今日も憑かれる彼女は隣の幼馴染みに縋りつく
「今日も憑かれる彼女は隣の幼馴染みに縋りつく(連載版)」にも掲載してあります。
お時間があられましたら、そちらもご覧くださると嬉しいです。
よろしくお願いします。
私#籠池蓮花__かごいけれんげ__#は、小さい頃から人ではあらざるものに憑かれることが多々あった。
そう、今この時みたいに。
はぁはぁと荒く息を乱して、早足で帰路を急ぐ。
後ろからはヒタヒタと、人ではないものが忍び寄ってくる気配を感じる。
自分が後ろの存在に気づいてるなんて勘づかれたら、どうなるか分からない。
早く、早く帰りたい!
後ろの存在に気取られないように、だけど気は急くばかりで、恐怖と焦りで涙がにじむ。
やっと見えてきた目的の家に、安堵でホロリと涙が零れる。
ホッと息をついて足を速めたその時。
「気付いてるの?」
後ろからそう、声が聞こえた。
しまった、油断したと思ったときには、足は地面に縫い付けられたように動かなくなった。
「っ!!」
首元にヒヤリと冷気が漂ってくる。
こわい、怖い怖い怖い!
「ねぇ、気づいているんでしょう?私、とても寂しいの。一緒に行きましょう?」
ねぇ?っと粘着質な声で耳元で囁かれ、自分の意思とは関係なく足が道路の真ん中まで向かう。
「い…や…!」
何とか声を絞り出すも、相変わらず足は縫い付けられたように動かない。
ふと、遠くから眩しい光が2つ近づいてくる。
ー車が!!
どんどん近づいてくる車に、隣でクスクスと不気味に笑うモノ。
ー誰か、誰か助けて!
「い…っく…」
脳裏に過った人物の名前を呟く。
「っんの!バカ!!」
グイッと体を引っ張られたかと思うと、次の瞬間には痛いくらいに抱き締められる。
それと同時に体の金縛りも解け、たった今自分を抱き締める彼に、ぎゅっとしがみつく。
「いっくんいっくんいっくん…!」
怖かった、と泣きながらしがみつく私を、#榊斎__さかきいつき__#通称いっくんは、一層私を抱く腕に力を込めた。
「よくも…よくも邪魔をしてくれたわね…」
先程私を恐怖のどん底に陥れた存在が、恨めしそうにいっくんに標的を変える。
いっくんは片手で私を抱き直し、右手の手刀で素早く四縦五横の破邪の印を結びながら、なめらかに呪文を唱える。
「朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍」
「なっ!止めろ、ヤメロヤメロヤメロヤメロー!」
「はっ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
白い光が辺りを照らす。
元の暗闇に戻った時には、もうあの恐ろしい存在はいなかった。
いっくんが調伏してくれたのだ。
安心した私は腰が抜けてヘナヘナとアスファルトの上に座り込みそうになる。
それをぐっといっくんに支えられ、抱え直されたと思った瞬間。
「っんの、バカ!」
耳元で大声で怒鳴られた。
「お前、人が端正込めて作った魔除けの石はどうした?!」
「ぐっ!」
「ぐっ!じゃねぇよ!家に忘れたとか言ったらシバクぞ!」
「い、家に…ぐ、ぐるじいぐるじい!」
ヘッドロックで締め上げられ、悲鳴を上げる私にいっくんは少し力を弱めた。
「俺が気配に気づかなかったら、お前お陀仏だったんだぞ!お前ただでさえ狙われやすいんだから、頼むから石だけは肌身離さずもっとけよ。」
「ごめんなざいー、うぇぇぇ。」
しょうがないな、と呆れたように息をつき、腰が抜けて歩けない私を、いっくんは背負って家まで帰ってくれた。
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「おい。」
イラついたように声を掛けてくるいっくんに、私はうん?と首を傾げる。
「俺、さっきお前を隣の家に送り届けたよな?」
「うん、そうだね。ありがとー。」
「じゃねえよ!それなのに、何でお前が俺の部屋に居るんだよ?!」
「それはぁ、そこの窓からちょちょっと…」
「っ、帰れー!!」
「やだやだやだ、さっきあんな怖いことがあったんだよ?1人でなんて寝れないよ!」
「お前の部屋自体に退魔の術施してるって何回も言ってるだろ?!」
「そういう問題じゃないの!いっくんの側が一番安心できるの!」
「俺は男だ!」
「知ってるよ!」
いっくんは何故かさっきよりもすごくすごく疲れたため息をついた。
でも、こうなったら私はテコでも動かない。
それは長年の付き合いで、嫌と言うほど身に染みて分かっているだろういっくんは、諦めたように黙ってベッドに潜り込む。
左半分を空けて。
私はムフフと笑いながら空いてるところに潜り込み、背中からいっくんにピタッとくっつく。
「神様仏様斎様、私いっくんがいないと生きていけない!」
「お前は…恥じらいというものを学んでこい!!」
今日も無事一日が終わってめでたしめでたし。
「勝手に締めるなぁ!!」