンとした恍惚した表情になる。


 な、何かイケナイ雰囲気がプンプンするぞ。



「ご主人さま~」


 ごふっ!!


 いきなり甘ったるいロペのハートマークが付いたかの様な、ご主人様発言に俺は咳き込む。


「だ、大丈夫ですかご主人さま」


 ロペは潤んだ表情で、咳き込んだ俺の顔を見上げる様に見つめる。


 いわゆる上目遣いと言う奴だ。


(こ、これは!!)


 彼女居ない歴=年齢の賢者である俺には正直凶悪な攻撃であった。



 だが思い出せ!! この子は男の娘だ!!!

 ・


 ・


 ・

 だからどうだと言うんだ。

 ・


 ・


 ・


 俺は何を言っているんだああああああああああああああ!!!!!!


 思い出せ、俺はロリコンでもない!ショタコンでもない!


 男の娘はどっちになるんだ……



 って、どうでもええわ!!



「……ロペちゃん。俺は大丈夫だから、頼むからそんな悲しそうな表情はやめなさい」


 俺はこの子の瞳から流れ落ちた滴をそっと指で拭う。


 その肌はまるで絹の様に滑らかだった。


「綺麗な肌だな」


 俺はつい感想を呟いてしまう。


 俺の感想にロペの顔は羞恥に朱に染まって行く。



「……ありがとう……そ、そのユーノちゃんみたいに”おにいちゃん”って呼んでいいですか」


 そんな恥ずかしそうな顔で……こっちも気恥ずかしさで限界であった。


「す、好きに呼んでくれ」



「はい!そこまで~」


 シロが終了の合図を出すと、ロペの様子が元に戻る。


「いや~良いものを見せていただきましたよ。で、初めて男の娘とイチャイチャした気分はどうですか、トーヤ”おにいちゃん”」



 うるせえ!!!



 2回目の王様ゲームが始まった。


「「「「「 王様だ~れだ 」」」」」


 一斉に引かれる棒クジ


 次の王様は


「……わたし……」


 王様のクジを持ったユーノが手を上げる。


「おにいちゃんから聞いたことですけど、”王様が指名した番号”の人に命令するのが本来のルールなんですよね」


 ユーノは皆に確認する様に伝える。


(ここで仕掛けるのか)


「ああ、通常のルールではそうだと言うのは私も知っている」


 ロリコン紳士もユーノの言葉に同意する様に言う。


「今回、最初だけは本来のルールでやってみるのも良いのではないかな、場が弛緩してきてからそのカプセル自販機を使うとのことではどうかな」


 ロリコン紳士は真面目にいていれば、説得力ありそうな感じだからな。俺が言うと”何か企んでいる”と警戒されるし、適材適所と言うやつだ。


「いいですよ~ それもまた楽しそうですね。では、ユーノ女王命令を♪」


 その下知を合図に


「「「おっと手がすべった」しまった」ました」


 俺達3人は自分の持っている番号クジをコタツ机に置く。


 もちろん番号はユーノに丸見えだった。



「な、何をするんですか!これはノー……」



 シロが言いきる前にユーノの命令が発せられる。


「命令です!3番さんは1番さんの体を治してあげてください!!」


 控えめのユーノから今まで聞いたことがない様な、強い意志のこもった声が響く。


 それはまさに――――願いであった


「……ふぅ……はめられましたか……申し訳ないですが王様の命令でもそれは出来ません……いえ、やってはいけないことなのです。対価もなく願いを叶える行為は大きな歪みを起こすことにも繋がります。 それともたった1人の為に多くの者に禍いが降り掛かる様なことを、あなた方はお望みですか」


 シロの冷たい拒絶は言いたいことは分かるが……


「禍いと言うのは具体的にはどんなものだ」


 倫理的に神様が依怙贔屓するのはズルとか、そんな理由なら正直納得出来ないが


「そうですね……奇跡には対価が必要なのですよ」


 そう言ってシロは何処からとなく、ヤジロベーを取り出した。



「これは極論の簡単な例ですが、普段は世界の安寧はこの様な感じで保たれています。左右の小さな揺れ動きは仮に左は正、右は負としましょう。世界は小さな正と負によって保たれているんです」


 ヤジロベーが右側に大きく傾く。


「世界が大きく右に傾く……これは世界の秩序が負に傾いたことになりますが……」


 だが、左に戻る正の力が働き傾きが戻り、左右が釣り合った。


「これが浄化作用です。 一時、負に傾こうとも正に戻る力がある、その逆もしかり、それが安定した世界なんです」



「ですが……」


 今度はヤジロベーは強く左に傾く。


 その勢いにヤジロベーは下に落ちてしまった。



「今の勢いが、いわゆる神の奇跡です」


「いままで荒れた世界の救済に神々は多くの奇跡を起こして来ましたが、それは同時に世界に大きな傷痕を残しました。そしてそれは永きに渡り禍いと言う後遺症として残っているのです」


 落ちたヤジロベーは軸が曲がり最早、自立するのは不可能であった。


「対価なしの願いがうんぬんと言っているが、俺達のことはどうなんだ」


 シロは俺の発言に軽く笑う。


「トーヤさん達も願いを叶える際にはちゃんと対価を頂いていますよ。ま、その対価が何とは言うことは出来ませんがね」


 俺はその言葉にゾッとする。


 人間知らない間に借金をしていることほど怖いことはない。



「……神様の宴のお話」


 ユーノはポツリと呟く。


「おやよくご存知で、それでしたら対価が何かはお分かりでしょうね。そして他人の為に願いを叶えると言うことがどういう結果になるかも」


 頷くユーノだが、俺はその内容が気になるので聞いてみる。


 それは教団に古くから伝わる昔話だそうだ。



「……神様の宴に呼ばれた少年、病の母の治療を願う、神様は対価に少年の運命を貰う、そして……」


「己の運命を呪い大人になった少年は孤独に終る」



 教団に伝わる話しはこれだけのそうだ。


 この話しを元にした創作の話しは沢山あるそうだが、多くは事実ではないそうだ。


「言っておきますが、教団は教訓の為に話しを残したのでしょうが、この話しは事実です。件の少年は世界の安寧に寄与していただきました。 まあその人生と結末はとても良いものとは言えなかったですけどね」


 シロは真剣な表情で、ユーノを見据え言葉を発する。


「ですがユーノさん、あなたは対価となる”運命”を持っています。その運命を私に差し出すと言うのであるならばあなたの願いを叶えても良いですよ」


 ユーノは驚いた表情をする。


「……それっておかあさんが言っていた……」


 ユーノは泣きそうな表情で俯き静かに呟く様に言う。


「ええ、その運命は容赦なくあなたに牙を向けるでしょう。それでも願いを求めますか」



 ユーノは逡巡する。


 少し躊躇った後に静かに頷いた。


「ユーノ、俺には君のその運命と言うものなのかは何なのかは知らない。でも、他者の為に自分の運命を歪めようとするのは間違っていることだ」


 俺は反対だった。


 願いの対価となる運命……それが、どんなものかは知らないが、まだ小さなユーノが背負うには重すぎるものだろう。


「……おかあさんが亡くなった時、わたしは何もできなかった。おばあちゃんもおねえちゃんも苦しんでいるのに何もできなかった。だから……だから…」


 そう言ってユーノは泣いてしまった。

 俺はユーノの頭を優しく撫でる。


 そうか……この子は、何も出来ない自分を変えたかったのだろうな。


 今まで多くのことを観、それ故に力になりたいと思っていても力の無い自分では何も出来ないと諦めていた所に


『自分にも出来ることがある』


 その言葉は現実と言う理不尽に無力と考えている子には手にしたい願いだろう。


「そうか、ユーノは大切な人の助けになりたかったのだな」


 頷くユーノ



 その様子を見ていたロペは驚いた様子で


「……どうして、そんなにボクのことを、だって少し前に会ったばかりじゃないか!」


 理解出来ないロペは混乱したかの様に言葉を発する。


「だって、みんなボクのことをお荷物だって!」


 ――――おまえは生まれるべき存在じゃなかった!!


 それは残酷な、この子の魂まで傷ついた、呪いの言葉の様だった



 ――――おまえは生まれてはいけない子だった


「おかあさんのお父さんが、わたしに言ったことばなんだ。ちいさい頃のことはあまり憶えていないけど、このことばは憶えている……」


「……何で……そんなことに……」


 ユーノは語りだす。


 自分は何者か……


 その言葉に俺は思い出す。


 ガネメモである男が言っていた台詞


『間違いを……忌むべき過ち(バスタード)を正しただけだ!! 我が望みの為に!!!』


 その男は多くの人を殺した。


 忌むべき過ちの名の元に……多くの私生児(バスタード)を、己が血族を……


 ガネメモには”忌むべき過ち”の一文で片付けられた命……それが……


 目の前の少女だった。


 俺は何も考えずユーノを抱きしめる。


「もういい……やめるんだ……辛いことを語らせてごめんな」


 ユーノは最初驚いた様子だったが、感極まったのか俺の胸の中で泣き始めた。


 俺は自己嫌悪に己を責める。


 俺はその男には同情に似た様なものを感じていたのだ。


 その男が奪った命の重さを理解しようともせずに……



「……おにいちゃんが、おとうさんだったら良かったのに……」


 ひとしきりに泣いた後、ユーノは開口一番にそんなことを言って来た。


(まあ俺の本当の年齢ならユーノくらいの娘が居ても不思議じゃないな)


「おにいちゃんじゃなくても、おとうさんでもいいんだぞ」


 アリアにそう呼ばれるのは抵抗はあるが、ユーノになら呼ばれても良いかと思う。


 ユーノは俯き静かに俯き


「おと………さん」


 どうやら恥ずかしくて言いきれないようだった。



「決心は変わらないのか」


 分かっていた。


 この子はロペに救いを求めたのだ。


 ロペがユーノの代わりに幸せな生を歩む。


 自分と同じ”いらない者”と言われた者が幸せになる道を……


 ユーノは静かに頷く。



「……ダメだよ……そんなのダメだよ!!」


 今まで状況を見守っていたロペが大声を上げる。


「それってぼくは願いが叶うけど、ユーノが不幸になると言うことじゃないか! そんなの…… そんなのって……」



 そう言ってロペの瞳か涙が流れ始める。


「救われたいと願っていた。自分の瞳でまた世界を見たいと想った! 自分の足で歩きたいと想った! でも…でも…」


「初めての友達を犠牲にしてまで欲しい何て思ってない!!!」


 この子にとって健康な身体よりも欲しいもの……それは……


「……大丈夫……大丈夫だから」


 ユーノが崩れ落ちるロペを抱きしめ、先ほど俺が受け止めた様にロペを抱きしめる。


 それは初めて会ったロペにユーノが掛けた言葉と同じだが、そこに秘められた意志は全く別のものだ。



「シロ……ユーノのその運命に俺が関わることが出来るか」


 俺はシロに向かい俺の覚悟を伝える。


「おや……てっきり止めるものかと、子供が過った道を進もうと止めるのは親の役目じゃないのですか?」


 俺は「そうだな……けど、」と言った後

「それでも子供が進みたい道をしっかり照らすのも親の役目だとも思うんだよ。だからあの子の重荷は半分は俺が背負う」


「ぶっ!あははははははははは!!!」


 いきなり大笑いを始めるシロ、俺何か面白いことでも言ったか……


「いや失礼、失礼…… 半分と言うところがトーヤさんらしいなと思って」


 俺らしいって何だよ。


「悪いけど、全部背負えるほど甲斐性はないぞ。それに、自分でその道を決めたのなら自分で努力しないとな」


 俺は膝を崩し、目線を落としユーノの瞳を見つめる。


 とても純粋で綺麗な瞳だった。


「俺も力を貸すよ。頼りないかも知れないが、それでも父と呼ばれた者として可愛い娘を守らせて欲しい」


 ユーノは泣き笑いの様なとても嬉しそうな笑顔で頷く。


 ――――ありがとう


        おとうさん ――――





 小さな、小さな宝箱の中で、とても綺麗な巻き貝が日の光を受け輝いている。


 その宝箱はユーノの宝物の隠し場所だった。


 とても綺麗な巻き貝はどういう訳か、起床後の枕元に置かれていた。


 それをいつ誰に貰ったか、その記憶はない。


 でも、その巻き貝を見るとユーノはとても温かい気持ちになる。


 それは自分にとって……とても大切な、大切な何かがあったと言う気持ちだった。



「ユーノ早く行かないと、朝食を食いっぱぐれるよ」


 同室の年長のアメルのその言葉にユーノは宝箱をベットの下にしまい、アメルと慌てて食堂へと向かった。


 食堂は見慣れた光景で活気付いていたが、最近増えた光景がユーノの瞳に写る。


 それは老婆の小言を受けながら朝食を食べている1人の青年だった。


「この穀潰しが、一体いつまでウチでメシをたかる気だい!」


 メリアは相変わらず優しそうに見えるのに、偏屈な感じで威圧している。


 大抵の人はその威圧で震えるもので、子供達からはメリアはとても逆らえる存在ではないのだが……


「いいだろ、アリアがいつでも来てくれって言うんだから! それに一攫千金を当てたら倍にして返してやるよ」


 そう言いながらパンを咀嚼する人物……トーヤはメリアに渡り合うかの様に反論する。


「ふん!! 一攫千金なんてそんなの当てになるかい! 真面目に働いたらどうだい!!」


 そう言ってトーヤの確保していた、ふかしいもをメリアが取り上げ口に頬張る。


「あ!! 俺の取って置きの好物を! これが人間のやることかよぉぉぉぉぉ」


「二人共、行儀が悪いですよ」


 騒がしい二人を諌めたのはユーノにとって憧れのお姉ちゃんであるアリアであった。


 笑顔ではあるのだが、妙な迫力を秘めたアリアの言葉に静かになる二人。


(おばあちゃんは怒らせると怖いけど、おねえちゃんは笑顔が怖い時がある……)


 ユーノはちょっと怖い雰囲気の中、その三人の席に向かう。


「おはよう、アリアおねえちゃん、おばあちゃん」


 そしてユーノはトーヤに向き


「おはよう、おとうさん」


(え!?)


 おにいちゃんと言おうとしたのだが、自然に”おとうさん”と間違えて口にしてしまいユーノは恥ずかしくなり、アリアおねえちゃんの後ろに隠れる。


(……な、なんで、おとうさんなんて……)


 ユーノは見た目は怖いけど、とても優しいおにいちゃんが大好きだった。


 確かに自分のおとうさんがおにいちゃんの様な感じだったら嬉しいだろうと考えたことがあったが……


 アリアおねえちゃんの後ろから様子を伺う様に、おにいちゃんを見ると、とても優しい笑顔で


「おはようユーノ、今日も元気だな」


 その優しい笑顔を知っている、でも思い出せない。


 でも、その笑顔で十分だった。



「うん! おとうさんおはよう!」








 それは夢の続き……




 夢の中で一匹の白い蛇 ――シロが、パーティーの後片づけを行っていた。


 蓄音機からは先ほどまでのクリスマスの歌ではなく、悲しげな音楽のクラシックが流れている。


(やはり寒い国だけあって、いい雰囲気の曲が多いですね)


 片付けの途中で友人の気配がしたので、シロは一先ず休憩することにする。


「お疲れ様です、たっくん。どうでしたか私の企画したクリスマスパーティーは中々良かったでしょう」


 シロが話し掛けた人物は褐色の肌の美少女で、それは先ほどまでパーティーを共に楽しんでいた”ロペ ”と言う名の少女だった。


「はい、愉しかったですよ…… とても愉快な茶番劇でした」


 ロペ……たっくんはトーヤやユーノ達と接していたような屈託のない笑顔で言い放つ。


 だがシロには分かる。


「随分冷めたことで、人の運命を嘲笑うのは良い趣味ではありませんよ~」


 たっくんは足掻き、希望を秘めた人間が崩れ落ちる姿が好きな為だ。


「あなたには言われたくありませんよ。 あなたも自身も今回も含め、どれだけの人間を陥れたのか自覚はあるでしょう」


 たっくんは暗にシロと”同類”と言って来るが勿論違う。



 シロは「フフ……」と軽く嗤うと


「私とたっくんは違いますよ。あなたは”愚かに崩れ落ちるのが好み ”ですが、私は”困難を乗り越えた人間 ”が好きなだけですよ。まあ、乗り越えられずに崩れ落ちるのが大半ですけどね」


 乗り越えられる試練は試練じゃない。


 それがシロの矜持であった。



「それよりもお仕事は終わりですよ。それとも後片づけの手伝いに来てくれたのですか」


 たっくんは一瞬呆れた表情をするが、その感情はシロでなければ見逃すほどの一瞬のものだった。


「そんなもの”力 ”を使えば一瞬…… まあいい、聞きたかったのは今回のことについてだ」


 いい加減、ロペに成るには飽きたのだろう


 姿格好はロペだが、その顔は


 ――――奈落のごとく、深い闇が広がっていた。


「手順と目的については、最初にお伝えしていたと思いますが」


 あらかじめ自分の考えたパーティープログラムと計画書を送っていたのだ。


 何か説明に不備があったかと、シロは考えるが


「聞きたいのは二つだ。一つはあのユーノと言う子供に試練を課す為のお膳立てと言うのは分かっているが、本来の計画とどう言った関わりがある」


 シロは、「ああ……ああ……」と納得し、そう言えば本来の計画との関わりについての説明が抜けていたことを思い出す。


「これは説明が難しいのですが……要は足りなくなって来たのですよ」


 シロは苦労してますな感じでため息混じりで説明する。


「トーヤさんの、あの世界で得られる”モノ”を計算したのですが、いくつか狂いが生じていましてね。それでトーヤさんの贄としてあの子を使うことにしたのですよ」


 たっくんはその回答に興味を失った様に……


「まあいい、お前の計画については成果の分配さえ守れば特に問題はない。本題は……」


「あの”男”…… あれは何だ……」


 たっくんのその言葉にシロは嬉し楽しそうに言う。


「いいサプライズでしたでしょう。彼はロリコン紳士と言いまして……」


 シロはイタズラを秘めた子供の様に笑いをこらえながら説明しようとするが


「私が聞きたいのはそんなことではない!!」


 たっくんの怒声が響く。


「あの男の火精の気配は一体どういうことだと聞いていると言っているんだ」


 たっくんのその表情は小火(ボヤ)を見つけた反応のそれだ。


(まあ、住み家を焼き払われたとあっては小火(ボヤ)でも慎重になりますかね)


「簡単に言えばそれこそが”彼の真なる願い”だからですよ」


 そう言ってシロは《想い出プレゼント箱》をたっくんに投げ渡す。


「彼は貴方にこれを渡そうと思っていたのでしょうけど、物騒なことになりそうだったので私が回収いたしました」


 たっくんは訝しげながら想い出プレゼント箱を乱暴に開ける。


 ――――中には血にまみれた短剣と一冊の日記帳がそこには入っていた。


「因果応報と言う言葉が、トーヤさんの世界の国にあります。人を陥れるのは結構ですが、禍根はしっかり絶たないと痛い目を見ることになりますよ」


 たっくんはロペの姿など忘れた様に、その姿を影の様な姿に変化させ震えている。


(あんなに楽しそうに嗤って……いい暇潰しになりそうですからね)


「……せいぜい頑張ることだな人間」


 語れることのない物語はここに始まろうとしていた。


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