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1.待ち人

明治のんびり妖怪譚、開幕!

ほんのりミステリー要素が入ることもありますが、

ほぼほぼのんびりな妖怪お仕事物語です!


 青い空にぽっかりと白い雲が浮かんでいる。

 

 サラサラと流れる運河には舟で荷を運んでいる者が行き交い、河岸では屈強な男達が荷揚げに勤しんでいた。

 

 ほんの少し前まで江戸と呼ばれたこの地では、水路網が発達しており、荷の輸送には陸路に加え水路を使うことも多い。


 人が多く行き交う運河近くは、お茶屋や小間物屋なども軒を連ね、大変な賑わいを見せていた。

 

 文明開化の波が押し寄せ、随分と洋装の者も増えたように思う。和装と洋装が入り交じる往来を眺めているのも観察のしがいはあるのだが。


(遅い……!)

 

 人が入れ替わり立ち替わりする茶屋の前で、一人の少年が腕を組み、行き交う人々に鋭い眼光を向けていた。


 帽子を被った書生風の出で立ちだが、書生と言うには幼い容貌のその少年―小柳志麻(こやなぎしま)は気が急く様子で組んだ腕を指で叩いている。


 志麻がこの場に突っ立って、かれこれ1時間が経とうとしていた。そろそろ待ち人がきてもいい頃だ。


 あと少しの辛抱だと思った時だった。


「うわぁぁん、お母ちゃんどこぉぉぉ!!!」

 

 耳をつんざくような金切り声に、志麻は思いっきり顔をしかめると、声の主へ視線を投げた。隣の店の前で幼子が泣いている。


(マズい)

 

 そう思ったのも束の間、人の波の流れが変わった。

 

 ギャンギャンと壊れたカラクリのように泣きわめく幼子を取り囲むように、人の壁が築かれていく。


 「なぁに?」「大丈夫?」「迷子かしら」などと口にしながら、大人達がワラワラと集まってきた。子どもが泣き止む気配はない。

 

 志麻の視界が妨げられる。


「チッ」

 

 志麻は苦々しげに舌打ちした。これでは待ち人が来ても分からない。


(これだから子どもは嫌いなんだ)

 

 迷子になったならなったで、そのことを告げ、母を探せばいいだけのこと。なぜ、泣いているだけで何の手立ても講じないのか、と志麻は思う。

 

 感情的になったところで、物事は好転しないのに、と。

 

 そんなことを考えていると、通りの向こうから若い女が駆け寄ってきて、幼子を慣れた手つきで抱きかかえた。

 

 周りの者へ何度も何度も頭を下げている着物姿の娘はどうやら幼子の母らしい。無事に再会できた親子に、良かった良かったと周囲にも笑顔が伝播していく。


 志麻は苦々しげに親子から視線を逸らした。

 

 すると、視線の先で人垣を避けるように、足早に河岸へ向かう男の姿が目に入った。


(ようやく)

 

 志麻は口元に笑みを宿すと、男の後を追いかけた。

 

 着流しのその男は、河岸へと降りると、一隻の舟に近づいた。


 志麻が見ているとも知らず、舟人と声を潜めて何やら話し合っている。舟には、大きな四角い物が置かれていて、布が被され、中が見えないようになっていた。


(よく考えたよね)

 

 志麻は感心しながら男に近づいていく。

 

 周囲に人は大勢いるが、それぞれの仕事に忙しく、男達に注意を払う者はいない。

 

 志麻が河岸へと降り、舟の側まで来たところで、ようやく男は志麻に気が付いた。不審げに眉を寄せている。


「なんだ、小僧。仕事の邪魔すんじゃねぇよ」

 

 野良猫を追い払うように、シッシッ、と手を振られた。その仕草と物言いに志麻は内心カチンとくる。

 

 志麻は子どもが嫌いだ。


「子ども扱いしないでくれる?」

 

 感情を押し殺しにっこりと笑った志麻は、何のためらいもなく、停泊している舟へと乗り込んだ。


「おいっ!何勝手に乗ってんだ!」

 

 男の手が志麻に伸びる。その手をするりと交わし、志麻は荷を覆っていた布を一気に剥ぎ取った。


「な、何をする!!」

 

 舟人が声を上げ、慌てふためく姿に、志麻は冷ややかな視線を向けた。


「それはこっちの台詞だから」

 

 お天道様の下にあらわになった荷を見やる。

 

 布の下から出てきた荷は、冷たい鉄格子がはまった頑丈そうな檻だった。


 中にいるのは、手足が八本ある美しい娘や袈裟を着た鼠、南蛮衣装に身を包んだ狸に、背に笹を生やした猪など、近頃では滅多にお目にかかれなくなった異形の者たちだった。


「何あれ……」

「妖怪……?」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、道行く人々が足を止める。他で荷揚げをしていた仕事人も、舟人も、手を止めこちらを見ていた。

 

 いつの間にか、志麻と男達の周りには野次馬の人垣ができている。

 

 しまった、と顔を見合わせている男達を見て、志麻は言い放つ。


「絶滅危惧種の妖怪を売買するのは犯罪だよ。おじさん達」

「お前、一体……」

 

 呆然とつぶやく男の瞳に恐怖の色がかすめたのを見て、志麻はツンと顎を逸らした。


「妖怪保護調査局」

 

 志麻の言葉を合図に、物陰に潜んでいた局員たちが姿を現し、逃げ出そうとする男と舟人の経路を塞いだ。


 そろいの詰め襟姿で一見すると警察のようだが、帽子の紋章が「妖」と「保」を合わせたデザインになっている。


「大人なのにそんなことも知らないの?」

 

 同じ紋章付きの帽子を被り直し、志麻は呆れたように嘆息した。

「1.待ち人」おわり。

「2.珍しい妖怪」につづく。

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