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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

深夜コレクション3

作者: ひろち

 そもそもの依頼から不自然で、断れるなら、私は仕事を受けるべきではなかった。しかし、事務所は、依頼内容から安易に問題なしとした。事務所は、いつになったら学ぶのか。最初にあった問題は、最後に必ず決定的な問題になり、それまでの過程は全て無駄になる。


 依頼人は中年男性で、依頼内容は中年女性を母とする母子の身辺調査だった。

 通常であれば、ストーカー行為を疑って断る内容であり、受託した理由を事務所は、その疑いがないからと説明した。あまりに安易な説明で、疑いのない根拠の説明があればまだしも、それもなかった。

 また、依頼人は調査員を中年の男性一人と限定した。調査員を指定するには、何らかの意図があるだろう。この依頼内容であれば、調査員は女性を指定しそうであり、だからといってストーカー行為ではないという根拠にまではならず、矛盾が多いとしか思えなかった。

 その依頼を当然の様に私に振る事務所の態度も気に食わなかった。エースではない、雑務処理的な立場である事を思い知らされた。

 だが、勤務成績が振るわず、ボーナスの額の予想も悲観的になっているところだったし、依頼内容自体は楽だったので、相棒なしというのが身軽で魅力に思えた。一匹狼気取りではなく、バイト感覚で仕事が出来ると思っていた。

 間違っていた。


 調査対象の母子の情報は氏名と住所のみで、住んでいるアパートの周辺を探るにも、怪しまれない服装が分からなかった。変装まではしないが、スーツ、作業服、カジュアル程度の使い分けはしていた。警察に職務質問をされたくはない。今回は、新築マンションのちらし配りの体でスーツを使う事にしたが、結果的には失敗だった。

 母子は収入がかなり低いらしく、住んでいたアパートは築30年以上は経っているであろうオンボロで、マンションを買える者など住んでいない事は明らかだった。グーグルマップでアパートの外観だけでも見ておけば良かった。バイトはやはり、詰めが甘い。

 私はアパートを後目に舌打ちをして通り過ぎ、そのまま伏し目がちに歩いていると、前から来る男が目に入った。私は、眼鏡をなおす振りをして自分の顔を隠しつつ、相手の顔をうかがった。

 男は、安っぽい緑色のズボンをはき、灰色のブルゾンのポケットに両手を突っ込んで、だらだらと歩いていた。昼間に住宅街を歩いている男は、セールスマンか探偵事務所の調査員か地元のヤクザしかいない。

 男からは、ヤクザの安っぽく嫌な匂いがした。バイトのはずが、嫌な方へ向かっていた。

 男から十分に離れると、私はまた舌打ちをした。


 事務所に戻り、事務所のパソコンで調査すると、調査対象の住所から徒歩で20分以内、JR駅近くにある、普通の築20年のマンションの一室が地元暴力団の事務所になっていた。

 暴力団と調査対象の氏名、住所等でネット検索をしても、何もヒットしなかったが、依頼人の氏名で検索すると5年前のニュースがヒットした。 

 依頼人は5年前に傷害事件を起こしていた。被害者の氏名は記事には書かれていなかった。依頼人は飲酒後に被害者に殴る等の暴行を加え、重症を負わせていたが、依頼人は容疑を否認していた。

 雲行きが怪しくなるばかりだった。

 事務所から地元警察に問い合わせをして貰うと、その暴力団事務所は丁度5年前になくなっていた。その後に近くに事務所が出来ており、出入りしている構成員からすると、その事務所が移転したものらしい。

 5年前に、依頼人、調査対象、地元暴力団の間に何かが起こっていた。

 地元警察に尋ねても、これ以上は何も教えてくれなかった。


 私は、結局、スーツを選び、マンション販売員を装う事にした。調査対象者のアパート周辺は地元暴力団員が見張っているだろうから、どうせ近くには居られない。車を少し離れた場所に止め、そこから監視を開始した。

 調査対象者は、母、古川香、44歳とその子供、5歳と7歳の男の子で、母はパートで働き、7歳の子は小学校へ通い、5歳の子は母親が出勤時に保育所に預けていた。母親と子供達は異常な行動もなく、普通に単調に生活していた。子供同士は仲が良く、母が帰宅して夕食を作るまでの時間、アパートの前の路上でゴムボールでキャッチボールをしてよく遊んでいた。

 母の親が孫の顔を見に来る事はなかったが、問題があるせいか、実家が遠いからなのかは分からなかった。

 来訪者はなく、母が新しい男を作っている事実は確認できなかった。

 私は調査を終了したかったが、アパートの周辺を地元暴力団員が徘徊しており、その原因が調査対象者にないと判明するか、徘徊がなくなるまでは、契約した調査期間までは調査を継続するしかなかった。

 普通の母子が調査対象者にしては、3か月の調査期間は長く、不必要に思えたが、この事態の為だったのであれば、この調査は根が深く、しかも不穏なものとなる。一介の調査員でしかない私には荷が重すぎた。

 同僚に相談すると、調査期間中だけ張り込みに徹して、他には何もしない方がいいとアドバイスされた。私は、ありがたく、アドバイスに従った。

 だが、人のアドバイスを鵜呑みにすれば怪我をする。他人はいくら説明しても、本人が置かれている状況を完全には把握出来ないからだ。

 私は、張り込みに徹して工夫を怠った。いつも同じ道に車を止めてしまっていた。他に適当な場所はなかったが、車を変えたり、たまには遠くに車を止めて周囲を徒歩で移動しながら監視する手もあったが、どれも行わなかった。エースになれない理由だろう。周囲を徘徊する暴力団員が車の中を覗き込んでいたが、新築マンションのチラシを眺めてやり過ごしていた。それでは疑いは晴れなかったらしい。


 ある日、張り込みをしていると、車の窓ガラスが外からゆっくり強く叩かれた。私は驚いてしまい、相手の先制攻撃は成功した。

 車の窓ガラスを下げると、地元のチンピラが睨んでいた。

 「すいません、邪魔でしたら、車をすぐに移動します。」と用意していた言葉を口にする間もなく、男にネクタイを掴まれた。

 「ちょっと、来いよ。兄ちゃん。」

 10歳以上は年下と思われる男に兄ちゃんと呼ばれ、笑ってしまうどころか、血の気が下がった。

 私は、何も言えずに、車から降り、男に引きずられる様に狭い路地に引き込まれた。

 周囲には誰もいず、路地は周囲のアパートの玄関にも面していなかった。

 私は胸を強く突き飛ばされ、転びそうになったが何とか堪えた。だが、心臓は早鐘の様に撃ち、耳に鼓動が体の中を通して聞こえた。荒事には慣れていない。私は、何事につけ、遠くから見守るタイプだった。

 「お前、ここで何をしてるんだ?誰に頼まれた?」

 チンピラの声は意外にも滑らかだった。だが、体はすぐにでも私を殴りつけようと準備していた。

 「新築マンションの販売のセールスで、この辺りを回ってるだけです。」

 私が答えていると、後ろから通行人が来たらしく、チンピラが顔を背けた。

 私が尚も答えようとしていると、後頭部に強い衝撃を受けた。私は、気を失って、汚れたアスファルトの路上に顔を付けて倒れた。


 気が付くと、私はまだ、路上にいた。頭がずきずきと痛んだが、何とか立ち上がり、顔についた砂利と服についた埃を払い落した。チンピラはいなくなっていた。時計を見ると、30分ほど経過していた。本当に人気のない道なのか、酔っ払いか何かと思われたのかもしれない。誰も救急車を呼んではくれなかった。だが、病院に搬送されれば警察に事情を聴かれかねない。

 世間の冷たさを嘆くほど若くはない。私は、不幸中の幸いと思い、頭が痛まない様にゆっくりと歩いて車に戻った。車も無事だった。


 事務所に、私への暴行について報告すると、調査は中止になった。依頼人には連絡がつかなかった。


 契約の期間が過ぎ、私は報告書をまとめて依頼人に渡そうとしたが、連絡先に電話をしても、やはり繋がらなかった。事務所に確認すると、見積もりの料金は振り込まれていた。1週間程度、予定より短い調査期間となったが、私が頭の怪我で病院へ行っていれば、受診料で見積もりより多い請求額になっただろう。私は頭の怪我で病院には行かなかった。事務所も料金の額については何も言わなかった。これで、依頼人から連絡があれば、報告書を渡せば済む。

 報告書には、地元暴力団の徘徊と私への暴行も含め、事実をありのまま書いた。チンピラに調査依頼を漏らしていない事を報告する必要があった。それでも何かあれば疑われるかもしれないが、他に仕方がなかった。事務所は、流石に怪我の心配はしてくれたが、それ以外は報告書に対して何も言わなかった。


 仕事は終わった。だが、いつもの悪い癖が出た。

 私は、まだ、依頼人に会っていない。

 依頼人は、松山洋一、47歳。事務所からの書類には、調査対象者ではない為、5年前の傷害事件については何も書かれていなかった。5年前に傷害事件を起こし、相手に重症を負わせているのだから、最近の出所でもおかしくはない。被害者への補償を行っていなければ、調査依頼をする貯金が残っていたかもしれない。だが、普通は生活費に充てるだろう。

 彼は、いつ出所し、どの様に生活し、何故この件を依頼してきたのか。探偵事務所を気楽に利用する者はまずいない。

 調査対象者のアパートは危険で、もう近寄れない。私は、依頼人の身辺調査を行う事にした。


 依頼人が調査依頼に際して申告した住所は虚偽ではなく、質素なアパートの部屋番号のポストの蓋には松山の苗字が書かれた紙が入れられていた。調査対象者の住所からは電車の駅で5つ以上離れ、市も隣だった。

 私は、仕事の合間、朝と夜に、松山のアパートの近辺に通い続けた。

 松山は、朝、肩掛けカバン一つで、徒歩で最寄りの駅に向かい、そこから会社の送迎用のマイクロバスに乗っていた。車で尾行すると、マイクロバスは、海沿いの工場地帯にある工場の敷地へ入って行った。

 松山は、週5日、その工場に真面目に出勤し、いつも夜7時にはアパートに帰って来て、遊び歩いてはいなかった。しかし、車も持たず、アパートの玄関の周囲にも物はなく、仕事以外の生活が伺えず、やはり普通ではなかった。だが、暴力団員や怪しい者が徘徊している様子もなかった。

 松山の風貌は、食が細いのか痩せていて、神経質な顔、眼鏡をかけ、頭には若白髪が目立った。夜は寒いのか、ブルゾンのポケットに両手を入れて、背中を丸めて歩いていた。いつも険しい顔で、優しい表情は見られなかった。何か思い詰めているのは明らかだった。


 ある夜、松山のアパートを遠くから伺っていると、いつもの時間どおり、松山が会社から帰ってきた。

 いつもとは違って、今夜は来客があった。私ではない。50代頃の男性が一人で、松山のアパートの前で待っていた。仕立ての良い派手なスーツと高そうなコートを着て、ごつい高級時計で時間を気にしていた。一見して、まともな稼業の人間ではなかった。男は松山に気づくと、近くに来るまで待っていた。顔は嫌味にニヤついていた。松山が十分、近くまで来ると男は言った。

 「松山、お勤めご苦労さん。工場の方じゃねえ。刑務所はどうだった?」

 松山は、悔しそうな顔をしたが、それでも答えた。

 「俺は何もやっていない。行きたければ、お前が行けば良かった。」

 男は笑って答えた。

 「じゃあ、なんで何も言わなかった?冤罪なんだろ?」

 「怪我もしていないのに、何で全治3週間の診断書が出たんだ?俺はお前に触ってもいない。医者までグルとはな。でも、大した事じゃない。どこか他でも聞いた話だ。あまり自分を大物だと思うな。」

 男は、松山に怒らされた。

 「俺が、大物じゃねえだと?お前に言われる筋合いはねえよ、エリート君よ。お前、昔と全然、変わらねえな。もう一回、刑務所行ってきたいのか?」

 「お前をバカにした罪でか?お前は知らないだろうが、そんな罪はないんだよ。間抜け野郎。」

 話の成り行きからすると、男は暴力団の幹部だろう。と言っても、地元暴力団がせいぜいだろうが。それでも、れっきとした暴力団員に、この態度は立派としか言いようがなかった。

 松山が笑って言った。

 「出世した姿を俺に見せに来たのか?随分、おしゃれしてるな。俺にはそんな趣味はない。」

 「へえ、刑務所でも、もてなかったのかい?」

 松山の顔色が変わった。形勢が逆転したらしい。

 「お前の昔の女の下の子は、俺の子なんだぜ。知ってるんだろ?」

 松山は黙って男を睨みつけていた。男はニヤニヤしながら言った。

 「知らないはずがねえな。女からの手紙だ。喜んで刑務所の中で読んだだろ?絶望するとも知らずによ。あれは俺が女に書かせたんだぜ。」

 男は声を殺して笑っていた。周囲を気にしなければ、きっと酷く下卑た声で笑っていただろう。

 「自分だけが、頭がいいと思うなよ。皆、お前に頭に来てたんだぜ。そんなお前を見事に嵌めて、他の奴らの人望で成り上がった。お前に感謝するよ。お前に馬鹿にされた事も含めてな。」

 松山が黙っていると、男は松山のすぐ近くに顔を寄せて、凄んだ。

 「何で、刑務所から出て、女の近くに住んでるんだ?もっと遠くでいいはずだろ?お前が近くで、チョロチョロすれば、俺が黙っているはずがない。お前、分かってただろ?」

 松山が黙っていると、男は満足した様な表情になり、話を続けた。

 「お前、自分で雇った探偵を殴って気絶させただろ?口封じになるし、警察を呼ばれたらまずいから、こっちも逃げなくちゃならねえ。いい手だが、うちの者も馬鹿じゃねえ。そいつの懐からお前の住所を書いたメモを見つけたって訳だよ。頭のいいつもりが、自分で自分の首を絞めたな。策士、策に溺れるか。よくある話だな。」

 松山は黙って男を睨みつけていた。私にはなぜか松山が冷静に見えた。だが、男にはそうは思えなかったらしい。得意の絶頂となり、調子に乗って話を続けた。

 「松山、一体、お前、何を考えてるんだ?俺に会った時から、お前は俺に負けてるんだよ。お前風情は、俺の世界のたったの一部なんだよ。分かったか?それとも、また、女を妊娠させられたいのか?」

 松山は、何かを握った片手をポケットから出し、男の喉に下から押し付けた。

 男は、松山の目を見ながら、顎を上に反らせて言った。

 「よせ。」

 車のドアを閉める様な、こもった音がして、男の頭が一瞬、膨れ上がって割れた。

 男は地面に崩れ、足が痙攣して無作為に動いていた。

 松山は、男の血を浴びて立っていた。顔にかかった血を片手で拭った。男の顎に押し付けた方の手は、下に下げられ、拳銃が握られていた。銃に何か細工をしたのか、発砲音には全く聞こえなかった。

 私の心臓は早鐘の様になり、頭はズキズキと痛み、気持ちは逃げたいと叫び、脳も私にそう命令を出していた。

 だが、私の足だけは別人の様に、松山の起こした惨状に、よろめきながら向かっていた。

 近づいてきた私に、松山は気づいて顔を向けた。私に拳銃を向ける様子はなかった。私は言った。

 「あんた、一体、何をしてるんだ?」

 松山は、もう一度片手で顔を拭うと、アパートの敷地を囲う低い塀の上に座った。傍らに、握っていた拳銃を置き、両手をそれぞれ左右の膝の上に乗せ、顔を下に向けた。走った後の様な、心臓が苦しい様な息をしていた。そのまま、暫く、黙っていたが、頭を上げて、私の顔を見て言った。

 「あんたか。悪かったな。」

 思い出した事がそのまま口に出ただけの様だった。私を殴った事か、殴った時に自分の住所を書いたメモを私の懐に忍ばせた事かは分からなかった。エリートでもエースでもない私でも、流石に、依頼人の個人情報を裸で持ち歩いたりはしない。

 いずれにしろ、私の質問の答えにはなっていなかった。松山は答える気などないし、そもそも、質問も届いている筈がなかった。私は私で自分が何を言っているのか分かっていなかった。

 だが、松山は全て答えた様な様子で立ち上がり、私に向かって離れろと言う様に手を振り、反対の手でブルゾンのポケットから何かを出していた。

 ナイフだった。

 私は、拳銃とナイフを持っている男に逆らう気はなく、数歩、後ろに下がった。その時に転ばないで良かったと、なぜか後になってよく思い出した。

 私は何も言えず、松山を見ていた。

 松山は、暫くナイフの先を上に向けて持っていた。何を考え、何をしているのか分からなかった。ただ、息を整えているだけだったのかもしれない。

 松山が上を向いた。夜空に月が出ていた。上を向いただけだったのか、月を見るともなしに見たのだろうか。

 ナイフを横に一振りし、松山は自分で自分の喉を裂いた。首から血が噴き出し、松山が後ろ向きに地面に倒れた。血は放物線を描いていた。

 信じられないが、私は冷静に、血を浴びない様に松山の出血が収まるまで暫く待っていた。松山が拳銃で頭を吹き飛ばした男と松山が倒れた場所が離れていて良かったと思った。

 足跡を残さないように、血を踏まない様に出来るだけ松山に近づくと、松山の口が動いていた。松山が何か言っていた。私は耳を出来るだけ松山の口に近づけた。

 「あいつの世界を壊してやった。」

 私には、松山が酷く小さい声で、そう言った様に聞こえた。


 事件後、暫く経って、真夜中、私は新聞の切り抜きを眺めていた。

 松山の事件について、警察は私の所には来なかった。私は、警察に何も報告せず、通報さえしていなかった。証拠は全て現場に残されていたので、どちらも必要がなかった。

 ただ一つ、松山と松山が殺害した暴力団幹部の関係が分からなかったが、新聞が後日、報道した。

 松山洋一は、殺害された暴力団幹部、亀山勝に、正社員として働いていた会社を企業舎弟にされた際に恨みを持ち、亀山に重症を負わせる傷害事件を起こし、服役した。その出所後に、亀山をモデルガンを改造した拳銃で殺害し、その後、犯行現場にて自殺したと書かれていた。

 警察は、亀山が暴力団員であり、かつて松山が働いていた会社を企業舎弟にした事実を新聞に発表したが、それは傷害事件の冤罪を誤魔化す為なのか、松山が事件を起こした動機を公にして世間の同情を集める為なのか分からず、私には得体の知れないブラックジョークにしか思えなかった。

 本当の動機は何か。松山は、暴力団幹部の男が女に産ませた子供を愛する事は出来たかもしれない。真面目な性格だから、エリートだった過去を忘れ、工場勤めを続けて、女と復縁し、結婚して家庭を持ち、幸せになれたかもしれない。亀山さえいなかったら。

 亀山は、どういうつもりか、松山を自分の世界の一部に留めようとした。松山にはそれが我慢できなかったのだろう。不快極まりない事は明らかだ。

 私は、新聞の切り抜きを二つに折って、机の引き出しに入れた。

 私は良かれと思っても、今後、望まれない限り誰も、自分の世界には留めない事にした。

 意外にも、心が軽くなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! これからも投稿頑張ってください。 私も投稿してるので、読んでくれたら嬉しいです。 是非、評価、レビューも!! [一言] 評価、しときました!
2018/10/09 20:20 退会済み
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