13話 世間話
「明日から、じゃ流石に早すぎるわよね。仕事始めは明後日にしましょうか。明日は屋敷や周辺の地理を教えて、あとやってほしい仕事の割り振りって感じでどう?」
「いいんじゃないか。当分は見習い扱いだ。給料は払うが、問題を起こさないように。そういえば、君は何ができる」
食堂のような部屋の端っこに置かれた椅子と机に座りながら、こんな会話。
目の前にはメイド長が出してくれたお茶。
「何が、って聞かれても困るんですが、前の仕事はコンビニのアルバイト、ってわからないよな、雑貨屋みたいな店で下働きをしていました。ですからそんな感じのことはできます。商品を棚に並べたり在庫をチェックしたり、掃除とか、接客、会計って感じのことです。その前は営業で雇われてましたね。商品の売り込みというかセールスというか。まぁ、すぐに潰れたんで働いたと言えるかも怪しいんですが」
「なんで潰れたんだい」
「売ってる品物がまずかった。インチキな健康商品。それでお国からの指導が入って夜逃げのように倒産です。まぁ潰れた方が世のためだったとは思いますが、あの時はほんと困りました。明日からどうしようって具合で」
「異世界も大変なのね。私の知り合いも騙されちゃって」
採用決定後、そんな感じの世間話をしていた。
異世界面白トークとかできないのかって?
できるわけないじゃん。
「それじゃぁ、とりあえずあなたの部屋を見繕いましょうか」
この世界の世情、最近は物価が高いとか。魔物と呼ばれるものがいて、エルフがいて、ドワーフがいて、魔法があって、なにエルフを見たことない?この屋敷にも来るから機会があれば見えるよ、とそんな話をし他のち、メイド長がそう言って立ち上がった。
「あなた、荷物はどれだけある?」
「何もありません。身一つ。着替えの服すらありません。部屋は小さくていいですよ」
考えてみるとスマホや財布を入れたちょっとしたカバンを持ってたはずなんだが、どこかに消えてしまった。
まぁいいさ。スマホがあっても電波は入らない。異世界まで来てスマートフォンとともに生活することはない。
「大変だなぁ。息子のお古の服をもってきてあげるから、サイズが合えばそれを使うといい」
「ありがとうございます」
まじでありがたい。
「じゃぁ、見習いの常で外の倉庫の二階でいいかしら。埃臭いけどベットはあるわ。そこまで広くはないけど、生活には十分なスペースよ」
「何を選ばれても文句を言える立場じゃないのでありがたくいただきます」
僕の返事をきいて、メイド長は案内するからついてくるようにと言った。