4話 頭痛と会話
「頭痛いなぁ」
わからないなりにいろいろ考えたが上記の理由で思考は停止して、思いついたことはどこかに飛んで行った。
行く当てもないのでドアの横に座り込んでいた僕。
それを見つけたおじさん、それとおばさん。
手には瓶に入った飲み物とコップ。
「これを飲みなさいな。二日酔いにはよく聞きますから」
「ありがとうございます」
コップに注がれた飲み物を少し口に含む。
甘い。はちみつの甘さ。
「はちみつですか」
「そうさ。うちは豚の片手間に養蜂もやってるんだが、売れるほどはできないんだ。だから意外とはちみつがあまってな」
おじさんは僕の疑問にそう答えた。
当時は何も考えずに聞き流したが、この界隈でははちみつというのは意外と高価という事を後から知った。
隣の領地の貴族に対抗して親方様の先代が始めたが、風土にあわないのかノウハウがないのか、店に卸すほどの安定供給はできなかった。
結果として親方様の家で消費する分以外は作っているこの夫婦が貰っている状態。
で夫婦としては、高級品とは言えたくさんは使わないが、売るほどはないこのはちみつは意外とあまるのだ。
そのため、隣近所に配ったりこんな風にして消費しているというわけ。
僕は貰った分をのみほして、手酌で入れた二杯目を少しだけ飲んだ。
「ありがとうございます」
おかげで頭が多少すっきりした。
「それで、だ。兄ちゃんはどこから来たんだ。商人かなんかか?貴族様には見えねぇが」
「貴族でも商人でもないです。東京というところから来ました」
「とうきょう?お前さん聞いたことあるか?」
「ないねぇ」
おじさんにおばさんの言葉。
「東京です。というか、そもそもここってどこですか?」
らちが明かない会話に二度目の質問。
「ここか?親方様の豚小屋だ」
そして二度目の答え。
「あんたねぇ、そういう事じゃなくてこの界隈の地名を聞いてるんでしょ」
そしておばさんの一度目の指摘。
「あぁ、そうか。それなら、ここはヴィンセント皇国ウェイバー庄だな。収めてるのはウェイバー様一族で、ここはウェイバー様の土地だから住所言うものはないな。だから郵便は届かん。あの山の向こうはもう別の国になる。兄ちゃん。遠乗りかなんかで間違えてこっちまで来たなんてことはないか?人さらいにあったって感じじゃないが、なんなら衛兵を呼んできてやるぞ」
「多分ないと思うんですけど、わかりませんね。帰りたい。けどここがどこかわからないなら帰りようがない。むしろ衛兵にでも突き出してくださいよ。聞いたことありませんか、東京、地球、イタリア、フランス、イギリス、バチカン市国、アメリカ、木星、そんな感じの地名」
聞いたことあるわけねぇよなぁ。
「あぁ、兄ちゃん。アメリカ国の人か。なら異世界からきたんだなぁ」
聞いたことあったよ。まったく。どうなってんだ。