14話 伯爵家だっけ?侯爵家だっけ?
「貴族様のお屋敷、というのは初めて見るんですが、意外と素朴なんですね」
先ほどまでいた食堂は屋敷の外にある。
そこから外の倉庫に行く、はずだがその前にメイド長としていくつか指示を出す必要があると屋敷の中へ。
その後ろからついて屋敷を見て回った僕の正直な感想がこの一言。
「あなた。一応ここはお城なのよ。ここで働くなら人に聞かれた際にそう答えなさい」
メイド長から厳しな口調での注意。といっても顔は笑っている。冗談のようなものか。
しかし屋敷と城の違いは知らない男だが、ここはどう見ても屋敷だ。
白い漆喰と煉瓦と木と石で作られた建物。長い廊下。三角形の窓ながらガラスはちゃんと入っている。
まぁ当然か。豚小屋じゃないんだから。
その窓から光。昼を過ぎたくらいか。
その光は壁を照らし、そこにかかっている絵と刀剣や銃といった武器を照らす。
絵の内容は、戦争絵巻。戦争の絵だ。
「お城、というより、前線の砦みたいなものですが。前線基地みたいな」
壁の絵は歴史を物語る。ドラゴンと戦う騎士。オークなのかゴブリンなのかわからないが、人の形をした怪物が隊列を組み前進する絵。弓を構えるイケメン。剣、銃、血、死体。
「そう。ここは初代ウェイバー伯爵が皇帝の命によって開拓した土地なのよ。居座っていた怪物や異民族、外国人と戦いながらね」
メイド長はそう言って一つの絵の前で立ち止まった。
シンプルで上手な絵とは思えないが勇ましい絵だ。白髪の老人が髪を乱れさせながら剣を振るい、真っ黒な鎧の騎士にとどめをさしている。
「伯爵様のご先祖様の絵ですか。自画像にしては勇ましいですね。こういう絵を見るとこの屋敷、城の印象も変わります」
「この絵ね。殺されている方が初代ウェイバー伯爵なのよ」
「初代の伯爵様の家族仲はあまりよろしくなかったんでしょうね、こういう絵をわざわざ書いて飾ってあるあたり」