009:リアの実力
009:リアの実力
ユウリが会場で試験を受ける裏で、リアもまた別会場にて以下に現代の魔法のレベルが低いのかを見て呆れかえった。
目の前で、生徒が順に魔法をオリハルコンの的に向かって撃っている。
「ファイヤーボール!!」
そう叫び剣から飛ばされる魔法は、ゆらゆらとゆっくりとしていて、いつ落ちてもおかしくない。
情緒不安定な鳥のように浮遊し、数十秒後にのっそりとオリハルコンの的に着弾して、煙のごとく消化する。
なんだそれは、死人の火の玉じゃないんだからと、内心リアはツッコミたい気持ちを空気を読んで抑える。
なにせ、周りでは、
すげえ、的にあたったぞ!!
なんだあの大きさは!! 大きい!!
なんて魔力を持っているんだ!!
などと、活気喝采な声が上がっている。
ここで勘違いしてほしくないのは、その出たファイヤーボールは、初級の初級素人が扱うものだということだ。
大きさもそれは手のひら程度でしかなく、大きい訳ではない。
だが、これが事実だ。 リアの価値観から見ればまるでお遊戯会だが、この時代に置いては当たり前。
霊装になれていない、学園入学前の受験生だからと言う理由もあるが、そのレベルは明らかに低すぎる。
(こいつら、いままで魔法使ったことないのかしら?)
そう思わざるおえない状況だ。
では、実際の生徒や卒業生はどうだという話だが、たいして変わり映えはない。
せいぜい、霊装に込められている魔法をまともに撃てる程度。
そのレベルが、この世界の標準。
ゆえに剣術に特化した白兵戦重視の、この世界では魔法は重宝される。
それが、リアはばかばかしくていられなかった。
「次!! リア・フォルツゥーナーデ!!」
「はい」
そんな、退屈な試験の中で、リアは呼ばれる。
リアが位置に着くと。
あの子かわいい。
すごく綺麗。
オレ惚れたかも?
などと、男女関わらず声が聞こえてくる。
それは気分は悪くなかったし、否定することでもないと思いながら、リアは同時にこうも思った。
(当たり前よ。私はユウリの女だもの)
その為に自分を磨いてきた。
誰よりも美しく、誰よりもかわいくなるように。
大大大好きなユウリの為に。
だから、同時にそういうヤジを投げる彼らを、うっとしいと……。
秘めた美貌は薄く笑い、放つ魔法を決め、目の前のオリハルコンの的を穿がさんと、エストックを左腰から右手に抜く。
(流石に、壊したらやり過ぎだし、傷がつく程度でいいわよね)
場のレベル的に、それぐらいでも一番を取れる自信があったし、なにより多分、そうだ。
リアのこの世界の知識、常識が間違えなければ、ここでどれだけ強い魔法を放ったところで結果は変わらない、ということは、簡単に予想ができていたから。
その時だった。
「えっ―――!?」
地が怯え、震えだす。
同時に魔力の濃い波紋が広がって、試験会場にいる全員の体を刺して突き抜けた。
「キャ――!!」
「何今の!?」
「何々!?」
「――っ!?」
体の内側からゾゾゾっと電流見たいな寒気が走り、ドキドキと心臓がはちきれんばかりに緊張し鼓動する感覚。
波紋が突き抜けた瞬間、全員がそれを感じているようで、怖がっている者すらも居た。
「いまのは……?」
教官が異変を感じで、声を上げた時――。
その衝撃は響いた。
ドゴオオオオオオオオン!!
鼓膜裂けんばかりの爆撃音は、怯えていた地をさらに揺らして響き、その音の方向には、階段の様につならなるコロシアムの観客席を背景に、天へ向かって真っ白い光の柱が上がっていた
そして、しばらくすると流れ出る水の蛇口を閉じたかのように、伸びあがる光は上から途絶えた。
「なんだあれ!?」
「なになに?」
「誰かの魔法?」
「そんな訳?」
「じゃあなに?」
そんなの――。
(ユウリに決まってる!!)
先の波紋で感じたのはユウリの魔力、であればいまこの現象を起こしたのも間違いなくユウリだ。
(ユウリ――やっぱりすごいや)
それは自分のこと様に歓喜して、それと共に自分も適当にこなそうとしていたことを悔い改める。
ユウリがあれだけ本気でやっているんだと。であれば、自分も彼にふさわしい女として力を出さなければと。
ゆえに、放つ魔法を変更し、同様する彼らの中。
リアは真っすぐ的へと視線を向けた。
そうして――。
「ねえ、撃っていいかしら?」
「あっはい!!」
「じゃ――」
呆けから気を戻し、試験を再開した教官前で。リアは構えたエストックへと魔力を流し魔法を振るう。
「……コキュートス」
流れた魔力は冷気と変わり、蒼銀のエストックは光を帯びて、真っすぐ前に突き刺すように振ると、膨大な力が放たれた。
放たれた力は衝撃となって、周りへ突風を生み、瞬間――蒼光が雷鳴の如く、その道筋に大きく結氷した氷の道を作りながらリハルコンの的に向かって疾走する。
そして――それは対象へと激突すると。
「―――っ!?」
刹那、同時にあふれる蒼光の雷鳴の光に教官と後ろの受験者は眼を覆った。
そして共に、冷気のが蒸気立ち上がり、激しく四散し真っ白い冷たい湯気が一瞬だけ視界を覆う。
「凍ってる……」
教官が湯気を斬り払われ、先に現れたその的を見て仰天する。
まるで氷の牢獄にでも留めるかのように、オリハルコンの的はそのトゲトゲとした、蒼光の雷チラつかせる氷塊の中に飲み込まれていた。
だが――驚きはそれだけにはとどまらない。
――パチン!!
優雅に、エストックを持たぬ左手でリアが指を鳴らすと。
氷塊とリアからそこまで伸びる氷の道は、雪結晶の如く弾け、塵尻に砕けて小さなそよ風に流れ霧散した。