5話 異世界転生したって労働
「なら、衛兵さんにいうのが筋じゃないかね」
おばさんはそう言った。
「そうだなぁ。俺が仕事終わったら連れて行くよ。そうだ、お前は親方様に伝えてくれ。ここは親方様の土地だ、親方さまにも伝えな」
「洗濯が終わった後くらいでいいかね」
こう「今日の昼から買い物行くけどどうする?なにかいる?」的なノリの会話。
珍しいけど特別珍しくないという扱い。これじゃぁ僕としてもそこまで強気にはでれないし、なんか流される。
「いいんじゃないですか。仕事って豚のえさやりかなにかでしょう。手伝いますよ」
「そうかい。ありがとな。じゃぁえさを倉庫からだすから手伝ってくれ」
そう言った訳で異世界に来て初めてやったことは、豚のえさやり。
近くで見るのは人生で初めて(だと思う。覚えてないだけかも知れないが)だが、豚は結構かわいかった。
「この豚はどこかの店に売るんですか?それとも競りかオークションとか」
「親方様の屋敷で食う分と、村の祭りなんかで出す分以外は全部市場に出荷するよ。その豚は来週かな」
かわいそうに豚さん。とんかつ、この世界にはないか、ロースかつ、ないよな、豚しゃぶ、豚丼、これもないな、ステーキ、ぶたのステーキってうまいんだろうか?まぁなにかに調理されて美味しく食べられるのだ。
お腹すいたなぁ。
豚のえさやりからの流れで豚小屋の掃除まで手伝ってしまった。
そのあとは、おばさんがおいていった軽食を朝食代わりに食べる。何か濃いめの味付けがしてある肉を酸っぱいパンで挟んだサンドイッチ。
これは古いとかそういうわけじゃなくて、こういう味なんだそうだ。
おじさんの世間話に適当な相槌をうちながら、パンの酸っぱさに合わせた味付けの肉をかじる。
なんでもおじさんは親方様なる人に雇われて豚を飼ってる管理人。ただここの豚の何頭かは自分の物だとか、親方様の好意、というわけではなくボーナスみたいな物らしい。現物支給なのかな。
息子は都会にでて学問を習った。この家を継ぐなんてことはせず都会で生きてくだろう。学問を生かすならそっちの方がいいとか。
親方様は今土地を開墾して畑を増やそうとしてる。土地が余ってるなら貴族らしく馬でも育てるべきだとか。
そんな話を終えた後は小休止。そして衛兵の詰所とかいう所まで連れて行かれた。
その道中の描写は、あえて書くようなことがない。
広がる草原。遠くにある小さな山。
道の向こうからは牛。牛。牛。人。牛。牛。牛。
その人と話す話題は「この子はアメリカから来たそうだよ」「ほぉ、珍しいな。このへんじゃ初めてじゃないか」なんて話。
みんな顔なじみ。多分人より牛や羊の方が多い。
要は田舎なのだ。それはわかった。
「衛兵さん」
多分町の中心部なのだろう。他と比べて密集して、といっても数件程度が並んでるだけだ、建物が存在する場所。
「衛兵さんや」
木と石と、漆喰かな?でできた白い壁の二階建ての家の前でおじさんは人を呼んだ。
「はいはい。なんですか。また向こうの方から人が来ましたかね」
その声に反応してでてきたのは、衛兵というより警察ぽい服装をした男だった。
そう、警察。といっても現代の警察ではなく、ドラマなんかでみる明治とか大正のころの制服。
金の筋や金ボタンが目立つ制服とズボン。サーベルかなにかさしておくと思うベルト。
髪は短髪で、人の年齢を読むのが苦手なので正確にはわからないが、まぁ30は行ってない感じ。
もしかすると僕と同い年かそれよりちょっと上くらいかもしれない。
真面目そうな人だが、制服の前ボタンはすべて空いていてしたの白いシャツが見える。
田舎だから気が緩んでるんだろう。
「いやぁ、異世界からこのお兄ちゃんが来たそうなんだ。衛兵さんに伝えるのが筋かと思ってつれてきたんだが」
「えぇ!本当ですか!とりあえず中に」
「そこまで気負いするような子じゃないよ。気のいい兄ちゃんだべ」
「こちらとしても格式ばった対応されても困るんで、気楽にやってもらえたらなって思います。はい」