8話 考えてみなよ?君の目の前に生まれも育ちもわからないよくわからない人間が来たらどうする?
姓名、元居た場所の住所、年齢、どこで生まれたか、人種(黄色人種としておいた)、ここに来た経緯、云々。
海外旅行に行ったことはないが、旅行に行った際の入国審査ってこんな感じなのだろう。
衛兵は僕の返答を書類に書いて行き、書類が完成。最後に僕がサイン。何書いてあるかは知らないが、もうどうしようもない。
「さて、これで書類は完成です。しかし日本だと前例がないですね。こまったな」
「あのですね。さすがにそろそろ色々聞かせてもらってもいいかと思うんですが、あの、ここはどこなんですかね」
「えぇ、ここはヴィンセント皇国のウェイバー庄です。首都から600キロ、ラット公国との国境沿いの地域ですね。田舎ですが治安は良いです」
「はぁ、それで、僕は異世界、違う世界から来たそうなんですが」
なんだかパッとしない聞き方だが、自分が異世界から来たかの正しい聞き方などわからない。
「そうですね。我が国だと十年に一度位の頻度でそういった、別の世界から飛ばされてくる人がいます。この国では、えっと(書類をめくる音)11年前にアメリカ国ケンタッキーから来た方がいます。ここは日本の近所ですか?」
「いえ、海の向こうの国です」
十年に1回異世界からやってくる異世界人。社会を変える宇宙人と言うよりも、惑星大接近とかたまにバラエティーを騒がせる変人奇人とか、そういう扱いか。
「私の前にこちらに来た方はどうなってますか?帰れてますか」
「それについてはなんとも。例えば、ケンタッキーから来た方は首都で貴族、意味わかりますか?」
「えぇ、わかります。なんとなくですが、王様の親戚とか、地位と権力がある着飾った金持ちとか、なんか偉そうな人」
「そういうわけじゃありませんが、まぁいいや。その、首都の貴族様の娘さんと結婚しまして、今は首都で集合住宅の経営に精を出してます。ですから」
「異世界に来て成功したから帰る気がないと」
そりゃそういう人もいるだろう。
僕の返答を聞いた衛兵はなぜか申し訳なさそうにして、つづけた。
「簡単に言っちゃえばそういうことですね。ただ、この方はいい方というのが実情でして。異世界から来た人ってなぜか読み書きができることが多くてですね。異世界から来たって物珍しさで投資してくれる人を探して商売始めたり、武器何かを支援してもらってモンスター狩りしたりするんですよ。ただ成功するのは一握り、と言うよりほとんどいないのが実情で。それこそ事業に手をだして失敗して行方不明とか。というより、そもそも行政が把握してないのがほとんどです。我が国のように管理体制に含めるって考え自体なかったりで。そこで国際的な現状の把握、という意味でヴィンセント皇国を中心に取扱管理規定ができました。と言っても全部把握できてるとはおもえませんがね」
言いにくいことをどう言うか迷っている感じのあいまいな説明。
まぁつまりだ。
「帰れるか帰れないか云々以前に、異世界人がどうなったとかなんて事を国は確認してないという理解でいいですか」
「申し訳ございませんが、そうなんです。帰りたいですか?ですとやはり首都のほうが情報が集まるかと思いますが」
「どうでしょう。自分でわからない」
そんなもんだろう。人生。