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魔王になりたい俺の友は善人として称えられる  作者: 狼煙
第2話 不良と喧嘩したのはヴァン
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2-⑱ だってヴァン会長だもん

 本日2回目の校庭の砂を巻き込んで上がった爆煙は風によって払われ、徐々に晴れていく。

 先に姿を現したのはヴァンだった。2本の足で立ち、肩で息をしながらだが。

 咄嗟に簡易魔法の防御を展開できたため、直撃はしなかった。だが制服やマント、体の一部は所々が焼け焦げてボロボロになっている。


 ヴァンに遅れて数瞬、少し離れたところにバースも姿を現した。

 地面に大の字になって倒れている。

 呼吸はしていることが胸の上下運動で分かるが、大けがを負った様であった。服がちぎれ飛びあちこちに血の跡が見られる。

 それを確認したためか、ヴァンの気が抜けて片膝をついて倒れかかる。


(か、勝った……)


 そこで左腕に目をやる。防御魔法を貫通して出来た傷は所々にあり、出血もしているが骨は見えていない。

 さっそく右手で簡易魔法による治療を施す。痛みこそまだまだ収まらないだろうが、これ以上悪化することもないだろう。

 と


 バッ!


 ばね仕掛け人形みたいにバースが跳ね上がった。

「なっ……!」

 驚きの声を上げたときにはバースは既に直立の姿勢を取っていた。顔は多少俯き加減である。逆にそれが不気味さすら感じさせる。


(まだ立ち上がれるのか……)

 電流が全身を駆け抜けため神経系の負担がかなりある。体を動かすのがひどくキツイはずだ。

 至近距離での爆発は防御魔法を張る隙間も時間も与えなかっただろう。事実損傷は離れていたときでさえ確認出来た。恐らく手当が必要であるはずだ。

 しかしバースは立ち上がっている。しかも歩調こそ緩いものの、ヴァンに向かって歩を進めてきてもいた。


「へ、へへへ……」


 含み笑いを漏らしつつ、ゆっくりと顔を上げてくる。

 ヴァンはもう気力で立っている。反撃は出来ない。

 バースが顔を完全に上げたとき、声と同じ笑みが張り付いていた。


「俺の負けだ」


 それを言ったのが引き金となったのか、バースは仰向けに倒れた。

「へ……?」

「ちっくしょう! 電撃までは読んでたんだよ! 水路近くに来たとき、こいつは雷的なものが来るな、とは分かってたんだ! でもまさか水素と酸素出してくるなんて! あの混合物爆破までは見切れなかった! あー、くそ悔しい!」


 キョトンとしたヴァンを無視し、とは言っても意図的ではなく、自分の言いたいことだけ言っているために起こったものだが、バースは喚きだした。


「だが負けは負けだ!これ以上は言い訳しねえ!」

 寝転がった状態で足を頭に届くまで曲げ、一気に振り下ろす。その反動でバースは起き上がった。その速さときたら、最初の時から全く衰えていない。


「おいちょっと待て、全くの健康体のくせに何が負けだ……!」

「キバット! そしてお前ら! 見ての通りだ! 俺の負けだ! 俺は負けた!」

 観衆に向かって振り返りながらバースは訴えた。正確に言うならば、観衆の中にいる、キバットとバースの部下達に向かって、だ。


「力あるものが上に立つのが俺達の流儀、ならば俺達の上にいるべきは誰か! 俺に勝ったヴァン・グランハウンド生徒会長こそが相応しい! だろ皆!」


 バースに異論を挟むものはいない。それどころか方々から肯定の合図が上がる。

「えっ、ちょっと待って嫌な予感が」

「なら決まりだ!」

 ヴァンが何かごちゃごちゃ言い出したがそれをバースは遮った。拳を高く掲げ


「今日をもって、俺達全員はヴァン・グランハウンド生徒会長に忠誠を誓う! 俺達は生徒会長さんの剣であり! 盾であり! その上で学校生活を送ることをここに宣言する! それが俺達の償いだ! 異議の無い奴、拳を掲げろ! 雄叫びを上げろ!」


 腹の底から放出される賛同の大合唱は地鳴りと似ていた。周囲の家屋の窓を震わせているのではないか、事実学校の窓の何枚かは振動していた。

 いずれにせよヴァンは不良集団の頭目に足る存在として認められたのは確かだ。


(ま、ま、またしてもかっ!)

 ここに至ってヴァンは自らの策が裏返ったことを自覚せざる得なかった。計画通りなら、恐怖と嫌悪という冷遇が待っていたはずなのに。


(だ、だが、結果的には同じ! 不良軍団を制した俺は強大な力を持つことが分かったはずだ! 誰しも恐怖と同居出来ん! 即ち俺は怖がられ、魔王となれる!)

 希望を持って群衆の方へと視線を向ける。それに称賛のまなざしで返された。


「ただ力で倒すだけじゃなく相手を仲間に取り込んでしまうなんて……」

「故人曰く、王者の徳をもって相手を信服、共存することを王道と言う。そしてそれこそ世の理想であるというけど……まさにそれを体現したわけだ」

「会長……! そんな深謀遠慮が……!」

「なんでじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヴァンの絶叫は大観衆の中でもかき消えなかった。これだけで察するものがあるのだが、それを正確にくみ取れたのはグレイくらいだ。


「待て! おかしいだろ! なぜ誰も怯えない!? 俺は強いんだぞ! こいつより! 他の誰より!」

「それは誰しも認めてるよ!」


「お前らは不死身じゃないんだぞ!」

「そんなん当たり前だろ」


「だったら俺はお前達の命だって奪っていくかもしれないんだぞ!」

『いや、それは無いよ』

「何故だぁ!」

 その場の全員からの合唱に、ヴァンは率直に絶望した。


『だってヴァン会長だもん』


 そしてさらに奈落に落ちた。

「いくら強くてもヴァン会長が暴力を振るうわけないし」

「隕石の時だってあんな不思議な演説をして、皆が勝手な行動を取らないようにしていたし」

「今回だって『強い』とは証明されたけど、『怖い』と証明された訳じゃないしな」

「そんな会長がうちらに害をはたらくわけないじゃないですか」

「なまじあっているだけに否定出来ないぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!」


 涙混じりで叫ぶヴァンの肩に手が置かれる。振り向いた先にはバースの爽やかな笑顔がそこにあった。

「会長さんよ! あんたはすげえ人だがどうにも恥ずかしがり屋だな! 素直になろうぜ! 褒められたんだ喜ぼう!」

「お前もお前だ! 何が『俺の負けだ』だ! 全然通常状態じゃないか! 対する俺の体はボロボロだ! それで何が負けだ! 言ってみろ! 何が負けだ!」

「心が負けた! 俺は今まで色んな奴に叩き潰されたけど、気を失ったのは初めてだからな。俺の自尊心を打ち砕いた。だから俺の負けだ!」

「実力ではお前の勝ちだろおぉぉぉぉぉぉぉ! だからお前の勝ちだろおぉぉぉぉぉぉ!」


 ヴァンの本心、願望、嘆きなどが密封された言葉は、完全仕様だったようだ。その感情のうちどれか一つも伝わっていない。

 それどころかバースにはそれが強敵への称賛であると捉えられた。バースの顔に苦笑いじみたものが浮かぶ。


「素直じゃねえな生徒会長さんは。だったら素直にさせてやるまでか! お前ら!」

『へい!』

 バースの一声で包囲網が崩れた。大多数の生徒が、バースの子飼いの生徒達が小走りでバースとヴァンのすぐ近くまでやってきた。

 そしてその複数が

『失礼します!』

 ヴァンの体を担ぎ上げる。


「な、何をする!」

「お祝い事のときは何するか知ってるかい? こうするのさぁ!」

 その体を投げ飛ばす。上空へ。

 数秒の上昇、静止、落下という物理現象を経験した後、それは再び繰り返される。


「やっぱお祝い事は胴上げしなくちゃな!」

 かけ声を上げながら何度となくヴァンを放り上げる男達。それはバースの内心に満足をもたらしたものであったため、まさに呵々大笑となった。

 そしてそれをお裾分けしたくなった。だから彼は群衆に向かって呼びかけた。


「みんな来い! 強者を! 俺に勝った奴を! ヴァン生徒会長を! 称えようぜ! それに今なら胴上げにかこつけて触ることも出来るぜ!」


 これはどこを切り取っても効果がある言葉だらけだった。

 強さに憧れるもの、ヴァンの賛美者、英雄を好むもの。

 この場にいるほぼ全ての人族、魔族の心を動かし、行動へ直結させた。

 次々とヴァンを囲んでいる円陣に近づいては、重力に刃向かう兵士となっていく。


 もちろんミリアもそうだった。そうなりたかった。だからキラキラと輝かせた瞳をグレイに向けながら、服の裾を引っ張りながら催促し始めた。

「せんぱい! あたし達も行きましょうよ!」

「……後でいいだろ。今は人が多すぎて何も出来ないしな」


 同情、ただこの一語がグレイの内心を占拠した。結局9割以上思惑通りに進みながら覆されたヴァンに対して、グレイは哀れんだ。

 ヴァンの口がせわしなく動いているのが見える。遠目から見ていたグレイには聞き取られなかったが、きっとこんなことを言っているのだろう。


「いっそ落とせええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

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