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童話りんくんとピロピロピィ  作者: 美祢林太郎
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一章 お父さんのピロピロピィとお母さんのピルピルピィ

一章 お父さんのピロピロピィとお母さんのピルピルピィ


1頁

 りんくんには誰にも言えない秘密がありました。


2頁

 りんくんは小学一年生です。

 りんくんは生まれた時からずっとお父さんとお母さんと3人で寝ています。

 数日前にお父さんとお母さんから、

 「りんくんも3年生になったんだから、そろそろ一人で寝ようね」って言われたのです。

 りんくんは「う、う、うん」とうかない返事をしました。


3頁

 お母さんが「いやなの」と心配そうに聞きました。

 りんくんは黙ってうつむいてしまいました。


4頁

 りんくんは、一人で寝ることが少し怖かったのです。でも、一週間前に友だちのけんちゃんとさやかちゃんとぼくの3人で一緒に遊んでいた時、2人とも一人で寝ていると言いました。「りんくんはお母さんと一緒に寝ているの」と聞かれたので、ぼくは「ぼくも一人で寝ているよ」と咄嗟に嘘をついてしまいました。ですが、その時、ぼくも一人で寝る決心をしたのです。嘘はよくありません。


5頁

 一人で寝るのはこわいのですが、しかたのないことです。おとなになるための、だれでもが経験しなければならない試練なのですから。

でも、本当に心配なことは他にあるのです。

 ぼくが寝ている間に、お父さんとお母さんがぼくをおいてどこかに行ってしまわないか、ということです。

 朝起きた時、誰もいなかったらと思うと、ぼくはとてもさびしい気持ちになるのです。


6頁

 今日の午後、ぼくの家にけんちゃんとさやかちゃん、それに2人のお母さんが遊びにきました。

お母さんたちが買ってきてくれたケーキを食べることができて、ご機嫌です。ぼくたち子供はみんなショートケーキで、お母さんたちはモンブラン、ショコラ、チーズケーキを食べました。お母さんたちは紅茶、ぼくたちはオレンジジュースを飲みました。

けんちゃんはほっぺたにクリームをつけたので、みんなで笑い、けんちゃんも大声で笑いました。


7頁

 ぼくたちはサンタクロースからもらったボードゲームをしました。お母さんたちはテーブルでお話をし、時々大きな声で笑っていました。ボードゲームに夢中なので、何の話をしているのかわかりませんでした。


8頁

 けんちゃんのお母さんが、「そろそろ一人で寝るようにさせたいのですが」と言った言葉が、突然ぼくの耳に入ってきました。けんちゃんもさやかちゃんも聞こえたようでした。

けんちゃんは、ぼくたち2人を見て、恥ずかしそうに下を向きました。


9頁

 ぼくのお母さんも、「りんくんもわたしたちと一緒に寝ているんですよ」、と言いました。

 ぼくはけんちゃんと顔を見合わせましたが、けんちゃんは少しほっとしたようににこっと笑い、ぼくも微笑み返しました。


10頁

 さやかちゃんのお母さんは、「さやかちゃんは小学校に入学した時から、お姉ちゃんと一緒に子供部屋で寝ているんですよ」、と言いました。

 さやかちゃんは、勝ち誇ったように我々二人を見て高らかに笑いました。でも、ぼくにはけんちゃんが、けんちゃんにはぼくがいました。一人でないのは心強いことです。


11頁

 けんちゃんのお母さんは、「お父さんが歯ぎしりをしてうるさくて寝られません」、と言いました。さやかちゃんとりんくんのお母さんも、「うちも同じ」と相槌を打っていました。


12頁

 ぼくのお母さんが、「お父さんが寝言を言う」と言いました。ぼくはどきっとしました。

「どんな寝言なの」、としずかちゃんのお母さんが聞きました。お母さんは「頑張れ」って大きな声で言うんだと言いました。ぼくはそれを聞いて、少しほっとしました。

お父さんの寝言は、多分、サッカーの試合でぼくの応援をしているのです。ぼくはたまに試合には出したもらえるのですが、足が遅いのでまだボールに触ったことがありません。そんなぼくをお父さんは大きな声で応援してくれます。少しはずかしいです。でも、頑張らなくっちゃ。


13頁

 けんちゃんのお父さんは「おいしい、これはおいしい」と口をくちゅくちゅさせ、うれしそうな顔をして寝言を言うそうです。何かおいしいものを食べているのでしょうか。いったい何でしょう。けんちゃんもお父さんのそばで、幸せそうに口をもぐもぐしているそうです。けんちゃんのお母さんは、二人がにたものどうしだと言いました。たしかに二人は顔も、そして少し太っているところもよく似ています。


14頁

さやかちゃんちもお父さんが「もっと高くだよ、もっと高く」と寝言を言うそうです。

みんななんのことかわからないそうですが、ぼくはわかります。きっと紙飛行機を飛ばしているのです。だって、さやかちゃんちに行ったとき、りっぱな紙飛行機があり、それはお父さんの手作りだというのです。今度広場で飛ばす時にみんなで見に行くことになっています。とても楽しみです。


15頁

 ぼくのお母さんが、「うちのお父さんはもっと面白い寝言を言うのよ」、と鼻をぴくぴくさせて自慢げに言いました。2人が興味を持って、「それは何」、って身を乗り出してきました。ぼくはドキドキしながらお母さんの次の言葉を待ちました。

お母さんは、少しうつむきかげんで小さな声で「ピロピロ・・・」って言いました。2人はよく聞き取れなかったので、「もう一度」と催促しました。お母さんは今度は顔を上げて大きな声で「ピロピロピィ」って言ったのです。お母さんはどこかすっきりしたようでした。


16頁

 2人は一瞬あぜんとしたようですが、これは面白いと吹き出しました。そして2人はお母さんに教えてもらいながら「ピロピロピィ」の練習をし、上手に言えるようになりました。けんちゃんとさやかちゃんもお母さんたちと一緒に元気よく「ピロピロピィ」って言いましたが、ぼくは小さく口を動かしただけでした。


17頁

けんちゃんのお母さんが「いったい何なんでしょうね」と聞きましたが、ぼくのお母さんは「わからない」と言いました。お母さんはお父さんにたずねたことがあるそうですが、お父さんは言っていることすら知らないとこたえたそうです。無理もありません、寝言なのですから。


18頁

 けんちゃんがゲームに勝って喜んでいますが、ぼくはそれどころではありません。だって、ぼくもお父さんが「ピロピロピィ」と寝言を言っているのを聞いたことがあるのですから。そればかりではありません。お母さんは全然知らないようですが、お母さんはお父さんの「ピロピロピィ」にこたえて「ピルピルピィ」って寝言を言ったのです。二人は、一度だけではなく、何度も「ピロピロピィ」と「ピルピルピィ」って応答したのです。ぼくは何があったのか心配になり、静かになるまで寝つけませんでした。

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