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童話りんくんとピロピロピィ  作者: 美祢林太郎
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三章 ピロピロピィの秘密

三章 ピロピロピィの秘密


34頁

毎年、我が家は夏になったらお父さんの実家に帰ります。実家にはおばあちゃんが一人で住んでいます。ぼくはおじいちゃんを知りません。おじいちゃんはお父さんが子供の頃に亡くなったそうです。おばあちゃんが、おじいちゃんはあの世へ行った、と言っていました。

そう言えば、ぼくが幼稚園の頃、お母さんが星を指さしておじいちゃんは星になったの、って言ったことがありました。ぼくもいまは小学生になったので、人間が星にならないことくらいは知っています。星は地球や太陽のようにとても大きいのです。人間が星にはなれないのです。

もしかすると、おじいちゃんはあの星に戻ったのかもしれません。どうしておじいちゃんは、おばあちゃんとおとうさんを地球に置いて、一人で帰っちゃったんでしょう。何か急ぎの用事があったのでしょうか。もうぼくたちのところへもどってくることはないそうです。それを考えると、さびしいです。

でも、お父さんがおじいちゃんと一緒に星に帰っていたら、ぼくは生まれてくることはできませんでした。お父さんが星に帰らなくて、本当によかったと思いました。


35頁

もしかして、おばあちゃんも宇宙人なのでしょうか? おばあちゃんの目は少しダチョウさんの目に似ているようにも思えます。ぱっちりとしています。ダチョウさんは鳥の仲間です。もしかすると、おばあちゃんは鳥の星の宇宙人かもしれません。鳥の星の宇宙人、そうだ、お父さんもお母さんも鳥星人なのだ。

まじまじとおばあちゃんの顔を見ていると、「顔になにか付いているの」とおばあちゃんに怪訝そうにきかれました。「ううん、しわの数を数えていたの」と言ってごまかしました。おばあちゃんが笑うと、皺が深くなりました。ぼくはおばあちゃんが大好きです。


36頁

 夜はおばあちゃんの寝言を聞かなければなりません。おばあちゃんと一緒に寝ます。去年までのように、先に寝てはいけません。でも、頑張ったのに先に寝てしまいました。いつ寝ついたのか覚えていません。ぼくは意志が弱いのでしょうか。


37頁

 今日は頑張りました。おばあちゃんよりも遅く寝ました。でも、おばあちゃんの寝息を聞くと、すぐに寝ついてしまったようです。当然、おばあちゃんの寝言を聞くことはできませんでした。


38頁

 おばあちゃんの寝言を聞くことはできそうもありません。だって、正直に白状すると、お父さんとお母さんの「ピロピロピィ」と「ピルピルピィ」の寝言を聞いたのは、たった一回しかないからです。毎日一緒に寝ていても、聞けたのは一回だけです。寝言を聞いた後は、もう一度聞きたくて起きていようと何度も頑張ったのですが、ぼくは毎日ぐっすりと寝てしまいました。おばあちゃんちに泊まるのは、一週間だけなので無理だということがわかりました。ぼくはあきらめて、早く寝るようになりました。


39頁

 ぼくはある日勇気を出して、おばあちゃんにお父さんとお母さんは鳥星人ではないかと聞きました。「どうして」と聞き返すので、「ピロピロピィ」と「ピルピルピィ」って寝言を言うことを教えてあげました。するとおばあちゃんは少し考えていました。そして何かを思い出したようでした。


40頁

 「なつかしいわね。りんくんのお父さんが小学1年生の時におじいちゃんは亡くなったの。時々、お父さんが夜に「お父さん、お父さん」って言って泣くの。さびしかったのね。おばあちゃんはお父さんに「かなしくなったら口笛を吹けば、お父さんはすぐそばに来てくれるよ」と言って、口笛を吹いたんだけど、おばあちゃんは口笛が吹けなかったの。仕方がないので、「ピロピロピィ」って言って口笛の真似をしたの。それからお父さんもよく「ピロピロピィ」って布団の中で言って、寝るようになったわ。なつかしいわね。お父さんは、きっと夢の中でそれを思い出しているのよ」。


41頁

 翌朝、お父さんにおばあちゃんから聞いた話をしました。お父さんは子供の頃の話を覚えていませんでした。お母さんは「そうだったんだ」と言って、少ししんみりとしたようでした。

お父さんは、縁側に座って庭のスズメに向かって「ピロピロピィ」って語りかけていました。スズメは尻尾を振ってうれしそうに「チュンチュン」とこたえていました。


42頁

 「お母さんもお父さんにこたえて「ピルピルピィ」って寝言を言ってたよ」って教えてあげると、「えっ、聞いていたの。お父さんの「ピロピロピィ」がおもしろいから「ピルピルピィ」ってこたえてみたの。お父さん、にっこり笑って「ピロピロピィ」って返事を返してくれたわ」。お父さんは振り向いて、はずかしそうに笑い、「覚えてないね」とこたえました。


43頁

 ぼくはお父さんもお母さんも鳥星人ではないことに安心しました。これでお父さんもお母さんもどこにもいかないことがわかりました。ぼくも遠くの星に転校しなくてすみました。

ぼくは「ロピロピィ」って言って笑いました。おばあちゃんは仏壇の方を見てほほえんでいました。


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