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魔王になりたい俺の友は善人として称えられる  作者: 狼煙
第5話 止めを刺したのはミリア
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5-⑩ 生徒会! 生徒会! 生徒会! 生徒会! 生徒会!!

 壁が崩れて、床がなくなっていく。当然机をはじめとした家具や私物も重力法則に従い、落下運動を開始、全てが地面に吸い込まれていく。

 もちろん、ヴァンの部屋で呆気に取られていたグレイもだ。


「なんでえええええええええええ!」

「グレイ!」


 しかし間一髪、ヴァンがグレイの手を掴む。そして即座に簡易魔法を展開。空中浮遊のための空気の壁を展開する。

「グレイ、お前も魔力を放出しろ! 簡易魔法では長時間もたない! 今から上級魔法を組むから、お前がこの結界を維持しろ! お前程度でもないよりはましだ!」

「へいへい分かったよ!」


 ぶーたれながらも言う通り簡易魔法を展開、ヴァンのものと比べると規模は小さいがそれでも2人が入ることが出来るくらいの風の結界を作ることが出来た。

 墜落していく瓦礫、陥没して遂には穴が開く地面。宇宙に存在するブラックホールがごとく、全てがそこに飲み込まれていく。


「何でこんなことに……!」

「はっ!? これで俺は学生寮を破壊した犯人、即ち絶対的なる悪人! これで魔王への第一歩を歩むことが……!?」

「完全復活おめでとう! でもバカか!」


 上級魔法をくみ上げたのだろう、グレイの両腕にかかる負担がかなり軽くなった。その自由になった腕でヴァンの脳天に攻撃を加えた。


 グレイがヴァンに放った一発は大したことは無かったが、学生寮はその真逆に破壊が氾濫していた。

 古びた外観はもはやどこにもなく、いくら日光が注がれても最早影すらできない。

 いや、正確にいえば影は出来ていた。そこいらに転がる建物だったもの、無数の瓦礫が降り注いだことにより、窪んだ巨大な穴。その中にも光は届いているはずなのに、果てしなく深いためか、底が確認できない。


 まるで虚無がそのまま現れたかのような、深い穴に学生寮の大半が吸い込まれた。どこかぞっとした思いをグレイとヴァンは感じた。

 その思いを抱くとほぼ時を同じくして、聞こえてくる声があった。2人にとって聞きなじんだ生徒会員の声。


「会長! せんぱい! 何ですか何ですか何ですか! いったい何があったんですか! また何かしたんですか!」

 駆けつけてきたミリア。その後ろには授業の時間ではあったもののさすがの異変だったからか、多くの人魔が駆けつけている。学校関係者、教員、おおよそヴァルハラント学校関係者すべてがここに来ていた。


「学生寮が……!」

「俺たちの家が……!」

「もしかしてこれを会長と副会長が……!?」

「そうだ! ヴァルハラントの諸君! これは私がやった! 皆が住むべきであるはずの宿舎を、思い出が詰まった場所を破壊したのはこの俺、ヴァンだ! 憎め! 恨め! 呪え! 怨念を捧げよ!」


 両手を広げ、まるですべてを受け入れる様に、構えるヴァン。「また始まっちゃいましたかー」と珍しく小声でつぶやいたミリアが、群衆の中から何歩か踏み出してくる。


「会長何言ってんですか! またツンデレですか!」

「ツンデレではない! これはいわば告白! 供述! 自らの罪を認め、それを皆に認めさせるために行っていることよ!」

「そうは言いますがきっと何かあるんでしょう! もったいぶらずに教えてくださいよ!」


 一歩前に踏み出したミリア、そのとき偶然だが、足元にあるコンクリートの塊を蹴飛ばした。

 そこまで大きいわけではない塊は勢いづき、地面を転がっていく。その到達先は穴の中。

 やがて落下。下にいるものに衝突した。



 ブルウゥゥゥゥアギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!



 聞いたこともない咆哮。

 おおよそこの世の生物とは思えない、異音の雄たけびが響き渡る。

 当然至近距離にいた学生、学校関係者全てが耳を瞬時に抑えて少しでも軽減を図る。


 そして暗闇の穴から現れる見たこともない生物。

 四つ足の、全身が金色の毛皮で包まれた獅子とも猿とも言えない獣。全身から魔力を放出しているのか、空間が歪んでいるかのように見える。

 そしてそれが断末魔の叫びとなった。

 身を起こしたそれの目は光を失い、閉じられた。やがて激しい音を立てて、穴の中に倒れ伏した。


「今のなに……化け物……!?」

「あんなの見たことないぞ……!」

「間違いない……! あれはツカッガ・サア! かつて魔王と覇権を争ったと言われる、伝説の魔獣の一匹だ! この近くに封印されているって、魔王研究員の俺の親父が言ってたんだけど本当だったんだ!」


「え」

 ヴァンの一声はグレイにしか届かなかった。群衆は群衆で聞こえた部分を、即ち魔王に匹敵する魔獣の件を語り始める。


「でももう死んだぞ!」

「恐らく攻撃が効いていたんだ! 考えてみれば学生寮がぶっ壊れるくらいの激しい攻撃! それにはさすがの魔獣も耐えられなかったんだ! そこをヴァレスティンさんの一撃が止めとなったんだ!」

「そうか……ヴァン会長はこいつとの死闘のために、仕方なしに学生寮を破壊したんだ! そしてその責を自分一人で負おうとして! だからあんなことを! また栄光は皆に与えて不名誉だけをもらおうとして!」

「しかもこんなあたしに名誉を与えるためにあんな演説を……! 会長……! あなたって人は……!」


 ヤバい。

 古来からの使い方の意味で、ヤバい。

 ヴァンの本能が、経験が叫び始めた。これ以上喋らせてはいけない。絶対悪夢への直行便と化す。


「いや、あの皆ちょっと待って! ねえお願いだから! 俺の話聞いて! ね! 皆! 俺のこと好きなら聞いて! 今聞いてくれたら握手でも何でもするから!」

 だがこの願いが届くものはいない。感動、感慨、感銘に征服された世界に、ヴァンの声は『いつものこと』として認識されてしまったからだ。


「生徒会の連携が俺達を! 学校を! 世界を救ってくれたんだ!」

「あんたはどこまで英雄になる気なんだよぉ! これじゃあ……これじゃあ俺達が凡人すぎるだろおぉ! くそぉぉぉぉぉ!! 嫉妬すら起きねえよおおおお!!」

「俺たちは歴史の証人になったんだ……! 伝説を目撃しているんだ……それも生きて進化していく伝説を……! 足が自然と震えてくるよ……!」


 幾たびと繰り返されたこの光景、ここまで流れてきてしまえば万策尽きた。もはや何を行っても無行動と同等だ。

 ヴァンの肩に手が置かれる。その手は温かく、先ほどまでヴァンを心配しながらも喧嘩した手。その主の名は


「グレイ……」


 ゆっくりとヴァンは振り向く。呼ばれたグレイの顔は穏やかだった。それがヴァンの涙腺を緩めていく。それをグレイも分かっていたから優しさに満ちた声で言った。

「……泣いていいぞ」

「グレイ……!」

「……まだ部屋を出てないしな」

 それが決め手となった。ヴァンの感情は決壊した。


「……グレイいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃ!」

 グレイの体に顔をうずめヴァンは、泣いた。そんなヴァンの背中をグレイは軽く叩いてやる。


 しかしそれは遠くから見ている群衆からでは、

「生還を喜び合う英雄たち」

 という一枚の絵にしか見えない。

 だから盛り上がりも最高潮に達した。

 喝采が、絶賛が、賛辞がこの空間内を支配していく。そしてやがてそれは1つの掛け声を呼び起こす。必然にして、単純で、明快なものを。


「生徒会! 生徒会! 生徒会! 生徒会! 生徒会!! うおおおおおおおおおお!!」

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