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魔王になりたい俺の友は善人として称えられる  作者: 狼煙
第4話 妙な奴に気に入られたのはグレイ
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4-⑱ 私が悪であることを。魔王になろうとしていることを

 その紙には文章、絵、がいくつも添えられていた。かなり細かく書かれているため、一見すると何が書かれているか分からない。それを自覚していたジウソーは解説を始めた。


「隕石落下のときの気象情報を、私は徹底的に調べた。在野の学者、民間研究所、国立天文台。全てを調べ切った。その結果、あの日、事前に隕石が落ちてくると掴んでいたところはない。直前になってやっと分かったのだ。国や専門家が知らなかったものを一学生風情が把握できるわけがない。つまりあれは偶然の産物なのだ」

(そうなんだよ! 俺も何もないと聞いていたから実行したんだよ! それがあんな目に! あんな不幸に!)


「次のバースに戦いを挑んだ件だが、あれも全くの曲解が入ったものだった。調査の必要すらない。ただの喧嘩であったものが、不良に改心をさせるための正義の戦いという様に変換されていた。質の悪い熱病にかかったようなものだった」

(全く持ってその通り! ふつうそう思うよなぁ!? 喧嘩して勝った相手を怖がるはずだよなぁ!? そんな壮大な計画なんか立てるわけないよなぁ!? それを観衆は! 聴衆は! 大衆は!)


「そして今は一時的に止められているが、貴様が行った詐欺まがいの善行がやがて出版される。お前にとって屈辱そのものであり、最も嫌っていることだ。それゆえそれを仕組んだ友への仕返しとして、下らぬ映像を編集、放映している。内輪もめとは見苦しいことこの上ないな」

(ああ! ジウソー! 君は何が欲しい!? 何でもくれてやるぞ! 金でも物でも地位でも何でもくれてやるから、だから、だからもっと言ってくれ……! だからもっと悪として見てくれ……!)


 今この2人の様子を例えるなら、容疑者と捜査官が最も近いだろう。

 発生した事件を取り調べる警察のそれが最も近い現状、事実を分析し、それを犯人の前に突きつけて、自白を引きずり出そうとしている。

 しかしそれのあるべき姿との乖離が、ジウソーの心の平穏を掻き乱した。

(何故だ!? 何故図星を突いているのにこいつは笑っていられる!? 虚勢を張っているのか!?)


 通常、心を持つものは自分の心を看破されると動揺が現れる。

 大なり小なりこそあるものの、無反応ではいられない。そしてヴァンもまた感情と別居している人族ではないのは確認している。これまでの彼を徹底的に調べてきたジウソーにはその自負があった。


 しかしそれならば現状はどう説明すればよいのか。

 口撃は次々と成功している。真実を、事実のみを追及し続けているはずなのだ。

 それなのに顔色すら変わらない。ますますヴァンの喜色が深まるだけだ。


(まさか私はトンでもない思い違いをしているのか……? 私はヴァンが悪を働こうとしながらも善に転ぶことを利用して、自らの名前を売ろうとしているのだとばかり思っていた。だが、もしかしたら本当の本当はヴァンはいい人族なのか……? だから勘違いの暴走している私を見て、ヤンチャな息子を持つ母親がごとき視線で私を見ているのか…?)


 自らが考えた未来予想図から外れたことにより、ジウソーは混乱し、思わぬところに着地してしまった。ヴァンにとって最も避けたかった事態に到達してしまったのは皮肉という他ない。

 しかし避けたかった事態ゆえに、ヴァンは敏感にもなっていた。攻撃が緩んだことに加え、動揺に満ちた顔からヴァンは失策を犯したことに遂に気付いた。


(しまった! 舞い上がり過ぎた! 俺が笑ってばかりいたからジウソーが混乱している! 今正さねば最悪の事態になる!)


 打開策は何か。何が原因でこれが生まれ、何を取り除けばいいのか。ヴァンの思考は最高回転を始めた。


(こいつは困っている! それは俺があるべき姿を取らなかったせいだ! 自らの正体を暴かれそうになり焦らなければいけなかったんだ! 追いつめられる人族としてあるべき姿ではなかったせいで困惑しているのだ! くそ! ヴァン・グランハウンド! 貴様はどうしようもないアホだ! 折角掴んだ好機を手放すところだったんだぞ! だがそれならまだ打開策はある!)


 現実とのずれがそれを生むなら、それを無くせばよい。

 だからヴァンは観念したかのように息を深く吐き、椅子に体を預けた。


「……よくぞここまで調査しましたな……」

「……認めるのか? 自らが悪であることを?」


 疑問文で聞きながらジウソーの胸に安堵感が広がっていくのがヴァンには分かった。多少奇妙な光景を観賞しつつ、頷いた。

「ええ、認めましょう。私が悪であることを。魔王になろうとしていることを」

「……!」

 会心の笑みを体現するジウソー。内心の疑惑疑問が変形して、満足に切り変わっていくのがありありと伝わってきた。

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