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魔王になりたい俺の友は善人として称えられる  作者: 狼煙
第1話 魔王になろとしたのはヴァン
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1ー⑦ ヴァンの奴が一番成長することがねぇよ

 煙突の様な鉄の塊が学校から突き出ている。ミリアはそう言っていたが、確かにそうとしか言いようがなかった。

 黒く塗装された砲身の先端は、まるで天を刺すようにそびえ立っている。煙突と違っているのは頂上から煙も何も吐き出していないことと、突端に照準である出っ張りが付いていることだ。それ以外はただの鉄の塊でしかなく、現在はただただ沈黙し続けている。

 それを見る群集は、口々に何かを言って喧騒を作り出している。


 その中にミリアとグレイはいた。片方は呆れ、もう片方は期待に目を輝かせていて。

「あいつ……またへんてこなものを作りやがって……」

「確かに変わってますね! これで今回はどんなことをしてくれるんでしょうかね!? きっと素晴らしいことに間違いはないですけど」

「……ろくでもないことだろうな……」

 いい加減いやになってきたのか、グレイはその場にしゃがみこみため息をついた。ミリアはそれを見て首を傾げた。

「せんぱいどうしちゃったんですか? お金でも落としたんですか? それとも珍しい虫でもいましたか?」

「……気落ちしちまっただけだよ」


 ミリアのすっとぼけた質問に多少の疲労感を感じながら、グレイは返答だけはこなした。しかし、それはミリアの疑問を解消するには至らず、更なる質問を呼ぶ結果となった。

「気落ちって……何でですか? これから会長が、あの煙突を使って何かすごいことをしようとしているんですよ?」

「ああ、そうだな」

「だったらどうして気落ちするんですか! いいことじゃないですか! そういう場合はにっこり笑って喜びを表すべきなんですよ! ほーらせんぱいも笑って笑って!」

 何度と見てきた顔、本人を前にしては言えないがグレイの好きな顔、ミリアの笑顔を向ける。ヴァンの件が無ければ、もう少しグレイの胸もときめいただろうが、そんな気分になれない。


「にっこり笑って、ねぇ……」

 グレイという人間は決して感情に乏しい人間ではない。むしろ、かなり感情表現は豊かな方だ。

 だから、笑う時には笑い、怒る時には怒る。己から沸き上がる気持ちを素直に表す。自分を偽るのをグレイは苦手としていた。

 故にグレイは笑わない。今は笑える要素を持ち合わせてはいなかったため。


「……ん~? せんぱい? …………! あ、あああ!!」

 いつまでたっても笑わないグレイに不審なものを感じたミリアは、やがて雷に打たれたように体を震わせた。

「そうか……そういうことだったんですね、せんぱい! 全て分かりましたよ!  一切合財含めた森羅万象の全てが分かりました!」

「……何が分かったって?」

 たぶんミリアは何も分かってはいない。グレイはそう確信していた。

 それは長年の付き合いから来る経験。ミリア・ヴァレステインという女性は頭がいいが、頭が悪い、それをよく分かっていたからである。


「せんぱいは……せんぱいは会長に嫉妬してますね!」


「……………………はぁ!?」


 確かにグレイは、すっとぼけた答えが出てくることを予想していた。しかしこれは度を過ぎていた。全く想像外の答えから、グレイは思わず変な声をあげた。

「だってだって! 会長が正しい行いをしようとしているのに、せんぱいはちっとも嬉しそうじゃない! 本来喜ぶべき場面で喜ばないなんて、嫉妬以外無いじゃないですか!」

「あのなぁミリア……」

 言葉を紡ごうとして、グレイは多少詰まった。


 果たして何といえば彼女は納得するのだろうか。というか納得することなどあるのだろうか。そのような疑問が今更だがグレイの心中を渦巻いていた。

 しかしミリアは逆だ。言葉を止めることなどなく更に継いでいく。

「せんぱい……確かに分かりますよ、その気持ち! 会長はすごくて格好よくて偉大な人で、自分なんかじゃ到底追い付かない、雲上人みたいな存在の人だっていうその気持ち!」

「思ってたまるか! 確かに色んな点で奴に負けてるが、俺はあんなにぶっ壊れちゃいねえ! 少なくとも常識を併せ持っているつもりだ!」

 グレイの魂の叫びにも似た声だが、ミリアはそれを聞き流した。


「でもせんぱい! 人は……人は嫉妬の心に負けちゃいけないんです! 人であるからには、そういう嫌な感情があるのは仕方ないと思います。でもそんなものはぐっと胸の中にしまい込んでおいて、祝う時は祝うべきなんです! 人を呪わば穴2つ、というじゃないですか! そういう嫌な気持ちていうものは、いつか巡り巡って自分のもとに帰ってくるんですから!」

「人を呪わば、て……お前そんなんあるわけ無いだろ」


「いいえ、あります! 情けは人のためならずって言葉もあります。人っていうのは、いいことをしてこそ何かがもらえ、成長していくものなんです! だから悪いことをしても何も成長できないんですよ!」

(だったらヴァンの奴が一番成長することがねえよ)

 この突っ込みは完全に通じないとグレイも判断したため、心の中だけでしておいた。さらに、ミリアは続ける。


「だからせんぱい! 辛いのは分かりますけど……ここは会長を祝福して下さい! 妬ましいっていうのは分かります! 会長は皆の注目を集める、とんでもない魅力を持っていますよ! そしてそんな会長に対して劣等感を持つのは、ありますよ! あたしだってその感情はありますから! でもせんぱいには乗り越えてほしいんです! そういったつまらない感情なんかに流されないで、堂々としていて下さい!」

「ミリア、お前なぁ……」


「せんぱいが……せんぱいがどうしても誰かからの注目が欲しいなら……ずっとあたしが見てますから……」


「っ!?」

うつむき、小声での喋り。普段のミリアと全く違う態度に、グレイは自分の心が動いたのを感じた。


「それとも……あたしじゃ不満ですか……? あたしじゃ駄目なんですか……? 誰から見られてたらいいんですか……?」

「あ、いや……」

そんなことはない、とグレイは言いたかった。だが、言えなかった。

恥ずかしがり、迷い、戸惑う心がそれを邪魔していたからだ。

それでもミリアは、グレイの答えを聞きたかった。

言い淀むものと聞きたがるもの。その瞬間どちらも、お互いのことしか目に入ってはいないし、気づきもしない。

故に2人はすぐには気づかなかった。

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