第一章1 僕は玩具だ
―――僕は何をしたと言うのだろうか。僕が何を犯したと言うのだろうか。
この薄暗く冷たい石の積まれた牢の中で、僕は何度この言葉を連ねただろうか。
虚しく横たわったまま、動く気力すら起きない。
少し目を見開けば辺りは赤黒く滲み、少し体を起こせば青く変色した肌、赤く乾いた血の痕が体中の皮膚に残っている。
左右の手の指は切り落とされ、今も微量の血液が垂れ流れている。
――痛い、辛い、そんな感情は何時しか消え、無気力の自分は今を理解するのに精一杯だ。
遠くから足音が近づいてくる。鉄格子の扉が音を立て開かれる。
「――出ろ」
その一言が、僕の一日の始まりを告げる。
自ら出る気力など数年前に無くなった。それは扉の前の男も重々承知だろう。
その男は強引に腕を曳き外へを連れ出す。
外から奴らの声が聞こえる。
――嫌悪、嫉妬、侮蔑、その全てが混沌のように交わり異色を放っている。
やがて外の光に晒された儀式の祭壇に立たされる。
その光は僕を晒し一時の静寂が訪れる。
僕の全てを飲み込む無限の霧だ。その光は家族も、友人も、心も、体も、霧は僕から何もかもを奪っていった。
置き去りにされた僕の無気力な心は、何もかもを諦め、挫折し、虚空と化して玩具のように無機質で、奴らの欲望のままに踏まれ、蹴られ、殴られ、切り捨てられる事だろう。
「――今日は右手を落とす」
集落の長が一言発し、ふと右手を確認すると、そこにあるのは手を失った僕の右腕。地面には数日掛け順に切り落とされた指と血の朱色に染まった右手が転がっている。
また一つ、霧は僕の体を奪っていった―――