そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)2.6 < chapter.6 >
翌朝、ミュージアムは何事も無かったように開館した。
損傷個所は夜のうちに魔女たちが修復し、オリヴィエのガラスケースも地下展示室に戻された。何もかもが元通り。いつも通り出勤したミュージアムのスタッフたちですら、夜の間に何かがあったことには気付いていない。
しかし、何もなかったことにできないのが魔女たちである。
王宮では魔女たちによる緊急会議が開かれていた。
「ま、何はともあれ、私たちが同じヴィジョンを見た理由は分かったわね。オリヴィエに取り憑いていたトゥーリオ・カルドゥッチの霊は、ガルボナード・ゴヤとの接触によって神的存在への昇華を果たした。私たちは、そのきっかけを作るために選ばれた、といったところかしら……?」
「問題はあの能力ですわ。たしか、《鬼哭》とか……」
「ええ。あの能力は魔法学の常識を超えている。ガルボナードの魔力で『仮初の肉体』を与えただけなら、騎士たちの霊は攻撃魔法を使えなかったはずよ。あのエネルギーはどこから調達しているの? 騎士たちの使用した魔力の総量は、魔女にも竜にも賄えない数値になるはずなのに……」
「力の供給源は別にある……いや、『いる』と言うべきか……?」
「だとすれば、『それ』は私たちの守護女神、『アスタルテ様』と同等かそれ以上の神格ということになりますね」
「そうね。完全武装の英雄たちを、全盛期の能力で十七人も呼び出したのだから……」
「いいえ。《鬼哭》の使用後も、ガルボナードのパフォーマンスは落ちていなかったわ。あの子が本気を出せば、もっと大勢呼び出せるのではなくって?」
「だろうね。ガルボナード・ゴヤは我々の同類だ。間違いない」
「陛下、いかがなさいます? 特務部隊への監視を強めますか?」
「んー……いえ、それ以上に気になることがあるのだけれど……」
「気になること?」
「それは何でしょうか?」
真面目な顔で問いかける魔女たちに、ヴィヴィアン女王は、深刻な面持ちで告げる。
「物置小屋で宇宙人飼育していた人って、どこの所属のナニさんだったかしら……??」
「……あ!」
「そういえば、そのような者がおりましたね」
「あれ? でも、顔が……」
「え? 嘘、なんで? 顔も背格好も、全然思い出せないわ……」
「私、どうしてあんなにインパクトのある人のこと忘れていたのかしら……」
「誰か、彼の顔を覚えている人はいる?」
女王の問いに、魔女たちは一斉に首を横に振る。
あの場にいた魔女は女王を含めて十二名。その全員が、ほんの十時間前のことをすっかり忘れてしまっている。それ以外の事象は時系列に沿ってすべて思い出していけるのに、宇宙人の話をした騎士の顔貌、声、背格好だけは、どうしても思い出すことができなかった。
「記憶操作……いえ、これは違うわね。彼の存在した歴史は、今、この時間軸には存在しないことになっているのかしら……?」
「歴史が書き換わっているということでしょうか」
「そうかもしれない。でも、あの騎士は《隔離結界》の中では当たり前のように存在していたわよね?」
「はい。昨夜、あのミュージアムは『通常空間から隔離された特殊な時間軸』の中にありました。そのような条件を整えれば、あの者とも接触可能なのだとすれば……」
「私たち、とんでもないお宝を掘り当てたかもしれなくってよ?」
「では、陛下? 我々は特務部隊ではなく、ミュージアムを?」
「ええ、そうしてちょうだい。もしかすると、あそこに居座った英霊たちは……」
魔女たちは一斉に頷く。
その先に続く言葉を知っているからこそ、彼女らはそれを口にしない。
「当面、特務のほうは様子を見るにとどめるわ。私たちはミュージアムでの『歴史研究』に本腰を入れましょう。国家の歴史を研究・保存ことは、王宮の大切な役割の一つですからね。あとは……」
ちらりと視線を向けられて、ラナンキュラスは静かに頭を下げる。
「デニス・ロットンへの監視は現在も継続中。すべての会話を録音しております」
「いい子ね。その調子で続けてちょうだい」
「はい」
それから魔女たちはいくつかの議題について話し合い、会議は和やかなムードで終了した。
同じころ、自分が監視対象にされているとは知らないデニスは、いつも通りくだらない話題で盛り上がっていた。
「だぁ~かぁ~らぁ~! 本当に見たんですって! 宇宙人の幽霊が地底人の幽霊とリフティング対決して負けてるところ! 旧本部裏の焼却炉のところでやってたんですよー!」
「はあー!? そんなんいるわけねーっつーの!!」
「信じてくださいよハドソンさーん! マルコさんは信じてくれますよね!?」
「個人的に興味はありますが……その宇宙人はタコ型ですか?」
「いえ、二足歩行の銀色のです。身長は僕の腰のあたりまでしかなくて……」
「銀色のほうですか……。タコ型なら、一度お会いしたかったのですが……」
「え、なに? マルコ、お前タコ派なの? いるとしたら人型に決まってんだろ?」
「いえ、別の惑星の住人なのに我々と同じ姿では夢が無いというか、なんというか……タコ型のほうが宇宙人らしさを感じませんか?」
「でも銀色でしたよ?」
「それ本当に宇宙人の幽霊かよ? 銀色の服着た子供の霊とかじゃねえのか?」
「あー……そう言われてみると、確かにちょっと着ぐるみっていうか、ボディスーツみたいな質感でしたけど……」
「だろー? ぜってえ子供の幽霊だって!」
「あの、一つよろしいでしょうか? そもそも別の惑星に行けるほどの文明人が、全裸で歩き回るものでしょうか? むしろ宇宙服を着ているほうが自然なのでは……」
「ああっ! たしかにっ!?」
「マルコさん、鋭い!」
「宇宙服を着用した状態で死亡したなら、中に入っているのがタコ型宇宙人だとしても、外見上は二足歩行の幽霊となるはずで……」
「いやいやいや! 結局タコかよ!」
「こだわりますね!?」
「だって、そうでなかったら夢が! 私の夢が……っ!」
「お前の夢マジでそれ!? 王子meets宇宙人!?」
「マルコさん、それヤバイ……!」
「やめて! 二人とも、その半笑いをやめてをください! 胸が痛い!!」
ここは騎士団本部の食堂である。三人の会話が聞こえていた周囲のテーブルでも、宇宙人は実在するのか、幽霊はなぜ化けて出るのか、地底人の夜間視力はどの程度なのかなど、メチャクチャな話題に花が咲く。
夕刻、録音してあったそれらの会話を丸ごと聞いたラナンキュラスは、執務室の床に崩れ落ちた。
「宇宙人って……宇宙人って何なのよっ!?」
連続再生される盗聴音声の中、食堂を出たデニスは鼻歌交じりに車両管理部のオフィスに戻っていく。
楽しげに「ラララ」と歌うデニスには、女王の側近の苦労など知る由もなかった。




