3話 異世界は豚小屋から
「くせぇな」
異世界に来た第一声はこれでした。
実際臭かった。どう比喩していいかわからないのでストレートに言いますが、豚小屋のにおい。
「兄ちゃん。大丈夫か」
そこで僕に話しかけてくるおじさん。
正直、頭が痛いような痛くないような感じはあるし胃もむかむかするがそんなこと言ってもしかたない。
「多分大丈夫ですが、ここ、どこです」
と曖昧な答え。
「ここか、ここは親方様の豚小屋だ。兄ちゃんはどこから迷い込んだ?」
「豚小屋?はぁ。私がいたところに豚小屋なんかなかったはずです」
おそらくだ。都会の街角は迷宮と同じ。路地が曲がった先に何があるかまでは僕も知らない。
「兄ちゃん。酒臭いなぁ。昨日はずいぶん飲んだのか」
「付き合いの飲み会に参加して。そういう飲み会って深酒になりませんか?話すこともないけど帰っちゃだめだから酒だけが進む」
「そういうのは豚の世話があるって行って断る事にしてる」
「いい仕事ですね。よくわからない飲み会に参加するよりは楽しそうだ。臭いけど」
「はぁ。まぁ、少しまってな。水もってきてやるから」
そう言っておじさんは豚小屋の外へ。
そこで、僕は初めて周りを見回したわけです。
煉瓦と木でできた洋風な建物。豚は数十頭くらいか。子豚もいる。
木枠をはめているだけの窓から外を眺めると、緑豊かな草原。遠くに見える地平線に遠近法で小さく見える山。
おいまて、狭い日本のどこにこんな土地がある。
「立つと頭が痛いな」
とりあえず新鮮で臭くない空気を吸いたい。
そう思って、おじさんが出ていったドアから僕も外へ。
隣に立っている洋風な掘立小屋。石造りだ。中には使い方が知らない農機具や紙袋、布袋の類が見える。
多分だが倉庫か蔵という奴だろう。そしてその壁に描かれている見たこともない文字。
「どこだよここ」