代理人、大神殿に侵入する
さて、会いに行くと決めたけどどうすれば会えるのかすらまだわからない。とりあえずは神話と同じ名前の山に行ってみるか。
とは言ったものの、恵美と本当に合流できるのか?そんなことを延々と考えているといつの間にか鬱蒼と茂る森の中にいた。あたり一面鮮やかな緑。うまい空気。こういう場所は今の日本にはあまりないな。
「うーん美味い。マイナスイオンとか出てるのか?」
背伸びしながらおっさん。。。もといアレクシオスに言われた通りに神々が居ると言われてる山の天辺の行き方を思い出す。
『普通に山頂への一本道を歩いていけばそのうち絶対に超えられない幽谷に当たるんだ。まぁそれを超えることもできるって話だが、多分誰かの作り話で危険だからやめとけ。俺たちは淵の近くにある神々の像に供物を置いて祈りでも願いでもして帰るんだ。それと聞いた話じゃ大神殿は危険を犯してでも目にする価値のあるものらしいぜ。』
ふむ、一本道を歩いていたはずなのになんで俺は森の中にいる?俺はそこまで方向音痴じゃないはずなんだが?まぁ迷ったものは仕方がない。こういうときは他人に聞いて見るのが一番いい。
「おい、そこの茂みで隠れてる奴、ちょっと出てこい。話がある。」
尾行には気付いていたがいつかいなくなるのかなと思って放置していたんだけど、どうやらずっとついてきたらしい。
「5秒数えるうちに出てこい。出てこないとストーカー被害による自己防衛で張り倒すぞ。5、4、3。。。」
『はいはい!今出ました!だから打たないで!』
「人聞きの悪いこというな!まだ手出してないだろうが!て。。。?」
え!?人かと思ったら少し透けてて存在感も薄いけど!もしかしなくてももしかして?
「オタク、もしかしてニンフ?」
『え、僕のこと分かるの?やったー!ウンウン、僕はニンフだよ!アルセイスのコリンナだよ!人間さん?はどっからきたの?』
珍しいな、アルセイスなんて滅多に会えるもんじゃないや。しかし。。。なんてエロい奴なんだ。恥部や胸なんて葉っぱ一枚じゃないか!よし、これを機にお近付きになろう。
「では、ゲフンゲフン。えー、コリンナ君。君は処女かね?」
『はっ?』
やばい、直球すぎた。わぁーお。ゴミを見る目ですね。仕切り直しだ。
「すまない。美しい人と話すのはあんまりなくてね。不甲斐ないのだが緊張してしまった。」
『はぁー。』
よし!これで出だしはいいだろう。ニンフなんだから神殿がどこか知っているよね!
「時に君。神々が降臨したという場所がどこか知っているかね?私はそこに用があるのだよ。」
そう。俺はカオスから頼まれたことをこなす前に俺は妹と奈々をを見つけなければいけないのだ。そして彼女らの安全を確保したら頼まれたことを嫌だけどしぶしぶやろうと思っている。
『うんうん、知ってる!人間さんが行きたい場所はミティカス大神殿って言うの!案内してあげる!』
この娘、ただで案内してくれるそうだけど怪しいんだよな。大抵の場合、非人間に頼み事すると後で最悪なことになると俺の知識が叫んでいる。俺は石橋を叩いて、その上自ら補強工事をしてから渡る男だ。
「案内してくれるのはありがたいのだが今のうちに何が欲しいのか言ってくれ。この通り、無一文なのでね。」
『大丈夫だよ?別に何にもいらないよ!でも、強いて言うなら私のことは覚えていてくれると嬉しいな。後、人間さんって普段からそんな喋り方するの?』
怪しいが修羅神仏、精霊や幻想種の類は戦では人間と同じように騙し合いや駆け引きをする。しかし、悪神や悪魔、トリックスター以外、人間との要望と対価の取引に関しては嘘はつかない。いい例をあげるとすればゼウスが叶えると誓った願いにより帰らぬ人となったセメレーの逸話だろう。
彼女の要望に答える意を示すため頷く。すると何故かは分からないけどすごく嬉しそうな顔をする。かわいい。
「ノリで喋ってたがやめどきが分からなくなった。ところでコリンナはなんで一人なんだ?ニンフって普段は群れで行動するもんじゃないのか?」
質問に帰ってきた返事は気まずい無言だった。よく見ると少しだけ涙ぐんでいる。声をかけようとするとコリンナが喋り始めた。よくよく聞いて見ると、彼女はアルセイスの中でもダントツで恥ずかしがり屋さんなのだそうだ。
彼女の同世代で未だに一人の人間にすら覚えられていないニンフは彼女ぐらいらしい。で、長いこと人間との繋がりを持たなかったせいで消えかけていたそうだ。痴女みたいな格好しているのに恥ずかしがり屋なんだな。
「コリンナは人見知りだって言うけど僕とはうまく話せているじゃないか?どうしてそれを他の人とでもできないんだ?」
『うーん。どうしてかわかんない!でもね、人間さんを見たときにあんまり人間さんっぽくないなって思ったの!半神半人なのかなっと思ったけどやっぱり分かんないや。でも覚えててくれるって言ってくれたから消えずにすむの!』
と言いながら近づいてきたコリンナはものすごくいい匂いがした。よく見てみると存在感が少し戻っているようだ。そうやって世間話をして数十分。やっと目的地に着いたらしい。よく見るといつの間にか深い谷を超えてまた一本道になっていた。
『いい人間さん、ここから私は進めないの。私は精霊であって神じゃないから。入っていい許可がないと結界に弾かれちゃうんだ。だから私は着いて行ってあげられないけどこの一本道を進めば迷わずに進めるからね!じゃあね!』
突然の別れを告げ、コリンナは来た道へと戻って行った。俺も彼女の後ろ姿に手を振り、また目的地を目指す。しかし、やっぱり思わずにはいられない。修羅神仏は何故こうも突発的なのか。全く分からないや。
何はともあれ、言われた通り一本道を進んで数十分。やっと山頂に着いた。やはり百聞は一見にしかず。目の前に聳え立つ見事な大神殿には目を見張るものがある。
ベースとなる神殿のデザインはドーリア式とコリント式の融合に近いだろうか。最初に目が行くのはやはり均一に並んでいる純白の大理石でできた十本の支柱だろう。次に興味をそそられるのがペディメントの部分だ。そこにはオリンポス十二神の姿が事細かに掘られており、それぞれ違う装飾がなされていることが分かる。前に写真で見たパルテノンに付属されているペディメントよりはるかに美しい。そして最後に目が行くのはうっすらとルビーレッドの筋が混じっている白銀でありながら玉虫色の光を反射する見たことのない金属だ。あれは多分オリハルコンだろう。この人生で伝説の金属にお目にかかれるとは俺はなんて幸運なんだ。そしてもしやあれは。。。
おっと。内なる神殿オタクが顔を覗かせてしまったぜ。いけないいけない。
名残惜しい気持ちでいっぱいになったが俺は恵美と奈々に会いに美しい支柱の間を通り、大神殿の中へと侵入した。