第一章3 僕が悪いのか
家の灯りは既に消えていた。灯りは消えていたが片隅に蝋燭の灯りが揺れていた。
その灯りの近くに床に敷かれた布団。一人の男が横になり、一人の女が寄り添うように座っていた。
「――ただいま」
彼女が口を開く。
「夜遅くに勝手に出て行ったかと思ったら・・・いったい誰を連れてきて・・・っ」
彼女の母親だろうか。彼女の後ろに立っている僕の存在に気づくとその顔は一変した。
「アンタ一体どういうつもりだい?!」
当然の反応だろう。自分の娘が集落で最も重い禁忌を犯したという状況なのだから。
「――母さん・・・そこをどいて」
微かだが声が震えている。非力な彼女の声は赤子のように無力だった。
「あんたみたいな子あたしゃ知らないね!出て行き!」
――醜い一言だ。とても見慣れた、息子も家族も関係なしに、ただ自分だけが生き残ろうとした醜い行動。極力忌み子との関わりを断とうとする。
近くに横たわっていた男はこの騒ぎに一切の反応を見せない。その時既に僕は察していた。
「あなた・・・こんな夜中に騒がしくしてごめんなさいね。ゆっくり眠って・・・」
言葉が詰まった。どうやら彼女の母もそのことを察したのか。
「母さん?」
「――出ていきなさい。父を殺す娘がこの世界のどこにいますか。私はあなたのような子は知らないわ。」
その冷たい一言に自然と体が反応した。熱を持ち、細胞が喚き、頭の中が黒く染まった。
我に返った時、そこに残っていたのは、僕と僕に助けを求めてきた彼女だけだった。
その彼女は僕に怯えるようにその場から逃げ去った――
月が厚い雲に隠れ、辺りは闇夜に変わり果てている。静寂の中。また一つ何かが消えてしまった喪失感。葛藤に足掻く気力も消え、無機質な僕に戻り返る。
心の中の本能が騒ぐ。
――僕が悪いって言いたいのか。僕が来たから彼女の父が死んだと言いたいのか。僕が殺したっていうのか。
そんな忌み子を父を助けるために大きな覚悟を決めて行動した彼女が・・・
悪いって言いたいのか―――