死と後悔は突然に
それは、何の前触れも無く訪れた。
誰かを救うためでも、敵を討ち果たすためでも、何のためでもなかった。
ただの事故。
人が1人死んだだけの、よくある交通事故。
もし、誰かの身代わりとなっていたのなら、死すらも誉れとなったかも知れない。
もし、国を守るためだったならば、歴史に名を残す英雄となったかも知れない。
彼は、それを望んでいた。
多くの人々を救い、国を守り、歴史に名を残して死ぬ。
それが望みであった。
だが、叶えば何でもいいとは思わない。
望みが叶った影で、多くの人々を傷付け、殺し、国を滅ぼすことに手を貸してしまっていたのなら、それは望みとは違う。
それは、彼の『正義』に反する。
罪の無いものを傷付けた結果、それで英雄になれたとしても、彼は誇りには思わない。
自分で自分を軽蔑するだろう、もしかしたら死を選ぶかも知れない。
だが、彼は死んだ。
大型トラックに跳ね飛ばされ、即死だった。
運転手は飲酒及び居眠り、おまけに薬物にまで手を出していた。
彼に非は無かった。
だが、関係無い。
そんな事は、神には関係無い。
この世界での1人の死は、神の成そうとする計画に比べれば、極小の粒子と極大の宇宙ほどに大きな差であった。